ーあと20人・・・
セフィロスのところにはまだ一人も来ていなかった。
ー場所的にここはまずいな。
宮殿の最上階の寝室は逃げるにしても脱出口がかなり限られる。
「おい、エロおやじ。ここから外に直通の出口はあるか。」
セフィロスが聞くのに
「君、せめて族長と言って欲しいんですが。」
と緊張感なく族長が答える。
「ヴィンを諦めるってここで言うんなら、呼び方を考えてやってもいい。」
セフィロスの言葉を聞いて、う〜んと考え込む族長であった。(考え込むんかい!)
「取りあえず、ベッドの下に隠し階段が。」
呼び方に関しては譲歩する気になったらしく脱出口を教えてくれた族長であった。
「ベッド退かした方がいいのか?」
と聞くセフィロスに、多分這いつくばって行けば大丈夫と答えが返ってきた。
セフィロスがベッドの下を伺うと、なる程、隠し(?)扉が見えた。
「あのさあ、こんな気づきやすい所にあるのは引っかけじゃないのか。」
とセフィロスが族長に言う。
「やっぱりさすがですね。こちらへどうぞ。」
ーこいつ、試したな・・・
ちょっと勘に触ったセフィロス様でありました。
族長が誘導した場所は何の変哲もない壁だったが、ちょっと力を入れると開き、3階から滑り台のように1階へ繋がる脱出口だった。
「この先の出口はどこに出るんだ。」
とセフィロスが聞くと
「正面玄関のあたりです。」
と返事が返ってくる。
ー出口は見晴しが良さそうだな。待ち伏せされてたらちょっと危険だ。
じゃあ俺が先に行くぞ、とセフィロスは正宗を鞘にしまって開いた扉に手をかけた。
屋敷内に侵入した人間を追ってヴィンセントは回廊の入り口から、まっすぐ廊下に沿って進んで行った。
人影は迷うことなく回廊からの廊下を左に折れ曲がり、ヴィンセントが追って廊下を曲がると人影が消えていた。
まがった先の廊下もまっすぐどこまでも続いていて、窓からの月明かりでぼんやり照らし出されている。
窓の反対側には等間隔に曲がり角が見えていた。
ーこの間取りからいくと、真上は・・・確か謁見の間だ。
別荘へ行く迄の間に、ヴィンセントが通訳として毎朝出て行った広間である。
と・・・ばたん、と扉を閉める音が近くでした。
音をたよりに一番近い曲り角を曲がると、侵入者が入って行ったと思われる扉が見えた。
ヴィンセントは物音を立てないよう近付いて行ったが、その間全く人の気配は感じられずに、扉は静かに閉ざされたままだった。
ー中に人がいるのか?
扉に耳を押し当てて中の物音が少しでも聞こえないかと思ったが無理だった。
周りを観察する。
ー挟み撃ちになったら最悪のロケーションだな。
不審者が入って行ったと思われる扉は廊下の突き当たりにあり、その廊下には他に続く部屋はない。
ーこの廊下の長さは約40m・・・その間に身を隠すスペースはなしか。
扉をあけるか、別の方法をとるかちょっと考えたが、ふっと天井を見ると真ん中辺に取っ手がついていて開きそうな感じだった。
ー随分わざとらしいけど掃除か何かに使う物置きか?
それにしては届きにくい所にあるな、と思いながら軽くジャンプして取っ手を引っ張った。
ふた?が開きスペースが見えたので手をかけて上に登る。
ー思ったよりも広い?
その時人が近付いてくる音がしたので、急いで天井裏に登ってふたを閉めた。
滑り台をおりると場所は地下のように見えた。
セフィロスが滑り台から離れると、すぐに後から族長が続いてくる。
「壁閉めたか。」
セフィロスが聞くと、大丈夫ですよ、と族長が答えた。
レンガ造りの下水道のような感じで、道が正面へ向かってまっすぐ続いている。
「正面玄関の辺り?」
セフィロスが族長に不審そうに聞くと、
「真上が正面玄関です。」
とにっこり笑って言った。
ーこいつ、どこに出るのかちゃんと言え!
いえいえ、セフィロスさんあなたの失礼な言動の数々に対する仕返しでは・・・
「っていうかさあ、お前仮にも宮殿の主人だろ。俺以外に誰も助けに来ないのか?」
人望がないんじゃ、とセフィロスが付け加えると、
「警備員はいるんですが、平和な期間が長かったですからねぇ・・・」
手だれのものが10人くらい来たら、みんなダメかもしれません、と言った後はっとして
「やっぱり私は宮殿に帰ります!」
と族長が脇の階段を上がろうとした。
「ちょっと待て!」
セフィロスが素早く彼の襟首を捕まえる。
「お前せっかく脱出できそうなのに、俺の努力を無駄にする気か!」
目を見て睨み付けると、
「私は宮殿の主人ですよ。主人が部下をほっておいて逃げる訳にはいきません。」
と以外とまともな答が返ってきた。
ーめ・・・めんどくさいやつ・・・
一瞬殴って気絶させて運ぼうかと思ったセフィロスだったが、追手が来たら彼を抱えて応戦出来るか微妙だった。
「お前が帰るとヴィンが残っているのが無駄になるんだよ。」
取りあえず族長を説得できそうな言葉をかけてみる。
彼は、ふむ、と少し考えて、ではあなたについて行きましょうか、とあっさり結論を出した。
ー・・・こいつ絶対後で締める・・・
今は無理だが、と思って族長に声をかけた。
「この道はどこに続くんだ?」
「まっすぐ行くと第三王女の屋敷に着きます。いわゆる抜け道ってやつですな。」
「距離はどのくらいだ。」
「1kmぐらいですかね。」
じゃあそっちに行くぞ!とセフィロスはさっさと決めて下水道の中を進み始めた。
ヴィンセントが天井の良く分からない蓋の中の空間に隠れた時、下の方でがたがたと人が廊下を通る物音がした。音からして廊下の突き当たりの部屋に入ったようだった。
ーさて、ここは・・・
周りを見ると配管と僅かな隙間がずぅっと続いている。
ー天井裏、というか床下か。
明かりが前の方からもれていたので慎重に進むと、明かりのもれている隙間から下の部屋が見えた。
予想通り下の部屋は謁見の間と同じぐらいの大きさで、その中にいるのは不審者の仲間と思われた。
ー10人ぐらいか・・・
後の10人はどこにいるんだろうと思いながら、下の部屋に自分の影が映らないように注意して窺う。
良くは見えなかったが、どうも建物のキーになる柱にそれぞれ集まって何かを仕掛けているように思った。
ー執務室にも火薬臭がしたし、もしかしたら屋敷全体をどうかしようとしているのか?
それだったら居る人全員を避難させないと、と思ったが取りあえずは場所を動かずに観察を続けた。
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