「あーーー、予算がない!!」
机に広げた数字の羅列を見ながら、椅子の背もたれに思いっきり寄っかかって、セフィロスが言った。
ーあと一ヶ月で新規予算がおりるのに、なんでみんな使っちゃうんだ!
あーーー、と机にひじをついて自分の髪をぐしゃぐしゃしながら考え込むように眉を寄せる。
「予算外申請出せばいいだろ。」
側に居たヴィンセントが涼しい顔でアドバイスした。
「あんなめんどくさいの、出すの嫌だから悩んでるんだよ。」
机に顔を突っ伏してうだうだしながら、わかってないなぁ、とセフィロスが言い返す。
「じゃあ、がまんしたら?」
気のない受け答えをするヴィンセントが、時計を見た。
「帰りたいわけ?」
「別に。」
まだ時間はたっぷりあるな、と呟いて問題の書類が置いてあるすぐわきの机に腰掛けた。
「こういう場合、面倒見役として解決してくれないわけ?」
「してくれないわけ。」
セフィロスは机から顔を上げてヴィンセントを見たが、彼は全く無視して関係ない書類を繰っていた。
「こんなとき、あいつがいれば押し付けられたのに。」
あーあ、とヴィンセントから顔をそむけてため息をつくセフィロス。
「セフィは以外と数字の羅列得意じゃないか。この前あの変なアナグラム解いてただろ。」
「ああいう最後にスッキリするのはいいんだよ。」
セフィロスが、全社メールを検索して誰かに押し付けられないかと探している。
「あいつメール削除されてるよ。」
生きてんのか、全く・・・と言うセフィロスに
「誰を探しているんだ?」
とヴィンセントが聞いてきた。
「アンジールっていってさぁ、こういう時にどこからともなく予算引っぱりだしてくるんだよ。」
ふうん・・・と言って
「今どこにいるんだ?」
ときいてきた。
「調査部のプロジェクトでウータイに何年か行って来る、と言ったっきりだ。」
ああ、あのプロジェクト、とヴィンセントが相づちを打つ。
「そっちの友達がだめなら、もう一人いなかったっけ?」
ヴィンセントが続けた。
「あいつはだめだめ。」
セフィロスが即却下して、目の前の数字と明細に覚悟したように向かった。
ー調査部のプロジェクトに実行部隊がついて行くなんて、随分慎重だな。
手元の書類を見ている振りをして、ヴィンセントはウータイのプロジェクトのことを考える。
はあ・・・とセフィロスのため息がまた聞こえてきた。
「こういうことやるのが嫌なら、別にここにいなくてもいいんだぞ。」
ヴィンセントがちらりと彼の顔を見て言った。
「セフィぐらいの実力があれば、どこででもやっていける。」
「これぐらいどおってことないよ。」
あくびをかみころしながら、セフィロスが答える。
ヴィンセントがこっちを見ていない気配を探りながら、きれいな彼の横顔を見ようと様子を伺っていた。
何を考えているのかは分からないが、物思いに沈んでいるように書類を見ている彼が側にいるのは嬉しくて、理由はどうであれ側にいて欲しい。
「で、どうするのか決まったのか?」
1時間ぐらい、セフィロスがヴィンセントをちらちら見ながら書類に向かっている振りをしていたら、声をかけられた。
「あっ・・・いや、まだ・・・。」
微妙に彼と一緒の時間を伸ばしたかったので、曖昧に答える。
「アンジールとやらに、ヘルプはたのまないのか?」
「全社メールからも削除されてるのにできるかよ。こんなことで。」
意外に友達思いの言葉が聞こえてきて、ヴィンセントはちょっと身を乗り出して、彼の目の前の書類に数字をさらさらっと書き込んだ。
「何これ。」
びっくりしてセフィロスが言う。
「私が使って無い分だ。実行部隊に振り替えていいから。」
金額に少し余裕があるので、セフィロスがいいのか?とまた聞いた。
「大丈夫。私個人のプロジェクトがあった場合の予算だから。」
気にするな、と言ってヴィンセントは座っていた机の縁から、ぽん、と立ち上がった。
「それで足りなかったら知らないからな。」
と言って部屋を出ていこうとする。
危うい所で、セフィロスが彼の手を掴んだ。
「ヴィン、ありがとう。礼は何がいい?」
微妙に迷惑そうな表情を無視したセフィロスに
「セフィが一人前になってくれることかな。」
とヴィンセントが言った。
「まだそうじゃないのか?」
「ぜんぜん。」
子供と一緒だ、と言い残して出ていく。
ーなんだよ、ヴィン・・・
彼に言いたいことは山程あるのだが、目の前の書類を取りあえず片付けようとセフィロス様はPCに向かったのでした。

【11.6.2007】
034. カゴの鳥

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