「だからってそんな不機嫌な顔をするなよ。」
スタジアムの地下施設を見回るヴィンセントにくっついてセフィロスが言った。
無言でヴィンセントは次のコーナーをまわる。
「あいつらがそう言っていても、誰も褒美を目当てに動いてないって。」
彼が無言な意味が分からなくて、彼の関心を引きそうな言葉を言ってもヴィンセントはこっちを見ない。
「ヴィン、ちょっとは俺の目を見ろよ。」
せっかく側にいるのにちっともこちらを見ない黒髪を、腕を掴んでぐいっと顔を自分の方へ向かせる。
いきなり引き寄せられてびっくりしている目が、セフィロスを見つめた。
「この案件に全然協力的じゃないな。」
「別に、そんなつもりじゃ・・・。」
言い淀む彼を無視していきなり壁に押し付け、唇を重ねた。
ーなっ!
逃げようと身動きをしたらすぐに唇が離れて、
「もう一回したい。」
と拒否する間も与えずにまたキスされた。
今度は舌が入り込んで来たのに、びっくりして思わず受け入れてしまった。
絡め取られる舌の感触にぎゅっと目をつぶっていると、彼が身体を撫でてくる感触がして目を開く。
すぐ目の前にある顔の碧の瞳は気持ちよさそうに閉じられて、銀色の髪が数本顔にかかっているのが分かった。
セフィロスの手がヴィンセントの背中を滑り降りて、脇を愛撫しながら彼の敏感な胸の場所へ移動してくる。
「んっ・・・・・・はぁっ・・・」
服の上からそっとその場所を撫でられて、思わず声が漏れでた。
「周りに人がいるかもしれないから。あまり声をあげるなよ。」
首筋にキスをされながら、セフィロスが言う言葉に顔が熱くなった。
「ならっ・・・こんなことするんじゃない。」
セフィロスが彼のシャツのボタンをはずしている手を止めようとした。
「やめたくはないんだ。」
2、3外れたボタンの隙間から、さっきの愛撫で少し赤く立ち上がった突起を見つける。
「んっ・・・やっ・・・めっ・・」
指でくりっといじった後に、舌で愛撫を始めた。
ーセフィっ・・・
子どもの頃に会ったヴィンセントだと分かったら止めるだろうかと、一瞬頭をよぎる。
ー宝条、こいつに一体どんな教育をしたんだ・・・!
下半身に伸びる手を止めようとするが、それを優しく阻止される。
「好きだ。最初見た時から。」
耳もとに甘く囁かれた。
「分からないな。会ったばかりなのに。」
愛しそうに自分を見るセフィロスの瞳に、ヴィンセントは目を反らす。
その時にあらわになった自分の胸元が見えて、思わず開いたシャツを寄せた。
軽く唇にキスされて、耳たぶを噛もうとされた感触に
「もう、いいだろう。」
と目的地の方角を確認して、セフィロスの頭を自分から離した。
「そうか。」
立とうとよろけたヴィンセントを抱き寄せて立たせる。
身体を支えてくれた礼も言わずに、じろりと彼を見てから軽く銃を確認し、急ごうと先を見遣った。
「別に、誰も見ていなかったぞ。」
にやにや笑って、セフィロスがその行動を見守る。
「お前・・・、やる気あるのか?」
今度は十分彼と距離を取れるように、早足で地下の通路を歩きだした。
昨日のチーム分けで、見かけが目立つセフィロスはコンファレンスの場所となる地下の点検組、アンジールは地上の不審者のチェック組、と分けた後、
「シスネはセフィロスと、私はアンジールと回る。ジェネシスは・・・」
と続けるヴィンセントに、
「俺はこんな小娘と組むのはごめんだ。」
とセフィロスがいきなり言い放った。
アンジールが、うわっ始った・・・、と困ったような顔をする。
「俺だって、二人組のおまけなんてごめんだな。」
ジェネシスも迷惑そうな顔をして、アンジールがさらに頭を抱える。
「ソルジャーは指揮官の命令が絶対じゃないのか?」
うんざりとヴィンセントの返す言葉に、
「俺はヴィン、お前と回る、ジェネシスは出番があるまでホテルで寝てろよ。」
とセフィロスが勝手に決めた。
「OK。俺は最後の決めってことね。」
地道な作業が無しと分かって、快くジェネシスが引き受ける。
「出番無しかもしれないがな。」
セフィロスがちくりと言いさした。
そんな言葉を全く聞いていないジェネシス。
ヴィンセントが勝手な割り振りに抗議しようと口を開くと、
「ヴィンス、あいつらああなったら絶対に聞かないから。」
とアンジールに止められた。
で、しょうがなくセフィロスと二人で現場に来たら変に絡まれ今に至る、となるわけだった。
ー本当に役に立つんだろうな・・・こいつら。
いきなり襲われたことで、更に不信感が倍増するヴィンセント。
「そんな顏しなくてもちゃんと危ない時は守ってやるから、安心しろ。」
数日ぶりに帯刀した正宗をヴィンセントにさり気なく見せるようにして、セフィロスがくっくっと笑う。
「あんな事されてどうやって、万が一の時を信用しろと?」
あきれた、という風にヴィンセントが答えた。
「分からないならもっとじっくり教えてやろうか、さっきの続きをしながら。」
セフィロスが楽しそうに返事をする。
「大体、ちゃんと守る対象を分かってるんだろうな。新羅カンパニーの社長だ。」
警戒警報がレッドカード近くになって、ヴィンセントとセフィロスの間に若干距離が空く。
「お前を守るついでに守ってやるさ。」
ソルジャーになってこの方、向かう所敵無しの英雄がさらりと言った。
二人は金融会議の会場のカンファレンスルームへ向かう通路を点検していた。
当日、サッカーの準決勝が地上で行われるスタジアムの地下にその会議室は造られていた。
不特定多数が入場するサッカースタジアムは重要な会議に不向きと思いきや、以外と入場者が手荷物検査を受けたり、試合中に行き来する人間が少なく目立つので、警備が容易な面もある。
会議室に入る入り口はサッカースタジアムの入場口とは別で、スタジアムの管理ルームに入室した先にある地下に続く扉を通らねばならなかった。
ー非常口は地上のスタジアムの非常口に直結か。
ヴィンセントがスタジアムの見取り図を見ながら確認している。
「地下の通路は大部分が地上のスタジアムに繋がっているが、一ケ所だけ別の建物に行ける通路があるな。」
セフィロスの言葉にヴィンセントが振り向いた。
「今回の会議がある会議室から伸びている非常口の一つだが、隣の体育館の建物に直結している。」
ヴィンセントが見取り図から確認しようとすると、セフィロスが後ろからその場所を指し示した。
「何でかって聞くなよ。俺だって今見つけたんだから。」
彼の顔を見て口を開こうとしたヴィンセントを先留めする。
「まあ、その先も非常口だから警備員を置くが・・・。」
セフィロスの指摘にちょっと考えていると、携帯が鳴った。
ーヴィンス、外の点検は終わりだ。
アンジールからの連絡だった。
「ありがとう。こっちが終わったら連絡する。」
ヴィンセントが手短かに切るろうとすると、
ーちょっと・・・お願いがあるんだが。
とアンジールが言葉を続ける。
「なんだ?」
ヴィンセントが促す。
携帯で話をしながら、ヴィンセントは徐々にさり気なく早足になり、セフィロスから距離をとった。
携帯を切る直前に、ちらりと視線を投げると彼と目があってため息をつくと、立ち止まって彼を待った。
「何だったんだ?」
セフィロスが追い付いて来る。
「お前、いい友達を持っているな。大事にしろよ。」
「アンジールのことか?」
「もう一人もだ。」
スタジアムの残りの半周を話をしながら並んで歩いていく。
「友人に免じて、多少変態でも目をつぶってやるから。」
「なんだと?」
軽くため息をついた表情のヴィンセントに、心外なコメントをされてつっかかるセフィロス。
ーあいつがあんなに他人が気になるなんて初めてなんだ。
多少うざくても、付き合ってやってくれないだろうか?
携帯越しにも係わらず更に小声で、セフィロスに勘付かれないようにアンジールがヴィンセントに頼んで来たのだった。
ー例え見覚えがあったとしても懐きすぎじゃないか?
二人で地下を見始めた時の彼の行動を思い出して、自然に盛大なため息が出てくる。
「ジェネシスは心当たりがあるから、別ルートを当たってみるそうだ。」
時間つぶしに話し掛けると
「ふうん。まあ、邪魔は少ない程いいからな。」
あいつなりに気を遣ったんだろ、というセフィロスに返す言葉がない。
「・・・・」
ー・・・宝条、自分の息子ならもうちょっとまともに育てろよ・・・。
思わず彼の親に文句の電話をかけたくなったがぐっと堪えて、ヴィンセントはカンファレンスルームの点検を続けた。