「痛い。」
普通、やっと言葉を覚えた年齢の子がこんなことを言わなければならない状況は、かなり切羽詰まっている。
「博士、あと一回投与すれば今日は終わりなのですが。」
父親である宝条に許可を求める為に、実験者が尋ねた。
許しを求めるように宝条を見上げる小さいセフィロス。
目には涙がいっぱいたまっていて、やめて欲しいと訴えている。
「一回ぐらいなら、大丈夫だ。」
「やだっ!痛い!!お母さん!・・・・ヴィン!」
暴れる子供を押さえつけ、鋭い針を刺して薬剤投与を完了すると検体は諦めたようにぐったりと体が弛緩した。
「やはり強いですね。さすがです。ただ、博士のお子なのに良いのかと思うのですが・・・。」
薬剤投与から大分たって、セフィロスの意識がもうろうとしているだろうと思った実験者が宝条へ言った。
「確かに私の子だが、この為に作った子だ。色々役に立ってもらわないと困る。」
いつもよりも動きが機敏でないセフィロスを愛しそうになでる。
さっきまで瞳にたまっていた涙がぽろりと頬を流れたが、二人の目にそれは物理法則にそった物体運動としか見えなかったようだ。
「セフィロス。お前は本当にいい子だ。」
宝条が彼の頬を撫でたが、薬が効いてきたセフィロスにはその感触は分からなかった。

日が落ちてニブルヘイムの夜の闇が新羅屋敷にも浸透して来た時、ヴィンセントはドアをノックする音に気付いた。
「何ですか?」
「セフィロスが呼んでるんですが、いいですか?」
「すぐ行きます。」
と言って自室から出てすぐセフィロスの部屋へ向かう。
長い廊下を走ってその先にあるID装置に自分の情報を入力した。
扉が開くまでの2〜3秒にイライラする。
ー私が呼ばれたという事は・・・・・・、ルクレツィアは具合が良くないんだな。
明るい廊下の先にある目的の部屋の中は真っ暗だった。
「セフィロス、私だ。」
扉から前に進んで、奥の方にあるベッドを見ても人の身動きは感じられずに全体を見回す。
「ヴィン。」
すぐ横で服の裾を引っ張る感触で目をやると、銀の髪が下方に揺れていた。

はっ、と目が覚める。
「起きたんだ。」
おぼろげに聞こえていた声が止まって、見られている雰囲気を感じる。
「すごい・・・、リアルな夢をみていた。」
身体を起こしながら、ソファの隣にいたセフィロスに話しかけた。
静かな満月の夜だ。紫紺の空が月光を反射して、不思議な光を地上に投げかけている。
セフィロスがまた歌い始めた。
「そんな歌うたうからあんな夢見たんだ。」
「何見たんだよ。」
歌は止めずに、セフィロスがきいた。
ヴィンセントは楽な姿勢になろうと、ソファの肘掛けの方に身体を寄せながら落ち着くと
「セフィがまだ小さかった頃のことだ。」
と言った。
「そんな歌をうたっているから、素直で可愛かったセフィを思い出しちゃったじゃないか。」
ちょっと責めるように言うと、セフィロスの歌声が止まった。
「いくつのときだよ。」
「さあ・・・、5歳にはなってないかな。」
目を閉じながらまたうとうとすると、セフィロスが続けて話しかけてきた。
「今とどう違うわけ?」
ーそうだな・・・。
セフィロスはしばらくヴィンセントの答えを待っていたが、彼の安らかな寝息が聞こえてくるとさっきの歌をまた口ずさみ始めた。



【First uploaded on May.12, 2008】
【Re-edited on April. 9, 2014】
041.ナーサリーライム(子守唄)


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