散り行く桜の花びらの中で、彼の白い姿態は夜の闇の中ぼおっとお化けのように浮かびかがっている気がした。
情事が終わった後、身なりを整えようと身体を離すヴィンセントを思わず抱き寄せる。
「どうしたんだ?」
頬に手を寄せて、彼が見上げてくる。
「やっぱり、もう一回したい。」
彼の答を待つ間でもなく、セフィロスはヴィンセントの身体に唇を寄せた。
「あっ・・・セフィっ・・・」
されるがままに、土の上に広げた毛布に横たわった彼はほんのり赤く頬を染めてセフィロスの愛撫に身をゆだねていた。
ヴァレンタイン邸にある桜は特に大木でもなく、でも季節になるとここぞとばかりにきれいな花を咲かせる。
何回かその様子を見ていたセフィロスは、今年この夜桜の中で花見をしようと彼に提案した。
「花見なら、もっとふさわしい所があるんじゃないのか?」
そう言いながらもOKしたヴィンセントは、もしかしたらセフィロスの下心が分からなかったのか、知っていて了解したのか。
「はぁっ・・・あっ・・・んっ・・」
もう一度彼の中に入ろうと、彼の身体をやわらかくほぐしていくと思わず喘ぎ声が大きく庭に響いてくる。
「セフィっ、・・・ルクレツィアが起きてしまう。」
ヴィンセントがセフィロスに苦しそうに言う。
「もう、起きて上から見ているんじゃないか?」
セフィロスが耳もとで囁くと、びっくりしてヴィンセントがセフィロスの肩をつかんで身体を起こそうとした。
屋敷の方に目を向けたが、彼女の部屋には灯りさえついていず窓もぴたりと閉められたままだ。
安心したように息をつくヴィンセントに、
「今日は出かけて帰ってこないって言ってたじゃないか。」
とセフィロスがくすりと笑って言葉を続ける。
「でも、予定が変わって帰ってくる事もあるし。」
不安そうにセフィロスの目を見るヴィンセントは、いつもの年上らしさは全くなくて細いからだがいっそう華奢に頼りなく見えてくる。
「見られててもいいだろ。あいつもいい加減大人なんだから。」
彼を抱き締め、首筋からキスを落としていくと、あっ・・・と色っぽい声をあげてヴィンセントが目をつぶる。
盛りを過ぎた桜の花びらがいっそうはらはらと舞い落ちて、彼のからだを彩っていった。
セフィロスの髪にも、いくつもの花びらが落ちてきている。
少し愛撫をとめるとヴィンセントの指がセフィロスの髪を絡めとった。
「セフィの髪に花びらがすごいついてる。」
ちょっと笑って絡めた髪を自分の方へ持って来て、銀の髪に埋まっている花びらを眺める。
「なに言ってんだ。ヴィンだって花びらまみれのくせに。」
今度は途中でやめずに、キスしながら彼の中に少しずつ入っていった。
身体を進めていくのに合わせてヴィンセントの手がセフィロスの頭と背をきつく抱き締めて、舌をまさぐってくる。
桜の木の下は花灯りのせいか周りよりも少し明るく見えた。
薄ぼんやりと照らし出せれているように見える彼の身体は、今にも目の前で消えそうな感じで、思わずきつく抱き締めた。
火照ってくる自分とヴィンセントの身体を感じながら、もう少し彼の体温を感じていたいと思うセフィロスだった。
「ルクレツィア、この桜の枝どうしたんだ?」
くしゅん、とくしゃみをしてヴィンセントが尋ねる。
「パパ、風邪ひいたの?」
翌日、昼過ぎに帰って来たルクレツィアが心配そうに彼に寄ってきた。
「多分花冷えだよ。これ家の桜じゃないだろう?」
花瓶に活けてある見事な枝振りにちょっと嬉しそうな顔をするヴィンセント。
「セフィロスが持って来たのよ。いいもの見せてくれたお礼だって。」
桜の枝はまだつぼみがついていて、これからも少しは楽しめそうな感じだった。
「・・・いいものって、お前にセフィがそう言ったのか?」
あいつまた余計な事を・・・と思いつつヴィンセントが聞き返す。
「そうよ。またパパセフィロスに何かしてあげたの?」
いや・・・特にこれといって何も・・・と口籠りつつまたくしゅん、とくしゃみをする。
「何でもいいけど、身体には気をつけてね。」
おやすみなさい、と彼の頬にキスをして自分の部屋に引き取るルクレツィア。
桜の枝をもらったのは嬉しかったのだが、セフィロスの微妙なコメントに納得がいかない・・・と思っていたら背筋がぞくぞくして来た。
ー・・・今日は暖かくして寝よう・・・
まだまだ夜は冷え込むある春の日のお話でした。
【First uploaded on March 19, 2007】
【Re-edited on April 7, 2014】
002. 花束