高台に建つ大学から見える港には大型タンカーのみならず客船の間を縫ってヨットも次々と入ってきていて、その港に溢れる程の数から海洋産業を中心として国家を発展させようとこの国が意図していることが分かった。
キャンパスには学生がたむろしていて、港に船が寄り添って来る穏やかな光景をバックグラウンドに、多くは自分の将来に思いを馳せるよりもこの国の未来を夢想して友人と熱く語っている間に夜が終わってしまう若者達が集っている。
「いつ帰るんだ。」
灰色の校舎を背にセフィロスが言った。
広々としたキャンパスの端にヴィンセントはキャンパスから港がよく見える場所に座っていた。
今まで山ほど相手をしてきた学生達から声をかけられないように、大きい樹木に隠れた場所にいる。
「もう、行ってもいいんだ。」
特にいつという期限があった訳ではなく、ヴィンセントはあいまいに答えた。
目に入る限りの海の色が青から少し灰色がかって来たとき、それは季節が移り変わっていることを知らせている。
あ、そう、とセフィロスは答えて、彼がどうしたいのかを考える。
ヴィンセントは気持ち良さそうに、海風に吹かれている。
直接聞いた方が早いのだが、彼がそんな質問に素直に答えるとは思えない。
「例えばさ。」
セフィロスが言う。
「俺がウータイに行っちゃって、ヴィンがミッドガルからはサポート出来ない状況にはまってさぁ、」
彼の言葉を聞き流すように、ヴィンセントは海の方へ顔を向けていた。
「で、俺が生きるか死ぬかみたいな状況をヴィンに言ってきたらさぁ。」
「安心しろ。私もそうしたらウータイへ助けに行くから。」
ヴィンセントの即答にセフィロスがびっくりして彼の顔を見る。
「だって、遠方支援は出来ないんだろ。」
彼を見ずに涼しい顔をしてヴィンセントが言った。
「それで、俺はいつヴィンが来るか、気を揉んでお前が来るのを待つわけ?」
内心ヴィンセントが来るという答えを嬉しく思いながら、必死に感情を隠してセフィロスが言った。
「救援なんだからいつ着くか連絡するし、大体指揮官のお前がそんな事に気を揉まなくてもいい。」
「ヴィンが来るから心配するんだよ。」
ヴィンセントはセフィロスを見ていないが、セフィロスは彼の表情を覗き込もうか逡巡していた。
大体大事な人が危ない場所に来るのに心配しない人間はいない。
「で、いつまでたっても私の姿が見えなかったらどうするんだ?」
清涼な海風がヴィンセントの耳元を吹き抜けて、彼の髪をふわっと浮き上げた。
「俺としては、ヴィンがこないのを心配しつつ、指揮官としてはそろそろ宿営地を異動しない敵に感づかれる、っていうジレンマに襲われて、」
「襲われて?」
ヴィンセントが先を促す。
ふっと、セフィロスがヴィンセントの顔を上から覗き込んだ。
いきなり、海への視線が遮られてヴィンセントがセフィロスの顔を見る。
「もうあきらめてデッドラインも過ぎて、ここを引き払わなきゃって思った時に現れるわけだよ。」
へぇ、とヴィンセントが呟いて、セフィロスの目を見た。
「ヴィンがさ、全然息も切らせずに目の前にいて。」
セフィロスが、ヴィンセントの口元に囁く。
「そんな訳ない。」
すぐ側の彼の口にヴィンセントが言いかける。
一瞬目をつぶって、セフィロスが言った。
「そうかな。」
「そうだよ。」
セフィロスは彼の髪を少し掴んでキスしてから顔を上げた。
「セフィ。」
ヴィンセントがすぐ引き寄せる。
絶対自分でねだっていたんだとは分かっていたのだが、嬉しくて彼の体を抱き寄せた。
「そういう意味じゃ。」
「じゃあ、どう言う意味だよ。」
抵抗はされずに、唇を寄せた。
ちょっと触れると唇を離されそうになって、セフィロスは彼の頭を抱き寄せた。
「セフィ・・・」
一言こぼれた後に、その先を言わせずにまたキスをする。
出航の汽笛が遠くで鳴って、湾から船が一隻離れて行った。
【11.15.2007】
【revised on June 7, 2010】
036.夏が終わる日
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