「38℃・・・?結構熱あるじゃない。」
ルクレツィアに測ってもらった体温計は思ったよりも高温を示して、ヴィンセントをさらに疲れさせた。
「私にとって熱なんてそんなに意味がないよ。」
ぐったりしつつも起きようとするヴィンセントをルクレツィアは慌てて押しとどめた。
「少しは人間らしくして下さい。」
18歳になったルクレツィアは、ヴィンセントの保護者のように、病気の彼の面倒を見る気でいる。
ー成長しないのは私だけなのか?
彼女の頼もしい?後ろ姿を見守りながら微妙に自分の気持ちを持て余す。
「今日は授業ないのか?」
何となく家から追い出したくて、声をかけた。
「残念ながら、今日は一日面倒を見させて頂きます。」
心の中を見すかしたような返答に、そんなとこばっかり彼女にそっくりだと思ったヴィンセントだった。
絶対起きちゃダメ、と言われてしょうがなくベッドに寝ている。
昼間の光の中にある桜はきれいに窓から見えた。
ーもう散りかけだけどな。
そう言えば昨日見た散っている花びらの様子はきれいだった・・・と思い出す。
真っ暗な中で桜の花びらと銀色の髪が映えて・・・と思った瞬間に咳き込んだ。
ー・・・やっぱ昨日のせいだよな・・・
誰もいないのに一人で赤くなる。
このまま起きていると昨日のことを逐一思い出してしまいそうになるので、さっさと目をつぶった。
目を閉じると取りあえず目の前は真っ暗になる。
暫くの間ヴィンセントは大人しくベッドに横になっていたが・・・、10分もしないうちにガバッと起き上がった。
ー・・・花見なんてOKしなきゃ良かった・・・。
思わず額に手を当ててため息をついてしまった。
自分で触ってもちょっといつもより熱いかな、という感じがする。
絶対このままいても寝られない・・・と思ったヴィンセントは取りあえずベッドから起きて、ルクレツィアを探しに行く事にした。
「ルクレツィア・・・」
部屋から出て居間にいるかと思ったが、見つからなかったのでちょっと呼んでみた。
キッチンの方にも気配はない。
ー自分の部屋・・・ってことはないよな。
二階の階段の下迄行ってもう一度呼んでみたが、返事がなかった。
ー買い物にでも行ったのかな?
ちょっとくらりとしたので、居間に戻ってソファに座り込んだ。
ー寒っ!
ぞくぞく感が襲ってきたので、急いで近くの毛布を探してくるまる。
ぼーっとして居間を何と言う事もなく見回すと、飾り棚にある写真に目がいった。
ソファから立って、いくつもある額と写真立てから一個の写真を手にとった。
ー懐かしいな・・・。彼女が来たばっかりの時のだ。
いつも居間においてあるはずの写真だったのだが、じっくり見た事はなくてソファに戻ると目の前のテーブルにその写真立てを置いた。
写真の中には10歳の時のルクレツィアと一緒に、今でも全然容姿が変わらないヴィンセントが写っている。
写真の中の彼女はちょっと緊張していて、それをやわらげるようにヴィンセントが彼女の両肩に手を添えて笑顔を見せていた。
ー8年もすればしっかりもするか。
今日言われたセリフを思い出して、思わず顔が笑ってしまった。
まあ、来た時から多少生意気でしっかりした子だったけど・・・と色々思い出していたら、
何となく眠気とだるさが襲ってきていつのまにかヴィンセントはソファで寝入ってしまった。
「ちょっと、こんな所で寝ないでよ。」
優しく揺り起こされて、はっと目がさめるとルクレツィアが隣に座っていた。
「もう・・・熱も下がってないみたい。あれ程ベッドで寝ててって言ったのに。」
人の言う事聞かない不良な父親なんだから・・・とぶつぶつ文句を言いながらも、余分の毛布を取り出している。
「どっちかって言うと不良老人じゃないのか?老人はがんこでたち悪いからな。」
彼女と同じタイミングで来たらしく、夕食の食材が入っている買い物袋を持ちながらセフィロスが居間に姿を現した。
「お前に不良とか言われたくないな。」
まだぼーっとしている頭でヴィンセントが言い返した。
ルクレツィアがセフィロスに、はい、と毛布を渡すと、代わりに買い物袋を持ってキッチンへ消えて行く。
ヴィンセントに毛布を掛けながら、今度はセフィロスが隣に座った。
「風邪なんか俺にうつしちゃえよ。」
ヴィンセントの顎をついっと持って口元に話しかけた。
「元はと言えばお前のせいだからな。」
じゃあ遠慮なく、と言う言葉を全部聞かずにセフィロスが口付けてきた。
何度も唇を重ね合わせて、舌を絡めあわせているうちにセフィロスの腕が、ヴィンセントの頭と背に回って抱き締めてくる。
ヴィンセントの視線を遮るようにセフィロスが少し身体を傾けた。
目の端にキッチンからルクレツィアが出てくるのが見える。
二人の視線が合って、セフィロスが彼女に軽くヴィンセントの部屋の方を目で合図した。
ーあっ、部屋に連れてってくれるのね。
ルクレツィアが、ありがと、と言うようにセフィロスに手を振る。
ー相変わらず手のかかる人だこと。
でも、あんなに可愛いパパもそうはいないわよね・・・、と居間に二人を残し、ルクレツィアは楽しそうな笑顔でキッチンへ戻って行った。
【First uploaded on April 8, 2007】
【Re-edited on April 7, 2014】
007. 熱
*「002.花束」の続きです。