シドが運転している飛行船は全速力で某国へ向かっていた。
「普通はこんな速度で運転しないんだけどよ。」
とシドが笑いながらケットに話し掛ける。
「うちの期待の星のセフィロスと、あのヴィンセントが来ている案件じゃ張り切らずにはいられないって訳さ。」
とさらにスピードを上げて乗務員を青くさせていた。
ーっていうか、わてもかなり怖いんやが・・・
ぐらぐらとバランスを崩さないように、シドの肩にのってくつろごうとしたが全然揺れは止まらない。
「シドはん、某国への到着予定は?」
ケットは早く飛行船を降りたい一心で聞いた。
「明日の早朝には例の端っこの所にはつくぜ。」
鼻歌でも歌いかねないぐらい上機嫌で運転するシドの横で、乗務員一同そんなに長い時間この運転を我慢しなくちゃいけないのか・・・とぐったりしていた。
ーヴィンセントはんにでも連絡してみるかいな。
ケットは例のコントローラに今の状況を書いて送った。
ーそういやさ、
シドが声を潜めてケットに話し掛けた。
ーここだけの話だけどよ、英雄さんがヴィンセントをちゃんとこの任務の間にものにできるか賭けないか。
ケットがぴょん、とびっくりして飛び上がった。
ーシドはんが気付くなんて珍しいでんな。
ーちょっときっかけがあってな。俺は応援も含めて、英雄ががんばってものにする方に賭けるぞ。
ケットはちょっと考えて言った。
ーじゃあ、わてはヴィンセントはんががんばって踏み止まる方に。
こんなオプションがあるなんてこの仕事は最高だな、と豪快に笑うシドと、あの二人が一緒にいるところは目の保養になりまんがな〜、と怪しい関西弁で跳ね回るケットシーであった。


首都の近くでヴィンセントはぼーっとセフィロスを待っていた。
ーもう寝るかな。
砂の上に座って両腕で膝を抱えている。
はっきりいってこのまま寝るのは危ないと思うのだが、ヴィンセントは全然気にせず砂の上に寝転んでしまった。
ーあいつ、ちゃんと首都に入れたのか?
まああんな自信満々で行ったから、セフィロスに限って失敗して戻ってくることはないだろうと思われたが。
コントローラを見るとリーブから着信があった。
ーこっちに来てるんだ。
ヴィンセントはリーブに、今首都の近くでセフィロス待ちだ、と返信した。
セフィロスは市街に入ってから大事なことを思い出した。
ーもしかして、俺族長の宮殿の場所知らないかも・・・
コントローラの中の地図にはそれらしき場所が数カ所ある。
その辺の人間を捕まえて聞けばあっという間に分かるとは思われたが、
ー今警戒してるのは不審者の侵入だから、変な質問するとチェックされるかもな。
口惜しいけどヴィンに聞くか、とコントローラを出そうとして人影に気付き戻した。
壁の影で窺うと兵士が二人、勤務を終えて帰って行くところのようだった。
「こんな警戒は20年ぶりぐらいじゃないか。」
兵士の一人が言う。
「ずっと平和だったのにな。でもいきなりこんな命令どうしたんだろうな。」
まあ、きっとなにもないさと気楽な兵士の襟元を見ると、
ーあれは族長の紋章じゃないか?
と思える金色とブルーの金属が目に入った。
ちょっとついて行ってみるか、とセフィロスはちょろちょろと兵士の後の尾行を始めた。
ヴィンセントからの返信をケットとシドは二人で見て、にやー、と笑っていた。
ーセフィヴィンコンビで族長護衛の方は動いてるんだな。(ニヤニヤ)
とシド。
ー相変わらずセフィロスはん我が侭の限りでんがな。
と言いつつも自然に跳躍が倍になるケット。
ー普通は男女のコンビでバランス取るよな。
ーいくら増援が多いとはいえ、女の子二人を別荘に置き去りって普通はありえまへんがな。
にやけつつもため息をついた二人であった。
「俺様は急いで目的地へ行くぜ。お前はどうする。」
シドの言葉を聞いて乗務員全員これ以上スピードを上げるのか・・・とさらにぐったりした。
「わてはヴィンセントはんの所に行きたいんやが・・・」
ケットは飛行船から降りたいのも手伝って思わず口に出した。
「そうしたら、紙飛行機があるだろ。」
シドは隣にいる副艦長に話し掛けてケットを案内しろ、と命令した。
ー紙飛行機?
ケットシーは疑問に思いながらぴょんぴょんと副艦長の後についていった。
ーちゃんと賭けの結果見て来いよ。
シドがケットの耳もとで、周りに気付かれないように言った。
夜が明けて大分日が昇ってきてから、ヴィンセントは目をさました。
ーまだセフィは迎えに来てないんだ。
ふわ〜、と伸びをして砂の上に立って、頭を振り上空を見上げると白い羽のようなものが遠くの方に見えた。
ー砂漠で晴天は普通の天候だけどな。
でも、気持ちいいもんだ、と空と砂漠がくっついて見える地平線の方を眺める。
ヴィンセントが清清しく地平線を見ている最中に、
「ヴィンセントはん、久しぶり!!」
上から聞き慣れた声が聞こえて、ドサッ、と何かがヴィンセントの上に着地した。
「うわっ」
肩に着地された勢いで、ヴィンセントは砂の上にばったり倒れこんだ。
ちらっと見ると見慣れた黒い毛のぬいぐるみが目に入る。
「ケット、何しに来たんだ?」
爽やかな朝を邪魔されてちょっと睨み付けるヴィンセント。
「そりゃ〜も〜あんさん、」
あんさんとセフィロスはんの仲を見届けに、と言いかけて
「加勢に来たんですわ。」
とちょっと声を小さくして言った。
「お前が?」
ちょっと不審な目で見られて焦ったケットは
「ほら!あのわてらの組織の新型飛行機にのって!」
と飛行船から乗ってきた紙飛行機(サイズはケットシーが乗れる大きさ!)のような形態の小型飛行機を指差した。
ーーヴィンセント、頼んだぜ〜ーー
紙飛行機からシドの声が聞こえて、白い船影は一目散に(?)いなくなって行った。
残されたヴィンセントは砂の上に座り、ケットはぴょんぴょんと砂の上を飛び跳ねている。
「ケット、お前からかいに来たんじゃないのか?」
ヴィンセントがうさんくさげな目つきを変えずに見ている。
「そんなことあらへん(汗)。とりあえず、セフィロスはんが見つけたファイルを検分しないと。」
えっ、とヴィンセントがびっくりした顔をする。
「そこのPCを起動してくらはい。」
ヴィンセントはそんなファイル聞いてないぞ、と思いながら言われるままにPCを起動して目的のファイルを開いた。
例の『chemical weapon』のファイルだ。
「これは・・・」
ヴィンセントが丹念に全体を見て、ケットシーに言った。
「フォントがあればいいんじゃないか。この国の言葉の。」
一瞬言葉を失ったケットシー。
「・・・セフィロスはんも意地はってないでヴィンセントはんに聞いた方が良かったってことやな。」
で、フォントはあるのか?と聞いたヴィンセントに
「いや〜」
とてれてれと笑うケット。
やっぱり役立たずの猫か?とヴィンセントにしてはきつい言葉を投げかけた。
「そんな言葉ヴィンセントはんらしくないでんなぁ。セフィロスはんと何かあったんやかな?」
「それはどう言う意味だ?」
ヴィンセントの目が険しくなる。
その様子を見てケットシーが、にこー、とした。
「それよりもヴィンセントはん、何であんさんが首都に潜入しなかったんや?市街地の調査はあんさんの得意分野でんがな。」
「そんなの、セフィロスに聞いてくれ。」
あいつ自分が行くって聞かなかったんだ、理由は私に聞かないでくれよ、とヴィンセントが答える。
そんでっか〜、セフィロスはんが来るの楽しみやな〜、とケットが言うのを聞いて、思わずセフィロスに理由を答えて欲しくないと心底思ったヴィンセントであった。

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