SEXが終わった後はいつもちょっと気恥ずかしい。
どんなに希望通りのそれだったとしても、性格なのか思わず顔を背けてしまう。
今日もセフィロスの優しそうな顔が目の前にあるのを見て、思わず頬が熱くなって、そっぽを向いてしまった。
でも、結局は彼の腕の中にいるので角度を変えて覗き込まれる。
「・・・」
見られているのが分かっていても、目を反らす。
「ヴィンって、こういう時はすっごい乙女な反応するのな。」
面白そうな口調で言われて思わず(自分としては)きつい目でセフィロスの顔を見た。
その表情を見てセフィロスがくすっと笑う。
「ヴィン、可愛いな。」
頭をなでられて、なんとなく悔しくなってくる。
「言っとくけど、セフィのおむつを替えていたのは私だからな。」
「そうか、それを聞くのは何回目かな。」
セフィロスがさらに楽しそうにヴィンセントを見た。
「そのあと、おねしょ癖も直したんだから。」
「ありがとう。」
動じずにセフィロスが答える。
「あと、学校にあがる前の書き取りとか、計算練習とか・・・」
ヴィンセントが言葉を紡いでいく度に、セフィロスがにっこり笑って彼の髪を撫でたりキスしたりしていた。
ヴィンセントが黙る。
セフィロスが不思議そうに見て、彼の唇にキスしようとすると、
「セフィ・・・・。」
と呟いて、彼の唇を押し戻した。
「何が不安なんだ?」
セフィロスが目を覗き込んできた。
目を反らせるのも変なので、彼の目を見つめ返す。
唇が重ねられ、優しく唇を吸われて目を閉じる・・・。
情熱的にキスをされながら、ヴィンセントのの脳裏はある風景を写していた。



広い・・・広い、きれいな草花が一面に散っている草原に、一人立っている。
目の前にあるミッドガルの廃虚には、植物がその生命力を誇るように、元都市と呼ばれた場所を覆っていた。
脳裏のヴィンセントはその廃虚を飽きる程長い時間眺めていたが、ふっ・・・とミッドガルに背を向けて立ち去って行った。



セフィロスの唇が、首筋の方へ降りてくる。
「あっ・・・はあん・・・」
彼の愛撫を心地よく受けながら、ヴィンセントは思っていた。
ー多分、私はこの感触を忘れてしまうだろう・・・
セフィロスの唇が彼の胸の先の方を舐めて、思わずヴィンセントは声をあげた。
「はあっ・・・セフィっ・・・」
セフィロスがヴィンセントを見て、その視線に瞳をあわせる。
もう一度深くくちづけされても心に一度現れた曇りは消えなかった。
多分80年もすると、今一緒に時を過ごしている人たちはほとんどいなくなってしまう。
こんなに愛されていて、大切にされていた事実も時が経つにつれて風化していく。
古い記憶を新しい体験ですぐに塗り替えられる程、ヴィンセントの心は器用ではない。
ー多分、私の海馬からは過去の暖かい記憶はすぐに消去されるだろう。
自分の心が悲鳴をあげる前に、自分を維持する為に、この記憶は時の彼方に置き去りにされ、忘れられてしまうに違いない。
背中に回された彼の手が何度もヴィンセントをきつく抱き締め、優しく唇を重ねてくるのに答える。
自分が一人きりになった時に、この思い出を取り出して自分を慰めるには少しつらすぎる。
だから、きっと私は全てを忘れてしまうだろう・・・




【4.12.2007】
012. たぶん、僕は忘れてしまうだろう