族長と会った後にセフィロスとヴィンセントは客間の一つに入れられていた。
ベッドの上にヴィンセントは座ってケットの腕を持ってぶらぶらさせて遊んでいる。
セフィロスは窓の側に立ってちょっとイライラしている様だった。
ーあのエロ親父、エロイだけじゃなくて状況判断もできないのか!
族長に会った時に二人で身辺の護衛を申し出たのだが、あえなく却下されたのだった。
ーしかも、ヴィンセントが24時間護衛なら良いけど俺付きじゃ断るって、何か勘違いしてないか?
ケットで遊ぶのに飽きたのか、ヴィンセントはセフィロスが頭から湯気をだしそうな勢いで怒っているのを見て、
「セフィ、そんなにむきになるなよ。」
と声をかけた。
「きっとまだ危ない目に遭ってないからあんなことを言うんだ。護衛を断られても側で守るのは変わらないんだから。」
まくらの方にぽんと、ケットを投げてベッドから腰を上げた。
「だって族長がいないと、査察が決定しても多分治安が悪すぎて査察団が入国できないだろうし。」
窓際に置いてある椅子に移動して、ちょっとなだめようとセフィロスの方へ身を乗り出す。
ヴィンセントが側に来たのに気付いて、セフィロスはくるっと彼の方を向いて、彼の座る椅子の両ひじ掛けに手をおいた。
キスしようと顔を近付けると、ヴィンセントの手がセフィロスの口をふさいだ。
「お前最近図々しいぞ。」
と、ヴィンセントが言う。顔をちょっと離して彼の手をどけた。
「別に好きな人に迫るのは普通じゃないのか。」
とにやりと笑う。
ベッドのまくらに倒れ込んでいたケットが、これは!、と思ってそろりと起き出して二人の方へ近付き始めた。
「しかも、俺はちょっと動転していて気を落ち着かせたいんだが。」
いけしゃあしゃあとセフィロスが言う。
「お前、そんなことで私がいない時はどうする気だ。」
手近なやつで済ませるかも、と言いながらもう一度キスしようと顔を近付けるとヴィンセントはふいっと顔を背けた。
「ルクレツィアに似ているのは顔だけだな。」
セフィロスの肩に手をかけて、彼をどかせ、椅子から立ち上がろうとした。
その瞬間に、勢い良くヴィンセントはセフィロスに椅子に戻された。
「あたりまえだ。俺はルクレツィアじゃなくてセフィロスだからな。」
ヴィンセントはいきなり顔を寄せられて言動からは全く予想もつかない、優しい口付けをされた。
ケットがぴょんと、椅子の脇のテーブルに乗って覗き込もうとしたが、セフィロスに猫の頭を掴まれて、ガシッとうつ伏せに押さえ付けられてしまった。
ー何にも見えないがな・・・
いや、ケットさん二人とも見られたくないんじゃ・・・
しばらくしてセフィロスが唇を離すと、ヴィンセントは彼の肩に手を置いて立ち上がった。
「部屋を別にしてもらおう。」
セフィロスの方を見ずにすっと出て行った。
ーちょっと!何なんだよ!
セフィロスは急いでヴィンセントを後を追い、ケットもちょろりとついて行ったが、鼻の先でドアを閉められてしまった。


ケットは目の前で閉められたドアノブを開けようと、ノブに飛びついてはうまく行かずに床に着地していた。
ーわても続きが見たいがな・・・
続きとはもちろん二人のからみであろう・・・(笑)
なかなかタイミングよく開かないので、窓伝いに何とか部屋を脱出しようと目論み、窓からぴょん、と出たケットであった。
一方族長の護衛の件は全く頭から消え去って、ヴィンセントの行方のみが目下の関心ごととなってしまったセフィロス様は、廊下を走りながら手近なドアを片っ端から明けて彼を探していた。
ーんったく、何が気に入らなかったんだよ。
俺がヴィン以外の誰かに何かする気になるはずないじゃん、と思いながら、もしかして嫉妬してくれたかなら嬉しいかも。と若干うきうきして(考えがお気楽すぎますな・・・)ヴィンセントを探していた。
廊下の端まで行ってもどこにもいなかったが、突き当たりにドアがあったので取りあえず開けてみた。
中は書物の保管庫と見られ、本棚がいくつも並び本も隙間なく整理されて置かれていた。
ーヴィンはこういう所好きだよな。
セフィロスも本が嫌いなわけではないが、どっちかというと部屋の中で読むよりは外に出ている方が好きなタイプだ。
大分広い部屋で、本棚に沿って奥へ進んで行った。
突き当たりまで来て、ヴィンセントが居ないか見回したが目に見える範囲は全て本棚で人影らしきものはない。
ー右に行くか左に行くか・・・
左の方が窓際だったよな、と思ってそっちの方ヘ向かった。
本棚の横板にはどんな本が置かれているか分類が明記してあるが、某国固有の言語で書いてあるのでセフィロスにはチンプンカンプンだ。
ずんずん進んで行くと、窓に突き当たった。
もう日が落ちていたのでどこに面しているかは分からなかったが、街灯がぼおっと見えたので宮殿の外かとも思われた。
突き当たりのところからパーティションで区切られた別の部屋が見えたので、進むと読書室のようになっていてヴィンセントが窓際の椅子に座ってPCを眺めていた。
読書スペースには他には誰もいなかった。
「ヴィン、何難しい顔してるんだ。」
セフィロスが話し掛けるとヴィンセントは顔を上げた。
「ちょっと助けて欲しいんだが。」
何だ何だと、側に行ってPCを見ると本棚に書いてあった文字と一緒の模様でファイルが開かれていた。
「何これ。」
セフィロスが言う。
「お前がコピーした『chemical weapon』のファイルだ。うまいこと読み取れたのはいいんだが・・・」
どうも内容がいまいち分からない、と言葉を続けた。
「どんな所が分からないんだ。」
セフィロスはヴィンセントの隣に腰掛けて、PCを一緒に見た。
「ここの部分なんだが・・・」
ヴィンセントが内容を訳すとどう聞いても、天然痘のウィルスの作り方に聞こえた。
「なんか、アミノ酸とかDNA配置とかRNAの転写確率とか人体に取り込まれるクリアランス値とかなんとかとか、
何が言いたいのか意味がよくわからん。」
途中で止めたヴィンセントに
「取りあえず直訳でいいから俺に聞かせてくれ。多分分かる。」
とセフィロスが言った。
助かるよ、とヴィンセントが言ってその続きをどんどん訳し始めた。
セフィロスはヴィンセントの訳を聞きながら、時々言った言葉を聞き返しつつ適当に内容を説明して、ヴィンセントを見ていた。
ー機嫌直ったのかな・・・さっきの話全然でないし。
もしかしてもう別の部屋を取って安心してるとか・・・と考えるとちょっと落ち着かなくなってくるが、あんまり自分の考えてふけっているとヴィンセントの訳を聞き損ねるのでそんなに考え込まずにいた。
天然痘ウィルスの作り方と、それの兵器への搭載方法と思われる部分の訳がが終わると
「あっ・・・」
とヴィンセントが黙って、PCを凝視した。
セフィロスも不審に思ってヴィンセントを見る。
「セフィ、地図だ。」
ヴィンセントがPCを指差した。
セフィロスがPC の画面を見ると、ヴィンセントがその下に書いてある説明書きを読んだ。
「兵器の製造場所。」
二人は思わず顔を見合わせた。
「セフィ、ビンゴだ。」
「mission completeだな。」
取りあえず、証拠保全にシドの部隊を二つにわけてもらうかとヴィンセントが言った瞬間に、セフィロスは彼の頬にキスしていた。
「セフィ?」
思わず頬に手を当てるヴィンセント。
「あとは族長警護だけだな。」
セフィロスは窓の外に見えるケットにお前そう言うわけだから、兵器製造の場所に行ってくれと命令していた。
「んなこと言われても・・・(ほっぺたチュ以外にも見たいがな・・・)」
ヴィンセントがPCを持ち出して場所を教え始めた時にはケットもしょうがないねんなぁ・・・と思い始めた。

Back/Next

一ヶ月の休暇案内版へ