ヴィンセントが目をさますとベッドの上に寝ていた。
ーあれっ?
すぐに起き上がって、部屋の中を観察する。
ー族長の宮殿に居たんだよな・・・
窓の外を見ると見なれた景色の中に、族長の宮殿が目に入った。
ー爆破されなかったんだな。
ちょっと安心して窓際にある椅子に座った。窓から見える景色は何週間か前に某国へ入国して首都を見た時と同じ景色だ。
ほこりっぽい砂漠のにおいと、乾いた空気、そしてめったに雨の降らない青い空が首都全体を覆っている。
ちょっとして椅子から立ち上がろうとすると、ガクッと力が抜けた。
「うわっ」
床に膝をついた瞬間、お腹がなるのが分かった。
ーはあ〜、すっごい空腹だ。
なんとかテーブルに手をついて立ち上がると、ガチャッとドアが開いてセフィロスが入ってきた。
「目さましたんだ。」
ヴィンセントの様子を見てひょいっと彼を抱き上げてベッドに戻した。
「なっ!・・・セフィ。」
「飯食って落ち着いたら、帰るぞ。調査完了だからな。」
セフィロスがベッドの隣に椅子を持ってきて腰掛け、ヴィンセントをじっと見つめた。
「頬と肩は消毒した。かすり傷だけど銃の傷だから化膿することもあるから。」
しかも、跡を付けたくないし、と今にもキスしそうな感じで近付いてきたので
「セフィ、すっごいお腹がすいて死にそうなんだけどな。」
と力一杯笑顔を浮かべながらセフィロスのから身体を離す。
ー今襲われたらひとたまりもないよ・・・(汗)
防御本能が働くヴィンセントであった。
セフィロスが食事を取りに部屋を出るとヴィンセントは横にPCがあるのに気付いて例の書類を見ようと起動した。
セフィロスがトレーに食事をどっさり乗せて帰って来た時、ヴィンセントはPCの画面を真剣に見つめて『chemical weapon』のファイルを大陸標準語に訳していた。
「別にそれヴィンがやらなくても、あの親子がやってくれるぞ。」
トレーをベッドに近くに置いてセフィロスが話し掛けた。
「その連絡を取るのは誰になると思う?」
ヴィンセントが聞いてきて、なる程自分でやった方が早いかもな、とセフィロスが納得した。
「じゃあ口あけて。」
セフィロスが食事をヴィンセントの口に運ぼうとしているのに気付いて、
「セフィ、いいから。」
とヴィンセントが断る。
「こうすると、訳しながら食べられるぞ。」
セフィロスがいたずらっぽそうに笑うのを見て、ヴィンセントはPCを閉じてセフィロスの持っているスープを受け取った。
「ヴィンってケチだよな。」
食事をするヴィンセントを横で見ながら楽しそうなセフィロスを見て、まだまだ子供だ・・・と思うヴィンセントであった。
部屋の中は朝の明るい日ざしから昼へ向かう力強い光が差し始めていた。
セフィロスはヴィンセントをじっと見ていたが、あんまり見るなよ、と彼が呟くのを聞いてくすくす笑った。


某国の国際空港にシドの飛空挺が着陸している。
周りには某国の族長と王女、ユフィ、エアリスとイファルナが見送りに来ていた。
「ヴィンセント、また是非我が国に来て下さい。」
族長がヴィンセントの手を握りしめてにっこり笑って挨拶する。
「こ、光栄です。」
ドン引きしながら答えるヴィンセントであった。
ーなんかすごい有益な友好関係を築いていますな。組織としては願ったりかなったリですわ。
ケットがひそひそとエアリスに言うと、
ー当たり前よ、ヴィンセントはその為に体張ってたんだから。
とエアリスが返す。
ー体張るっていうと、もしかして・・・
シドがエアリスに何があったのか詳しく聞こうとすると。
「シド、どっちとも寝てないからな。」
と飛空挺に乗船しようと帰ってきたヴィンセントが囁き声で睨み付けた。
でも、キスしたくせに・・・とぼそっとセフィロスがヴィンセントの耳もとでいう。
ーセフィ、そんなこと言ってないだろ。
ヴィンセントが囁き声で言い返す。
じゃあ言いふらそっかな〜と言うセフィロスに焦ったヴィンセントは、
「セフィ、ほら帰ったら一回昼飯おごってやるから。」
「ふーん、それだけか?」
とセフィロスが意地悪そうに言う。
「・・・」
「もうちょっと俺が喜ぶものを考えられないのか?」
一週間俺の秘書をしてくれるとか、お前のうちに1ヶ月滞在とかな、と言い出す。
「・・・じゃあ、・・・」
ヴィンセントがセフィロスの方をちらっと見てため息をつくと口を開いた。
一回だけ出かけるの付き合ってやる。」
声が小さくなっていたが、セフィロスとエアリスにはばっちり聞こえた。
「ちょっとセフィちゃんやったじゃん。」
エアリスが話し掛けるのを
「当たり前だ。俺がこんなに迫っているのに落ちないやつはいない。」
とふふん、と威張る。
「いっとくけど、私の行きたい場所行きたい日にちを指定するからな。」
とヴィンセントが微妙に浮かれ気味のセフィロスに釘を差した。
「セフィロス、元気でね。」
イファルナが声をかけると、セフィロスはにっこり笑ってまた来ます、と答える。
セフィロス、ヴィンセント、シド、ケットが乗船し、飛空挺が離陸して青空の中ミッドガルの方へ舳先を向けた。
某国は調べていけばまだまだ片付けることや不審な点が数多くあるが、取りあえず組織で関れるのはここまでだ。
徐々に遠ざかっていく某国の首都を眼下に見ながら、ヴィンセントがケットに話し掛けた。
「私の経歴から、某国の言語堪能って削除してくれないか。」
ケットの耳がピクッと動く。
「あんさんそれは無理な相談ッスよ。あんな内部に有利な人脈持ってたら。」
ちなみに、カンディフ族に有利な人脈ありと経歴に付け加えさせてもらいますから、とケットがぴょんぴょん飛びながらあっさりにヴィンセントの頼みを却下した。
ーその人脈に会うのがやなんだよな・・・
ヴィンセントは二度とこんな案件が来ませんように、とどこにいるか分からない神様に願った。
飛空挺は優雅に某国の国境沿いをさよならを言うように旋回してから、一路ミッドガルヘ向かって消えて行った。

Fin

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