彼の思い人のルクレツィアに会いに行く事が不可能となり、きっと今日は一人ほっておかれて泣き濡れたいだろうと分かっていたのだが、
やっぱり気になり顔をみるぐらいは、とセフィロスは自分のオフィスからヴィンセントの所に向かった。
調査部のいつもの席へ行くとヴィンセントはいなくて、リーブが出迎えた。
「セフィロス、ヴィンセントは今日は出社していないですよ。」
いつものリーブよりもちょっと暗めな感じがしている。
「今日は出てこないのか。」
セフィロスが確認するように言った。
「はい。まあ、当然と言えばそうなんですが。」
会いたかったんですよね、と呟く。
「ほんとうに会いたかったら、直接自宅へ行くよ。」
本当に来てないか確認しに来ただけだ、とセフィロスはその場を離れた。
オフィスに帰ってちょっと物思いにふける。
ーなんて言うか、結局は俺がどうしたいかって言う話なんだよな。
自分でも、なんだかんだ言って拒否するヴィンセントに、しつこくしてきたのは分かっているのだが。
ーただ好きならともかく、あいつほっとけないとこもあるんだよな・・・
しかも一瞬見せる顔が、かなり年上のはずなのに自分が守らないといけないと、と思わせる時がある。
ーはぁ・・・・
取りあえず目の前にある決済文書を無意識に手に取って、ぽん、と承認印を押した。
当然ながらこんな状態では、中身はほとんど見ていない。
見ようとしても、全然頭に入らない。
「あっ、それ急ぎだったんですよ。ありがとうございます。」
セフィロスの前に秘書が来て、その文書の中身を確かめる間もなく次の決済者の元に持って行ってしまった。
「・・・」
誰もいなくなったオフィスで、ヴィンセントのことを考えるセフィロス。
ーどこで泣いてんだろうな。
やっぱ自宅か、と思ったセフィロスはホワイトボードの予定表に「休暇」と一週間分ざっくり書いて、さっさとヴァレンタイン邸ヘ向かった。
「パパは出かけたわよ。」
ルクレツィアが玄関に出てきてセフィロスに答えた。
「お前こんな時間に何でうちにいるんだよ。」
午後2時に長期休みでもないのに自宅にいる学生は危ないぞ、と付け加える。
「残念ながら、もう就職先が決まってしまいましたので。」
だから、試験勉強をする必要も学校に行く必要もないのよ、とルクレツィアが生意気そうに答えた。
「んったく、学生は気楽でいいよな。」
俺の時はもっと大変だった・・・と言いそうになり、年寄りくさい言葉だと反省して口から出ないようにした。
「で、ヴィンは?」
目的をストレートに聞く。
「リ−ブさんのとこに行くって。」
また後戻りかい!と思ったセフィロス様でした。
「申し訳ない。ヴィンセントならもう次の仕事で空港に向かいましたよ。」
「へ?」
思わず間抜けな声を出すセフィロス。
「だって、心配するような感じじゃなかったのか?」
あまりに予想外な返事に詰問した。
「いや・・・私も会う前はそう思っていたのですが、実際はすごく元気でやる気満々って感じでしたし。」
ーこのふし穴!そんなヴィンは一番要注意なんだよ!
追いかける?絶対追いかけるよな・・・と自問自答して顔をあげる。
「で、どこにヴィンは行ったんだよ。」
えっと・・・と世界地図を取り出して場所を示唆しようとするリーブの傍らで、ただ抱き締めて慰めたい!と思った行動の結果がどうなっていくのか、
地図を見ながら意外と次の展開が楽しくなってきたセフィロス様でした。
【First uploaded on April 10, 2007】
【Re-edited on April 7, 2014】
010. 抱き締めたい