ヴィンセント・ヴァレンタインと一緒に仕事をするのは、ストレスレスな時とストレスフルな時とある、とリーブは分類していた。
ー今日はどっちでしょうか・・・?
別に楽しみな訳ではないが人間観察も趣味のリーブさんにとっては、毎日が賭けになる出社の瞬間だ。
ーおっ!
リーブのデスクに珍しく目にも鮮やかな花が飾ってあった。
その脇には既にヴィンセントが出社している。
ーいつもの時間ですかねぇ。
彼はさっさと自分の席でメールのチェックと書類の検分を始めていた。リーブが来たのを認めても目で反応しただけだ。
ー今日は機嫌悪い方ですねぇ・・・
彼に頼み事があったのだが、朝の挨拶もせず花のコメントも無く、目の前の仕事に向き合われてしまい、また初めて彼に会ってまともに話をしようとした時のような、話しかけづらい空気が漂ってきた。
しばらくしてメールのチェックは終わったらしく、ヴィンセントは手元の書類に目を移した。
話すタイミングを図りつつじっと見ていると、 伏し目がちに書類を見ている様子はいつもの光景なのに、 書類を繰る繊細な指とぬけるような白い肌のせいできれいな人形でもそこにいるような感じに見えてくる。
ー黒い髪だし、白雪姫さんですかねぇ・・・。
「なんだ?リーブ。」
話しかけるタイミングを測っていたら、視線に気付いたヴィンセントが口を開いた。
じろっとリーブを見た目は鋭くて、とても頼み事なんて無理な感じだ。
「いえっ・・・お得意様からランチに呼ばれてまして。よろしければお二人でも、と言われたのですが。さすがにヴァレンタインさんが一緒に来たら向こうも驚きますよね。」
そうだな、とヴィンセントがあっさり答えた。
ふう・・・とリーブが安心していたら、
「誰か付き添いが必要か?」
とヴィンセントが言ってきた。
「いえっ!無理には・・・先方は私が独身だって知ってますし・・・」
リーブの言葉を無視してヴィンセントが受話器を取り内線をかけると、ちょうどその時間空いている女子社員がいたらしく、昼頃彼に呼ばれた女子社員と一緒にランチに出かけて行った。
ーよかったよかった。
微妙に恨めしそうなリーブの表情に気付かずに、まんまと彼を追い出したヴィンセント。
昼休みが大分過ぎても彼が戻らず広い快適なオフィスを専有していたら、14時過ぎにリーブが帰ってきてかなり迷惑な表情で出迎えた。
「言っときますけど、普通は昼休みは13時迄なんですよ。」
つきあわされた女子社員は役得だったと思っているかもしれないが、リーブにとっては貴重な仕事の時間が削られる迷惑なランチだったのだ。
「ランチに付き合えないくらいで、大事なお得意様をなくしていいのか?」
涼しい顔をして言い返すヴィンセントに、だからちゃんと付き合ってきたじゃないですか、とリーブは言い返した。
ーしかも、時間が経てば機嫌が直るかと思ったら、意地悪度が増してます。
今日は頼み事は無理ですねぇ・・・と諦めて手元の書類を別の誰に振ろうと考え始めたら、
「ヴィンいる?」
とセフィロスがちょろりと入ってきた。
「何だよ。」
ヴィンセントが彼の方を見ずに答える。
「いや、飯食ってなかったら付き合ってもらおうかな〜なんて思ってさ。」
デスクの側によってきて、彼の見ている書類を覗き込む。
「何だこれ、カームの警備体制の再検討案?こんなとこにまわってたのか。」
ヴィンセントの指から書類を抜き取ると、
「お門違いな気がするんだが、私に名指しで送られてきたんだ。」
普通私に直接依頼なんてこないのに、と書類を読んでいるセフィロスにヴィンセントがちょっとため息をついて言った。
「いいよ、こんなのやらなくて。絶対あいつの嫌がらせだし。」
「何で私が嫌がらせを受けるんだ?」
大体あいつって誰だよ、と続けるヴィンセントに、若干焦った表情をセフィロスがちらりと見せた。
ーあっ、ちょっと話しかけやすい雰囲気になりましたね。
セフィ、また何かやらかしたのか?、と怒った表情で問いつめる彼は、朝の話しかけにくい張りつめた空気がなくなっていた。
「とっ、とにかく、飯食ってないだろ。これはいいからさ。」
セフィロスが、書類をヴィンセントから遠ざけると、
「はい、私がなんとかしておきましょう。」
と、リーブがさっと受け取った。
「ゆっくりお昼に行ってきて下さい。ヴィンセントには他にお願いすることが山ほどありますので。」
にっこり笑って、帰ってきたら概要を話しますね、と二人を送り出すリーブ。
「今日はセフィロスが天使に見えました。ありがとうございます。」
オフィスを出る寸前にリーブはさらりとセフィロスに耳打ちして、扉を閉めた。
ーあっ、でもセフィロスが話しかけるとああなるってことは、もしかして、もしかしてですよぉ・・・
掛け率変更にしないといけませんねぇ・・・、と呟きながら、仕事は二の次と上機嫌でシドに電話をかけ始めたリーブさんでした。
【11.26.2007】
【revised on 9th June 2010】
038.灰色の時間
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