薄オレンジ色の光がニブルヘイムの彼女の部屋に差し込んでいる。
いつもの点検をしようとデスクでうたた寝をしている彼女を覗き込もうとしたら、
「いつもそんな風に私を見ているの?」
と目を覚まされた。
「良かった。今日も起きてくれて。」
ヴィンセントが柔らかく微笑んでデスクから離れる。
「死んでると思った?」
「まさか。」
顔は笑っているが、本音はひやっとした。
ー彼女に万が一があったら・・・。
ヴィンセントは頭の隅に残る例の任務を消しやった。
今ルクレツィアは研究の最前線から外されている。
もちろん彼女の体調不良を理由としてだが、宝条があえて彼女を外していることは容易に伺い知れた。
「それより、セフィロスは大きくなったね。」
彼女のデスクから少し離れた場所にあるベビーベッドにいつもの通り向かう。
「大事な息子ですもの。大事に育ててるわ。」
他にする事もないし、と呟いた言葉は無視した。
本当は彼女は研究がしたいんだろう。
「元気だね。この子は。」
幼児は寝ている事が多いと思うのだが、ヴィンセントが見に来る時は大体セフィロス目を覚ましていた。
「宝条が来ている時は寝てる事が多いのよ。あなたの事が好きなのかしら?」
「まさか。まだお母さんとそれ以外しか分からないと思うけど。」
笑いながらいつものようにベビーベッドの子どもを抱き上げた。
ーやっぱり彼よりも似ている。
二人が寄り添っている様子を見るといつも思ってしまう。
自分似だと片付けてそれ以上考えなければいい話なのだが。
「あれっ?ルクレツィア!」
ヴィンセントが素頓狂な声をあげた。
「どうしたの?」
「髪が生えてるよ。きれいな銀髪だ。」
ヴィンセントが赤ん坊を抱え上げてルクレツィアに見せた。
「若禿じゃなくて良かったわ。心配してたの。」
セフィロスの様子を見ようとデスクから離れる。
「ひどいな、自分の子どもに。」
くすりと笑って、ヴィンセントは近づいてくる彼女にセフィロスを渡した。
「きゃっきゃっ」
セフィロスが甘えるのを軽くキスであやして、彼女にバトンタッチする。
「きれいなプラチナの髪ね。」
ルクレツィアがセフィロスの頭をよく見ようと、重心を移した時。
ぐらっとバランスが崩れて、ヴィンセントは急いで彼女を抱きとめた。
「ごめんなさい・・・ちょっとめまいがしたの。救急を呼んでもらえる?」
ヴィンセントがセフィロスを慎重にベビーベッドに戻す。
「少し休めば大丈夫?」
彼女を心配そうに見つめた。
「救急を呼んで、お願い。」
自分を抱く腕に少し力が入ったのは気のせいだとルクレツィアは思った。
わかった、と言ってヴィンセントは携帯を取り出す。
ーごめんなさい・・・。
本当は彼にすがってしまった方が楽な事は分かっている。
ーでも私、あなたに答えられないもの。
抱きとめられている腕でさえ、申し訳なく思う。
「救急すぐ来るから。」
その言葉にルクレツィアが彼の腕から離れようとした。
「このまま搬送が来るまで安静にっていう指示だった。じっとしてて。」
ベッドに寝かせると言う選択肢もあるのに、彼の言葉に従ってしまう。
「あなたは大事な人なんだ。新羅にとっても、僕にとっても。」
ー私だってあなたは大事よ。
救急が搬送ベッドを持って来た時は、既にルクレツィアは彼へその言葉を伝えられなかった。


夜、ヴィンセントは電話の前でまだ迷っていた。
ちらつくのはきれいな彼女の面影と、セフィロスの無邪気な笑い声だ。
今の彼女の状況を考えるとこんな事をしたら何が起こるか・・・。
ーセフィロスは多分大丈夫だ。
上層部からの既得情報からヴィンセントは決断した。
頭に張り付いて忘れない例の番号をダイヤルする。
ーお願いだ、すぐ出てくれ。
ヴィンセントが願った時に、自室のドアが突然開いた。
「ヴァレインタインくん、どこにかけているのかね。」
振り向いたヴィンセントに宝条がにやりと笑ってつかつかと近づいてくる。
「お話があるのなら、きちんと伺います。」
手早くナンバーを押して受話器をおいた。
「変な暗号は送っていないだろうね。」
「確かめてみますか?」
受話器を宝条へ差し出す。
ヴィンセントは宝条が嫌な笑い方をしたのを見逃さなかった。
「プレジデントもずいぶん若造を送って来たと思ったが、以外と抜け目ないな。君には感謝しているよ。妻子の事も含めてね。」
宝条が銃を取り出す。
ールクレツィア、君は無事で。
耳に届いた銃声にヴィンセントが思ったのは彼女の事だけだった。

【First released around Nov. 2007】
【Rewritten on May.9th.2010】
031. おやすみ

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