紅い目の彼の人の姿がまた目に入ってくるまで、自分がそんなに意識してるなんて思ってもなかった。
最初の遭遇は妙に気にかかると不思議に思う程度だったので、今日社食で見かけた時に息が止まるほどどきどきしたのには自分でも動揺している思う。
実行部隊の社員食堂は混雑するので、人と打ち合わせる時や急いでいる場合は使わない事が多い。
なので、セフィロスがかなり久しぶりに社食の列に並んでいて、ヴィンセントが3人程先にいた時はかなり驚いたというわけだ。
ーっていうか、こんなところで会うか?
今まで合コンで黒髪赤目の女を散々探していたのに、ここで本物に会うなんて。
「よっ、セフィロス。珍しいな。」
並んでいたら、あのおせっかいが話しかけてきた。
「・・・時間があったんだよ。」
ザックスを牽制しながらも、目はあの黒髪をどうしても見てしまう。
「あっ!あの美人さんいるじゃん。」
セフィロスの視線を追いかけて、彼に気付いたザックスが話しかけようとしたのを、思わず止めた。
「なんでだよ。」
「俺は相手しないからな。」
ふーん、そうですか、と言いながらザックスはセフィロスをちらっとを見てまたヴィンセントを見つめる。
黒髪の美人はさっさと食事を選んで、既に列の終わりの方にいた。
「あっ」
最後の食事を選んで、彼が席に行ってしまったのにセフィロスが小さく声を上げた。
「なぁんだ、セフィロスも話したいんじゃないの?」
面白そうに彼の顔を見るザックスを思わず睨みつける。
「おーっこわ!」
「お前はいちいちうるさいんだ。」
黒髪美人がどこに座ったのかさりげなくチェックして、セフィロスは自分の席を探した。
「旦那、気になってるなら先手必勝だぞ。」
さくさくと食事を選んで、いつの間にかセフィロスのすぐ後ろにいるザックス。
無言でヴィンセントの斜め前の席を確保してるのを見て、ザックスは笑いが隠せずにセフィロスの隣に座った。
醤油を取ろうとして、近くの人にサーヴされている彼を見てその相手を睨みつけるセフィロスは見ているだけで第三者には楽しい。
ーそんなに気になるなら、話しかければいいのにさ、自然に。
まあ、ザックスさんに男に恋する男の心が分かるとは思えませんが・・・。
その後は彼の事を見ているのかいないのか、黙々と刺身を食べるセフィロス様。
ヴィンセントも食事をするのは早いらしく、セフィロスより少し先に皿が空になっていた。
ーあんなに意識してるのに、一言も話さないで終わらすつもりなのか?
人ごとながら、おせっかいなザックスはセフィロスの様子に気を揉んでいる。
食器を片付けようとヴィンセントが席を立ったとき、セフィロスはちょうどプリンを食べるのにいるスプーンがなくて困っているところだった。
しょうがないから、醤油まみれの箸を使おうと思った時にヴィンセントの下げようとしたトレーにスプーンを発見する。
「おい、それ貸してくれ。」
ヴィンセントがセフィロスを見ると、プリンを手に持ってスプーンを右手で指し示していた。
「使ったやつだぞ。」
「気にしない。醤油まみれの箸よりましだ。」
あっそう、とヴィンセントはスプーンだけ渡して去っていく。
平静な顔をして、そのスプーンでプリンを食べるセフィロス様。
ー一緒に話したいんじゃなかったのか?
ヴィンセントをチラ見しただけで、セフィロスはデザートを食べ続けていたが、様子を見ていたザックスはある事に気付いて、思わずくくっと含み笑いがもれてしまった。
セフィロスがじろりと見るので、急いで笑いを押し隠したが、やっぱり顔を背けて笑い出してしまう。
ーよっぽど慌ててたんだなぁ〜。
セフィロスのトレーにはさっき食べていた刺身とプリンの他に、ドリア、トースト、ミニラーメンとトムヤンクンが載っている。
組み合わせとしてもどうかと思うが、全部取りやすく手前にあった皿だ。
「セフィロス本当にそれ全部食べたかったわけ?」
「・・・当然だ。」
「スプーンもよく見たらここに置いてあるじゃん。」
「・・・・・・お前、トレーニングメニュー2種追加だ。」
口は災いの元だと、心底実感して黙るザックス。
その後自室で例のスプーンを手に、やっぱりちゃんと話しかけるべきだったとか、スプーンを借りるなんて変な奴に思われたに違いないとか、 色々思い悩んでいる様子は普段のセフィロス様とかなり様子が違っていて、秘書さんや面会に着た人々がとても気を使っていたとか。
今では普通にヴィンセントに話しかけられるセフィロスさんですが、デスクの奥深くにはあの時の記念のスプーンが今だに眠っているかもしれません。



【First uploaded on May 10, 2008】
【Re-editied on April 9,2 014】

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