「波怖い?」
初めてみる海にちょっと気後れしたかのように後ずさるセフィロスに、ヴィンセントが声をかけた。
不安そうに彼を見るので、セフィロスを守ろうと側に行った。
季節は初夏。
まだ海水浴には早いのでコスタ・デル・ソルの海岸は海を目当ての観光客も少なく、閑散としていて散歩をする人がちらほらいるくらいだった。
ールクレツィアはどうするのかな。
小さいセフィロスには体調不良もあってほとんど会えずに過ごしている彼女は、今度ミッドガルに移動する子どもを連れていくのに付き添っていくのか、見送るだけなのか・・・。いまいち良く分からない。
もしかしたら、セフィロスもこの僻地へおいて宝条だけが本社に帰るのかもしれない。
ー私だって、もうオフィシャルにはこの世にいるっていう存在ではないし。
宝条に銃で撃たれた時点で死んだ事になっている彼と、妙な実験に使う子どもを孕まされたルクレツィア。
宝条を憎む理由は有り余る程あるが、今目の前にいる彼をそのまま亡きものにする程、思いやりがある終わり方をするくらいのレベルでは、二人とも彼を許していはいなかった。
ちょっと腕を揺すられて物思いから醒めるヴィンセント。
「海に入ってみたい。」
ルクレツィアの息子の小さなセフィロスが、彼を大きな目で見て、そでを引っ張る。
「一緒に行こうか。」
手をつないで波打ち際まで行くと打ち寄せられているいろんなものが砂浜に見える。
「あーーヴィンセント、これなにー!」
元生き物らしきものを手に取るセフィロスに
「それは・・・イカかな?」
どうみても頭に三角がついてる小型で多足の軟体動物だったので答えるヴィンセント。
「それよりも、海に入ってみたかったんだろ?」
セフィロスを抱き上げて。スーツのまま海の中に入っていくと大きな波が彼らを襲ってくる。
「大きな波ー!!」
思わずセフィロス守るように抱きかかえて、全身波をかぶった後宝条の声が聞こえてきた。
「出航の準備ができた。子どもを返してもらおう。」
びしょぬれの二人に、タークスの人間が近付いてくる。
「別に誘拐しようってわけじゃない。」
セフィロスを渡しながら言うヴィンセント。
離れる彼を不安そうに見守るセフィロスの瞳に、
「また会えるから。」
と言葉をかけた。
宝条の様子をみて、ルクレツィアはついていかないんだ、と思う彼にセフィロスがせつなそうな視線をなげかける。
セフィロスを抱いているタークスにちょっと、と声をかけて子どもに目を合わせた。
「セフィがどこにいても、今までのことは忘れないから。今日のことも覚えている。嫌な事があったらいつでも新羅屋敷に帰っておいで。」
優しくにっこり笑ったヴィンセントの言葉を本当にセフィロスは覚えているかどうか・・・。
成長したセフィロスが再会したヴィンセントに会ってどう思うかは別の話。
【3.21.2007】
004. 波打ち際