新羅カンパニーがまだ新羅製作所と呼ばれていた頃、ヴィンセント・ヴァレンタインは期待に胸を膨らませて初々しい様子で今度の任務についての説明を上司から受けていた。
まだ入社して3年も経っていない、ベテランの経験者から見たら殻の取れかけたひよっこだが、やる気だけは誰にも負けていない。
「今回はうちの科学部門が採取したサンプルを、無事に研究施設に運び込むのを護衛する。」
護送ルートがスクリーンに示され、同じものが手元にもプリントされて渡される。
運転手が二人、研究者が四人、それと護衛につくタークスがそれぞれの車に二人づつ。
「どんなものを運ぶんですか?」
一通り説明が終わった後で、質問がくる。
「生物(なまもの)だ。」
上司の言葉にその場にいた一同があはは、と笑った。
「ちなみに一台には本物、もう一台には偽者を積み込むが素人だと分からないからどっちにあたっても真剣にやるように。」
他に質問は?とさらに聞かれて、ヴィンセントは思わず手を上げた。
「あの、サンプルが暴れたり腐ったりとかあったらどうしたら。」
周りの同僚達がくすくす笑い出す。
ーまた変な質問しちゃったよ・・・
真っ赤になるヴィンセントに、上司が丁寧に答えた。
「その場合は、同乗している研究員に指示を仰ぐように。」
「あ、ありがとうございます。」
他に何かあるか?と声が聞こえて来たが、何も無かったらしく、当日集合には遅れるな、と上司の言葉で散会した。
ミッション当日、サンプルを積み込む場所はかなりの寒冷地で、ヴィンセントは厚手のコートを持って来てよかったと心底思った。
保冷機能のある特殊なトラックが2台並んで、荷積みを今か今かと待っている。
「早く発車しないかなー。」
同僚がいう言葉に、軽く頷くヴィンセント。
と、近くを軽く春を告げる風が通っていった。
思わず後ろを振り向くと、目にも鮮やかな黄色いリボンを髪に巻いた長い髪の女性と目が合う。
にっこり笑った女性は車に乗り込む前にヴィンセントの近くにやって来た。
「あなたの方が本物だから、がんばってね。」
そっと周りに聞こえないようにささやかかれ、はい・・・と返事はしたものの、彼女の笑顔から目は離れなかった。
「ヴィンセント、気をつけろ。あのクレシェント博士は、お前の父親と関係があるかもしれないって言われている。」
同僚の言葉に夢がさめるように背筋が引き締まる。
「大丈夫だ。」
銃を確認して周りをマニュアル通りに警戒する。
その間にも、彼女の面影が脳裏から目の裏に再現されてくる。
「本物だから、頑張ってね・・・」
頭を振って自分の普段の感覚へ戻そうとするヴィンセント。
「発車するぞ。」
相棒の言葉に意識を集中させようと息をついた。
この出会いが自分の運命を変えるとも知らずに・・・
【3.19.2007】
001. Boy meets Girl