「今回の案件にソルジャー1st3人なんて豪勢なスタッフを揃えてくれたことに、時間をかけて礼を言いたい所なんだが・・・。」
白いテーブルクロスがかけられた食卓の前に座った3人は、こんな真夏しか季節が無い国に不要ではと思われる暖炉の側に立つヴィンセントの方に顔を向けた。
「あいにく時間が限られていてね。急いで概要を説明する。」
扉すぐ脇にスタンバイしたシスネにヴィンセントが視線を投げた。
「用意した書類を。」
「はい。」
シスネが暖炉脇のサイドボードにのっかった三つの紙の束をアンジール、セフィロス、ジェネシスの順にテーブルに置いた。
「あんたたちここが拠点なのか。」
ジェネシスが彼等の用意のいい動きに思わず口にした。
「いや。」
ヴィンセントが軽く否定したすぐ後すぐに、部屋の奥から白いロングエプロンを着けた給仕が食事を持って来る。
休暇中だったらジェネシスも喜ばせる内容の洗練されたフレンチオリエンタルミックス風味の料理だったが、空腹に我慢できずにさっさと口を付けたのはアンジールだけだった。
セフィロスは、目の前の上品な盛り付けの前菜を見て、
「お前こう言うの好きだったっけ。」
とヴィンセントに話しかける
「さあ。君の好みじゃなかったら申し訳ない。」
愛想とすぐ分かる微笑と一緒にそっけない答が返って来て、ヴィンセントも暖炉から離れて食事の席についた。
シスネも彼の隣に納まる。
縦長のテーブルに並ぶ三人に相対してヴィンセントとシスネが座った。
「食事をしながらの打ち合わせだから。リラックスして下さい。」
アンジール以外は食事に手を付けていないのをみて、ヴィンセントが言葉をかける。
「二人とも緊張してるんじゃないか。俺たちの食べながらの打ち合わせなんて、ソルジャー見習いが作る野戦食みたいなのしかないから。」
アンジールが前菜の皿を平らげて満足そうに言った。
ジェネシスは彼の満足した顔を見てふっと笑い、フォークを手に取った。
「取りあえず背景を説明する。聞き流してくれてかまわない。」
ヴィンセントは三人の顔を軽く見渡して言った。
隣のシスネは食事に手をつけず、黙って彼の次の言葉を待つ。
「実は3日後に世界蔵相の緊急会議が非公式にあるんだが、それに急遽新羅カンパニーの社長が出席することになった。」
三人とも無反応に食べ続けていた。
「まあ、よくあることだがこの蔵相会議主席に関して新羅カンパニーの社長宛に脅迫状が届いていた。但し、届いた当時は出席を予定していなかったが。」
ヴィンセントが続ける。
「この位は別にどおって事はない。蔵相会議なんて良くあるイベントだし、当てずっぽうで送った可能性も十分にある。」
まだ食事に手を付けていないシスネに、ヴィンセントが君も遠慮せずに、と言った。
「ただ、蔵相会議の脅迫状が届いた後、新羅の社長が偶然に視察した忘らるる都で爆発騒ぎがあり、建物が一部損傷した。大事はなかったが、この事に関して実は脅迫状が事前に届いていた。」
ジェネシスのフォークが一瞬だけ止まった。
「で、今回の金融会議も急遽出席が決まった。前回の件と違って今度はスポーツ会場のど真ん中だ。また爆発物なんか使われたら被害が大きいので、私達が準備しているわけだ。」
ヴィンセントが手早くまとめた。
「蔵相会議の場所を変えたら。」
ジェネシスが言った。
「もともと蔵相がアンオフィシャルに集る会議だから、場所は事前に決定していなかった。が、まさかこの場所で開催するとは・・・。」
前振り終わり、と言うようにヴィンセントがやっと三人に配った書類を手にする。
アンジールが困ったように大量の書類の束を見て、開くのをやめた。
セフィロスは既に前菜の間にざっと全部目を通していた。
ジェネシスは分厚い書類を見た瞬間に中身を読む気もせずに、ヴィンセントの話を聞くだけに決めているようだった。
「誰が蔵相会議の場所を決めたんだ?」
セフィロスが口を開いた。
「多分、この国の中枢部がスポーツイベントと自国のお披露目をかねて決定したんだと思う。彼等は新羅カンパニー社長の出席の件を知らないはずだから・・・。」
「何で知らないんだよ。」
ジェネシスが信じられない、という感じの口調で言った。
アンジールが食事の手を止めて大きく息をはいた。
「実は、事件の依頼があった時に統括に新羅関係者だとおおっぴらに言わないように注意されたんだ。」
ジェネシスの眉があがる。
「本当はタークスだけでこの案件はやるべきなんです。でも、ここの中枢部はある因縁があって、新羅カンパニー関係者を大変嫌っているので・・・。」
なので、顔が割れていない私がくることに、とシスネが続けた。
「ただ、出席国の蔵相の一人が巨大コングロマリットとして市場を牛耳っている新羅カンパニーの出席がなければ、会議の実効性がないと考えて極秘裡に呼んだらしい。」
「政治屋は大変だな。」
セフィロスがふん、とばかにしたように鼻で笑った。
「でももし、この金融会議が御破算になったら、みんな収入が激減するんじゃないか?」
ヴィンセントの言葉にえっと!?とジェネシスがショックを受けたような顔をした。
「今回の蔵相会議は、最近おこった市場の金融不安を早期解消する為に開くものだ。新羅カンパニーみたいな資金源が豊富に必要な大企業が、この金融危機を乗り切らなければ企業として生き残れないんじゃないか。」
三人の様子を観察するヴィンセント。
「なら成功したら?」
ジェネシスが付け加える。
「さあ。報酬は聞いてないが。」
「何かあんじゃないか?統括のことだから。」
アンジールが言うのに、シスネがすぐに口を開いた。
「社長から成功の際には何でも欲しい物を与えると伝言を受けています。」
「何でもって、大盤振る舞いだな。」
アンジールが口笛を、ひゅう、と鳴らした。
「新羅カンパニーが欲しいとか言ったらくれんのか?」
ジェネシスが笑ってシスネに言う。
「それは・・・どんなレベルを言っているのかは私には分かりません。私も上司からそのように聞いただけなので。」
シスネが言い淀んだ。
「可能なものならん何でもくれるって思っていいんだな。」
セフィロスがにやりと確認するように言った。
「はい。新羅カンパニーでできるものなら大丈夫だと思います。」
シスネの言葉を聞きながら、セフィロスがヴィンセントをちらりと見た。
その意味が分からず曖昧な視線をヴィンセントが返す。
「よし、ちょっとやる気になって来たところで、お前の作戦を聞こうか。」
さっさと食事を空にしたジェネシスが、ヴィンセントに上から目線で言いかけた。
「ジェネシス、今回の指揮官に失礼だろ。ヴィンス、すまん続けてくれ。」
「いや、やる気になってくれて良かった・・・。」
ヴィンセントが続けて今回の作戦内容を話す間、セフィロスは黙々と食事と続け、ジェネシスは5分ごとに口を挟み、アンジールはメモを書類に取りながらジェネシスを時々止める。
ーソルジャー1stだよな・・・こいつらで大丈夫なのか?
ヴィンセントの眉間にしわが寄りそうになる。
ーヴァレンタインさん、大成功ですから。あれで三人とも相当やる気になってますので。
シスネが不信感を抱きそうになっているヴィンセントに囁いた。
彼女の囁き声にセフィロスの耳がぴくっとしたのに、気付いたのは彼の皿を下げようとした給仕だけであった。

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