「セフィロスー!また会ったな!」
新羅製作所が実施している学生向けインターンのオリエンテーションで、いきなり大きな声で名前を呼ばれた。
「覚えていないのか、俺アンジール。1年前のインターン研修で一緒のチームだっただろ。」
そんな奴いたっけか、と思い出せないセフィロスを無視してさわやかな笑顔の後ろから、不機嫌な表情の少年が出てきた。
「こっちは 俺の幼なじみ。今回初めて来た。」
「ジェネシス。」
ぶっきらぼうな物言いで名前だけ名乗った。
セフィロスが何で紹介されるのか怪訝そうな顔をした時、
「ソルジャー志望なんだ。」
と、アンジールが口を挟んだ。
「ふうん。」
なるほどね、という風にセフィロスはジェネシスの顔をもう一度見る。
「まだ決めてるわけじゃない。」
その実力を見透かそうとする視線に抵抗するように、ジェネシスがぴしゃりと言った。
セフィロスを睨みつけるような視線は強く、一瞬本気で見返してやろうかと思った。
ーソルジャーになりたくないのか、なれない奴なのか・・・。
彼の視線を軽く受けて背を向ける。
物心ついた時から何故かこのインターンセミナーに毎回参加させられていたが、ソルジャーになりたくてなれない奴にはゴマンと会った。
何でなれないのか最初は違いが分からなかったが、最近何となくなれる奴とそうじゃない奴が分かる。
ーアンジールはこのまま訓練を受けていれば大丈夫だろうな。あの生意気な瞳をしたジェネシスは・・・どうだか。
まだハイスクールに入ったばかりの子供にしては、シビアな人間評価だ。
その時、
「出席をとる。」
と、低い声が待合室の奥の方から響いてきた。
セフィロスが、目を向けると黒いスーツを身にまとったいつもの取り巻きの格好をした人間が壇上に上がっている。
「アンジール・ヒューレー」
はい、と返事をしてさっきの人懐っこい表情と違った、緊張した面持ちの彼が現れ、壇上に上がった。
ーまた、くだらない研修が始まるんだな。
インターンに応募したものにとっては一回きりの研修だが、セフィロスには定期的にある業務の一環だ。
10にならない頃から様々な年代のソルジャー研修に参加させられ、それを苦痛とも思わなかったが、同じ年代の少年と比較されるとさすがにこたえることもある。
「ジェネシス・・・」
さっき聞いた名前に、セフィロスは壇上に目を向けた。
緊張した顔つきの少年が、出席確認の担当をしっかりと見て下がっていった。
ーあいつ、鍛えてやるか。
セフィロスはにやりと考える。
そのあと何人か呼び出された声がして、
「セフィロス・宝条」
お決まりの声に、いつものように反応して壇上へ登る。
アンジールが手をふるのが、壇上から見えた。
さっさと下がろうと思って、担当の顔を見て足が止まった。
「?下がっていいぞ。」
黒髪に縁取られた白いきれいな顔がセフィロスに向けられる。
「お前、今までに会ったことないか。」
「初対面だと思うが。」
彼が出席簿に目を移しても、セフィロスは壇上を去らなかった。
次の人間の名前を呼ぼうとして、ヴィンセントの口が開く。
「話しがしたかったら、後で。」
まだ10代半ばのセフィロスに丁寧に名刺を渡して、次の名前を呼んだ。
後ろ髪がひかれるような表情のセフィロスをにっこり笑って送り出し、次の出席者を確認する。
「あいつ知ってるのか?」
壇上から降りてきたセフィロスにアンジールが話しかけた。
「・・・・・・、さあな。」
赤い瞳の彼に視線を移してじっと見る。
冷たく答えた割には、気になってしょうがないような視線だ。
ヴィンセントがそのまま出席者の確認を続けようとした時に、同じような黒スーツの男が慌てて壇上に上がってきた。
茶褐色の髪の落ち着いた風貌の男はヴィンセントに話しかけると、彼はすぐに出席者名簿を手渡し壇上から下りてきた。
そのまま待合室へさっさと下がろうとした彼の手を、セフィロスは急いで掴む。
「話があるって言っただろ。」
予想していなかった彼の積極的な様子に、ヴィンセントの目が少し見開いた。
「オリエンテーション聞かなくていいのか?」
「何度も腐る程聞いてる。」
誰も話をしていない中で、ぼそぼそと二人の会話が周りにもれてアンジールが注意しようとセフィロスに一歩近づいた時、
「なら、奥の待合室で。」
壇上の黒スーツもこっちを見ているのに気付いて、ヴィンセントはセフィロスを別室へ誘導した。
「お前本当に今までソルジャーの訓練に出たことないのか?」
移動しながらセフィロスが聞いてきた。
「ない。ちなみに名前は・・・」
「セフィロスだ。」
出席の時に名前を呼んだくせに覚えていないのにイライラした。
「セフィロス、私は君の生き別れの兄にでも似ているのか?」
分かりにくい冗談に笑えない。
オリエンテーションが始まって、ヴィンセントは待合室の扉を閉めた。
「5分くらいしか時間取れないからな。」
腕時計を確認して、セフィロスをソファに座らせる。
「ニブルヘイムにいたことはないか?」
「ある。」
セフィロスの顔が一瞬、ぱっと輝いた。
「5年くらい前だ。それが何か?」
「俺の出身地なんだ。小さい時に会ってないか?」
「私をいくつだと思っているんだ?」
ヴィンセントがくすくす笑って、セフィロスに答えた。
「27歳、ニブルヘイムに行ったのは22歳のとき。出張だ。」
ヴィンセントが話し始めたとき、セフィロスは重要なことを聞いていないのに気付いた。
「2、3日いてすぐ帰った。その時君は既にミッドガルで訓練していたんじゃないのか?宝条博士の息子さん。」
「あの、」
と、セフィロスが質問を口に出そうとする。
「もう5分たったな。」
ヴィンセントは、セフィロスを無視して待合室のドアを開けてセフィロスを送り出した。
「宝条博士によると、君は類い稀なソルジャーの才能があるそうだ。初対面の君の兄として贈る言葉は、」
くすりと笑って、セフィロスをドアの向こうへ追いやる。
「だから、お前の」
「 しっかりやれよ。」
ぱたん、と扉は閉められた。
ー名前くらい名乗れよ。
と、名刺をもらったことを思い出して取り出す。
ーV.ヴァレンタイン・・・。
連絡先が書いてあるのを確認して、丁寧にしまう。
待合室から表に出たヴィンセントは、どしゃぶりの大雨のなか自宅へ帰ろうとタクシーを止めた。
ールクレツィア、君の息子は友達も出来てうまくやっているよ。
アンジールと話していた様子や、宝条の父親ぶりを思い出して自分の出番はないかな、と思う。
その後何度かヴィンセントのオフィスに学生くささが抜けない青年から電話があったが、タイミング悪く話も出来ずにそのまま連絡は取れなくなった。
【First uploaded on August 17, 2008】
【Re-edited on April 12, 2014】
042.やさしい嘘