「昨日は絶対ザックスを倒した!」
賑やかな食堂で不穏な言葉を耳にしてセフィロスは顔を上げた。
クラウドとザックスの二人が、いつものように社食で話をしている。
「倒したって、夢の中だろ。」
ザックスが、俺がリアルで倒されるはずがないといわんばかりに余裕の表情を見せる。
「いや、ザックスの弱点は左斜め下と見た!」
確信したようなクラウドの発言に、思わず自分の左斜め下を見るザックス。
「それは違うぞ。」
クラウドがちょっかいをだす前にセフィロスが側に来て、ザックスに助け舟をだした。
「今ここで対決してもいいが、明日実戦があるからな。その場で見たらどうだ?」
セフィロスの提案にどよめいた周囲であった。

次の日の作戦は早朝が決行時間だった。
ミッドガル郊外にある小規模なテロ組織の拠点と思われる場所を急襲するのだ。
「セフィロス、情報は正しいのか?」
遠くから窺いながら、ザックスが聞いた。
「わからん。おれたちの組織が偵察に行くと気付かれる可能性があるから、少人数で急襲するとこにした。」
セフィロスはザックスの方は向かずに、目の前にちらっと見える建物に目を凝らした。
実行部隊の人間は全部で5人。
セフィロス、ザックスが主要メンバーであとはクラウドを筆頭とした一般兵が3人だ。
「こんな作戦に豪華メンバーだよな。」
ザックスが呟くと建物の中から人が出てきた。
「ビンゴだな。」
セフィロスの目に見えた人物の顔は、目的のテロ組織のNo.2といわれている風貌にそっくりだった。
「あの建物どう思う?」
セフィロスがザックスに聞く。
「多分、前と後ろに出入り口が一ケ所ずつ。窓は四つの壁面にそれぞれ一個ずつだ。」
俺もそう思った、とセフィロスが言って他の三人を含めて指示をだした。
「ザックスとクラウドは裏口から侵入して、中の人間を追い出すように。特に首謀者は逃げられないよう追い詰めつつ、出てこれる箇所を特定出来るようにしろ。」
クラウドが緊張した顔をして頷く。
「俺とあと二人は、正面の扉が見える場所で待機。建物から人が出てきたら迎え撃つ。
但し、俺が指示を出すまで姿は隠しておけ。
雑魚じゃなくて親玉級を捕獲するのが今日の目的だからな。」
セフィロスの指示に、4人とも頷いて所定の場所に散っていった。

建物が見える草木の影でセフィロス達は待機していた。
こういう作戦ではいつまで待つかというのが大きなポイントになる。
待ち過ぎるとタイミングを失うし、早く出過ぎても余計な事をしないといけなくなる場合が多い。
「リラックスしろよ。」
セフィロスは一般兵二人に声をかけた。
「大丈夫です。昨日夢の中でもイメトレしてましたから。」
それは安心だ、と言いつつ昨日自分が見た夢を思わず思い出した。
ー・・・昨日は・・・ヴィンがキスをおねだりしてくる夢だったよな・・・
うわっ俺すっごい欲求不満かも、と思ったら前方の建物から何人か逃げ出してきていた。
「用意してろ。」
セフィロスが指示を出して、後ろの二人が生唾を飲み込む音が聞こえてくる。
セフィロス的にちょっと手だれの者が出てきたな・・・というタイミングでGOの指示を出した。
一瞬の後に目的の首謀者が扉を出てきて、ザックスが後に続いてきた。
「はあっ!」
首謀者が武器を構える前に峰打ちにして、相手を気絶させたセフィロスだった。
「ザックス、No.2も捕らえろよ。」
首謀者を捕獲したセフィロスが端的に指示する。
「OK。今クラウドが相手してる。」
建物に戻っていくザックスだった。

無事にテロ組織の主要メンバーの捕獲を完了して、彼等を運ぶ護送車を待つ一同。
「あのさ、今日出られる合コンあるか?」
目の前のテロ首謀者の動きに気をつけながらセフィロスが小声で聞いてきた。
「えっと・・・コスタ・デル・ソル行きの飛行機に載ってます。フライト・アテンダント合コンなら。」
ザックスが携帯のスケジュール表を素早くチェックして答えた。
「出席にしといてくれ。別に遊びでもいいよな。」
「セフィロス相手なら遊びでも喜ぶ女はいるけど・・・本命はいいのか?」
「本命がうまくいってないから遊ぶんだよ。」
じろっとザックスを見るセフィロス。
はい・・・そうですか・・・と人数調整のメールを送った瞬間、
「セフィロス、後ろ!」
とクラウドが叫んだ。
くるっと振り向いて思わず腕で頭をガードしたセフィロスだったが、物陰に隠れいてた残党の太刀筋は思ったよりも重く、他のメンバーが奴を捕らえたと確認した後、セフィロスの目の前は真っ暗になった。



目を開けると眩しい光が入ってきた。
「セフィ、いきなり倒れたっていうから心配した。」
今自分がどこにいるかは分からなかったが、心地よい声のする方へ顔を向けた。
「思ったよりも元気そうじゃないか。」
「元気じゃないよ。」
自分がベッドに寝かされているのが分かって、ちょっと身動きする。
目玉を動かすと、社内の医務室のように見えた。
「どこ怪我したんだ?」
心無しか動きが鈍いのが気になったのか、ヴィンセントが聞いてきた。
「う〜ん・・・腕のこの辺と・・・」
セフィロスが派手な切傷がついてあおあざになりかけている辺りを、布団からだして指し示す。
と、・・・ヴィンセントの唇がちょっとその場所に触れた。
「・・・あと・・・額。」
彼の唇が額にまた触れる。
「あとは?」
「あとは、ここ。」
自分の唇を指し示す。
「ほんとか?」
ヴィンセントがちょっと笑う。
「ここが一番効くんだ。」
しょうがないな・・・と唇を重ねるヴィンセントに痛い腕を顧みず、思わずキスする彼を抱き締めてしまったセフィロスだった。

クラウドが今日の早朝に負った擦り傷の薬をもらおうと医務室にいったら、ザックスにとうせんぼされた。
「なんだよ、医務室はみんなの物だろ!」
「今取込み中だからダメ。」
ザックスが扉に寄っかかって、開けられないようにしている。
ー何なんだよ!
とクラウドが睨み付けていると、
「そういやお前今日暇?」
とザックスが聞いてきた。
「今日の合コン欠員が一人出そうだからさ。」
医務室の方を親指で指差してにやっと笑う。
「あっ・・・行けるよ。」
様子が分かってつられてにやにやしてしまったクラウドだった。
「そういやお前俺の弱点分かったのかよ。」
ザックスが聞いてくる。
「全然。」
とクラウドが首を振って、でもセフィロスの弱点は分かったから、と続ける。
「それは・・・まあな。」
と答えるザックスに、医務室空いたら教えてよ、と言ってその場を立ち去るクラウドだった。

【4.2.2007】
006. きのう見た夢