紳士服売り場に一人でずうっとネクタイを見ながら迷っている男性がいた。
歳のころは24〜5、細身で紺色のスーツに身を包みどことなく居心地悪そうな感じだが、よっぽど手にとったネクタイが気になるらしく一歩もそこから動かない。
ーっていうか、絶対この色目立つよなぁ・・・
ずうっと手元にあるネクタイを眺めながら、ヴィンセントは頭の中で反芻していた。
ー任務の時はやめておいて、内勤の時だけつけるとか。
ちょっと目線を上に向けて、考え込む。
ーあっ、でも任務の時以外は会えないかもしれない・・・
それじゃあ意味無い、と自己完結してネクタイを元の場所に置こうとした。
「お客さま、もし気に入られているのでしたら鏡で合わせましょうか?」
あまりに長い間売り場にいたヴィンセントを見兼ねてか、ちょっと年のいった上品な感じの店員が声をかけてきた。
「あなたにはとても似合うと思います。」
ヴィンセントが一度戻したネクタイを手にとって、襟元にさり気なく合わせる。
菜の花のような鮮やかな黄色が、紺色のスーツに映えてとても目立つ感じだった。
「いえ、職業柄あんまり目立つ色合いは良くないんです。」
せっかく諦めかけたのに、心が揺れ動くようなことを言われて、慌てて断わり気味になる。
「黄色がお好きなら、こんな色合いなら目立ちませんよ。」
ヴィンセントの迷いを先読みするように、菜の花色に茶色やグリーンが混ざったようなちょっとくすんだ色を2、3種類選んで持ってくる。
確かにそんな色合いなら、任務の時にネクタイを覚えられて変な手がかりを残すようなことは無さそうだった。
ーまあ同系色よりは色的に目立つけど、全身紺だって覚えられるかネクタイの色合いが微妙に違うかは一緒だしな。
年上に(かなり)弱いヴァレンタインさんは、落ち着いた雰囲気の素敵な店員さんに勧められて、菜の花色に少し栗色が混ざった上品な色合いのネクタイをお買い上げになったのでした。

「素敵な色ね。」
クレシェント博士がそんなヴィンセントに声をかけたのは、ネクタイを買ってから既に一ヶ月以上たったあと。
あなたのリボンの色とおそろいにしたくて買ったんです!、なんて口がさけてもヴィンセントは言えません。
「こんな色の服私持っているの。あなたもこういう色合い好きなのね。」
にっこり笑う彼女の笑顔が見れて、それだけでもこのネクタイの役割は十分だったようです。
色々話をしている間に、
「今度その色合いのリボンを探しておきますよ。」
と思わず言ってしまったヴァレンタインさんは、もしかしたらかなり心に羽が生えてふわふわとしていたのかもしれません。 

【6.24.2007】
020. おそろい

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