パレードを見ようと集った人々の人込みに押し返されて、今、二人とも待ち合わせ場所にたどり着けないでいた。
「パパ、セフィロスはどこで待ってるの?」
「さあ・・・。この辺って言ってた気が。」
4年に一度のミリタリー・タトゥーのイベントはその華やかさから、ミッドガルの夏の観光の目玉となっている。
ダブルリードの民族楽器が奏でるするどい主旋律と、威勢のいい打楽器のリズムがパレードの行進を一糸も乱れずに先導する。
隊列が目指す先はミッドガルの中心、大きな空間がある広場だ。
人々の記憶にも残っていないくらいの昔昔、女王がそこに城を築きその地を統べていたと伝説としてだけ記録されている。
「ミリタリー・タトゥーなんてただの観光行事だろ。」
学校でデンゼルとマリンからマーチを見ようと誘われたルクレツィアに付き添うのに、ヴィンセントは乗り気ではなかった。
「4年に一回しかないすっごく楽しいイベントだって、マリンちゃんとデンゼルが言ってたもん。」
「ティファとバレットと一緒に行っておいで。」
「ヴィンセントは行ったことあるの?」
ー・・・・・・
正直、ミッドガルのこの屋敷に来てから見に行ったことはない。
まあ、時々外が騒がしいなぁ・・・と思ったことはあったが、それはそのイベントだったかどうか。
「セフィロスも、パパが来るなら行くって。」
「誘ったのか!?」
びっくりしているヴィンセントに、しっかり頷くルクレツィア。
断わりの電話を入れようと思ったが、既にパレードが始る30分前の時間を時計は指していた。
「マリンとデンゼルとはどこで会うんだ?」
「セフィロスとの待ち合わせ場所と一緒!」
「どこ?」
「うちから大通りを出た所の柱。」
ー柱・・・?そんなのあったか?
早くしないと始まりに遅れちゃう!、とルクレツィアがヴィンセントの手を引っぱる。
急かされるままに椅子を立って、家を出る。
ーこんな待ち合わせ場所で会えるわけ無いのでは・・・。
パレードを見る人込みが通りを席巻しているのが見えて、気持ちが萎えるヴィンセント。
「マリンちゃんとデンゼルまだみたい。」
ルクレツィアがどこを見て確認しているのか分からないが、
「取りあえず、電話してみようか。」
ヴィンセントの言葉に大きく頷いた。
ティファの携帯ナンバーを呼び出すと、遠くの方でマーチの音楽が聞こえて来た。
楽器の発する振動と共に、だんだん行列が近づいてくる雰囲気にルクレツィアがドキドキしているのが分かる。
周りよりも比較的背の高いヴィンセントが見回しても、ティファやバレットは目につかない。
何度もコールが鳴って答えない様子に、ヴィンセントは自分で電話を切った。
「ヴィンセント、どんなパレードなの?」
周りの熱気に気おされながら、ルクレツィアが聞いて来た。
遠くに聞こえていただけのマーチの音が手前まで伸びて来て、行列の先頭が今にも目の前に迫って来そうだ。
「この地域の女王を称える行進だったんだ。」
ヴィンセントが彼女に答えた時に、大きな行進曲の音量と共に列の先頭が遠くの道の彼方に姿を現した。
凝った刺繍がシャツと赤い上着に施された軍服に身を包んだ鼓笛隊を先頭に、かっちりとリズムに乗ったパレードが足音高く近づいてくる。
待ち合わせなんてすっかり忘れているように夢中でパレードを見るルクレツィア。
と、携帯が鳴って電話に出ると、
「ヴィン、今どこにいるんだ?」
と不機嫌そうな声が聞こえて来た。
「うちから大通りを出た所の柱が待ち合わせ場所って、聞かなかったのか?」
自分でもどこか分からないくせに、セフィロスに答える。
パレードをよく見ようとルクレツィアが人込みに入って行こうとしたのを、はぐれないように手を取った。
「どこだよ、そこ。」
ルクレツィア、待ち合わせ場所ってどこ?、とヴィンセントが聞く。
すごいマーチの音量に、彼女の声が聞こえなかった。
「もっと前で見たい!」
耳を近付けるとルクレツィアが怒鳴ってきた。
「セフィ、分かんないや。今どこにいるんだ?」
通りの人込みをかき分けて前に行こうするルクレツィアの手に引っぱられながら、答える。
「さっき、クラウドがティファを見つけたって言ってたな。」
「ティファも探してるんだよ。どこにいるって?」
マーチに声がかき消されそうになって、大声で話す。
「この近くじゃないか?広場に出る大通りの近くの『ウィッチャリー』が見えるぞ。」
「なんだって!?」
ルクレツィアの手が離れそうになって、急いで掴み直した。
「緑のレストランだよ。ヴィンも知ってる。」
ちょうど隊列の半ば辺りのパレードの一団がヴィンセントの目の前を通り、
行進の足音とマーチと装身具ががちゃがちゃ言う音がうるさいぐらいに耳に入ってきていた。
「ルクレツィア、パレードと一緒に緑のレストランの方へ行くよ。マリンとデンゼルもいるみたいだし。」
そっちへ行くから、と電話を切ってウィッチャリーの近くヘ来たのだが、セフィロスの姿が見えず冒頭に戻る、と言うのが今の状況だった。
「セフィみたいに目立つのはすぐ見つかると思ったんだけどなぁ。」
「隠れてるんじゃないの?」
目の前を隊列がマーチングして行き、広場に集って来ていた。
ミッドガルの広場はライトアップされ、総勢何百人と思われる軍人の衣装に身を包んだ人々が、音楽に合わせて少しずつ全体の形を整えていく。
腰に下げた剣のがちゃがちゃいう音と、ザッザッと規則正しい足音がマーチの音楽に合わせて聞こえ、赤、ブルー、
グリーンの上着にきれいに別れた隊列は国旗のように見事に等分に配置されていた。
「あの服の刺繍に意味はあるの?」
ルクレツィアが聞いてくる。
「女王の紋章かなんかじゃ・・・。」
「それぞれの家かミッドガル市の紋章だ。」
セフィロスの声に、二人とも振り向いた。
「ティファはあっちだぞ。」
セフィロスが指し示す先にマリンとデンゼルもいて、ルクレツィアは手を振って走って行った。
「大体観光客向けに始めたイベントに、女王の紋章なんかわざわざつけるわけないだろ。」
さっきまでルクレツィアがいた場所に、セフィロスがするりと納まった。
ミリタリー・タトゥーは最高潮で、マスゲームのように隊列を変化させ、美しい模様をつくり出している。
「セフィ、どこで待ってたんだよ。」
「腹減った。なんか食わない?」
ヴィンセントの言葉を無視して話しかけた。
「もう遅いから、ルクレツィアを家に戻さないと・・・。」
「あいつ等が預かってくれるってさ。」
ティファとクラウドが大丈夫、とヴィンセントに合図した。
「何食べたいんだ?」
「ウィッチャリーか、その辺のバーでも。」
その場を去って行く二人を見て、
「あっ!」
とルクレツィアが追おうとしたのをティファが止める。
「もう十分パレード付き合ってもらったでしょ。」
不満そうな彼女の表情へにっこり笑って釘をさした。
「そういえば、ルクレの待ち合わせ場所全然分かんなかったよ。」
マリンがそっと囁いた。
「ごめん、分かりにくくって!」
うんうん、と頷くデンゼルにも明るく謝るルクレツィア。
緑のレストランのニ階の広場が見える場所から、ヴィンセントはミリタリー・タトゥーを見ていた。
ーあのガキ以外と手の込んだことしてくれるよな。
見られているのに気付いて、ヴィンセントが広場から目を離して口を開いた。
「パレード中ずっと引っぱりまわされて、すごい疲れたよ。」
「それがあいつの目的だったんだろ。」
セフィロスの言葉に、ヴィンセントがちょっと眉を上げた。
「セフィはどこで待っててって言われたんだ?」
軽い前菜が来たのに、手を伸ばしながら聞く。
「ヴィンを連れて行くからよろしくって言われただけだ。」
「そんなんで来たのか?・・・あの人込みの中。」
「別に会えたからいいだろ。」
「ルクレツィアとなんか取り引きしてないか?」
「・・・・・、するかよ。」
ほんとかなぁ、と言いながらもそれ以上ヴィンセントは問いつめなかった。
暑い夏のミリタリー・タトゥーが終わると、ミッドガルには涼しい風が吹き始め、少しずつ人を物思いへと誘う秋の季節が来るのです。
【First uploaded on August 17, 2008】
【Re-edited on April 13, 2014】
044. 祭りのあと