某国の首都、カンディフでは戒厳令が敷かれていた。
首都の入り口では兵隊が都市に入る人間を厳しく検閲している。
大して怪しくないと思われる国内の者でも、カンディフ市民に登録されていないと別室に呼ばれて取り調べを受けているようだった。
ーすごい警戒ぶりだな。
セフィロスが都市の入り口から大分離れた城壁から窺っている。
ー多分某国の政治家がいつ暗殺者が入って来るかびびってるんだろ。
気持ちは解るがな、とヴィンセントがセフィロスの後ろで呟いた。
城壁を離れて二人は都市に入る作戦を立て始めた。
「あんな警戒ぶりじゃ二人で一緒に入るのは無理だな。私が先に族長にコンタクトを取ってセフィを中に入れるか。」
「絶対ダメだ。」
何で、とヴィンセントがきく。
セフィロスはちょっと下を向いて言おうか言うまいかかなり迷っていた。
ー絶対あのエロ親父は一筋縄じゃいかない気がするし・・・
なかなかセフィロスが答えないので、しょうがないから二人で別方向から入ればいいのか?と考えだすヴィンセント。
頭の中で色々逡巡していたのだが、やっとセフィロスが口を開いた。
「俺が族長の所に最初に行ってコンタクトをとる。」
「だって、セフィ初めて族長の王宮へ行くんだろう。私が行った方が絶対にスムーズにいくぞ。」
「そう言う問題じゃない。」
セフィロスの目が真剣に(!)自分を見ているのに気付いて、ヴィンセントは黙った。
「もし、お前が今ここで俺のものになってくれるなら・・・少しはお前の案も検討するが。」
「なんでいきなりそう言う話になるんだよ!」
ヴィンセントは話が飛んで思わず赤くなって大声で言ってしまった。
セフィロスはヴィンセントの言動に動じずに、じっと彼から目を反らさずに言葉を続けた。
「だって、お前俺がいない時に、絶対交換条件かなんかであの親父にキスされてやったか何かしてやっただろう。」
ーそっ、それはツォンと会う為に・・・ちょっとあったけど・・・
セフィロスの鋭さ(?)にちょっと怯んだヴィンセント。
「俺を迎えに行く条件もきっとあるぞ。しかもあの親父お前を気に入ってるんだろ。」
「・・・」
「俺があのエロ親父の立場だったら絶対一晩相手してくれとか言うな。」
「いくら何でもいきなりそんなことは・・・」
王宮にいた時も何かされそうになったけど、ちゃんと未然に防いだし、と続けようとして言葉を飲み込んだ。
お前に惚れてる俺としてはそれ以下でも絶対やなんだよ、とセフィロスが言う。
「あのな、セフィ。私も男なんだしそんな簡単には言いなりにはならないよ。」
「でも、キスされたんだろ。」(←こだわっている・・・)
「いや、されたというよりは・・・」
ーこっちからしたんだよな?
状況を思い出してヴィンセントは口にだしかけたが、これを言ってしまったらセフィロスがかなり切れそうだったので黙っておいた。
「自分からしたのか。」
ーぎく。
セフィロスはヴィンセントの顎を掴んでいきなり口付けた。
まあ、彼にしてみたらあのエロ親父に自分の思い人の唇を奪われて口惜しいのと、今日のヴィンの水浴びを思い出して絶対あの身体をあんな奴に触らせるもんかと思っていた。
ヴィンセントは長いキスにちょっとびっくりしていたが、セフィロスがあんまり真剣な目をしていたので断る隙もなく、思わず素直に砂の上に押し倒されて、目を閉じてされるがままにキスされている。
唇を離されてヴィンセントが口を開いた。
「セフィ、私はここで待ってるからなるべく早く呼んでくれよ。」
分かった、とセフィロスはヴィンセントの身体をぎゅっと抱き締めてから首都の方へ向かって行った。
ーほんとに手間のかかる子供だよな・・・っていうか作戦をたてる視点がずれてるし。
まあ、あの濃厚なキスにはちょっとびっくりしたけど、と自分の唇に指を当てた。
ーあいつ、こんなキスどこで覚えたんだか・・・
と思いながら、ヴィンセントはセフィロスの後ろ姿を見守っていた。



某国の首都カンディフは城壁都市だ。
砂漠だらけの某国の中で、もともと最大部族だったカンディフ族と同名の都市の発祥は、族長の城の場所だったことに発する。
城の周りにだんだん貴族が集まり、繁華街ができ、住民も集まってくると、別部族から攻められた時に族長だけでなく、居住している周りの人も守るようになり土地全体を城壁で囲むようになった。
そんな風にできた城壁なので、敵の攻撃を監視、または城壁の上から防衛できるように人を配置できたり、逆に都市の拡張に従って壁も広げていった為、城壁の上をルートを選んでたどれば都市の大分中まで入り込めたりする。
ー堂々と入り口から行くか、忍び込むか・・・
ヴィンだったらきっと入り口から堂々と住人の振りをして入り込むだろうけど、と思ったセフィロスだったが彼にそんな演技力があるわけもなく、あっさり壁の上りやすそうで上に人が居なさそうな所を探していた。
城壁が低すぎず、なんとか飛べそうなポイントを探す。
ーここかな。
セフィロスは高さ4〜5mの城壁のところで立ち止まった。都市への入り口も周りになく、上の方に人の気配もない。
慎重に高さを目測して、正宗を抜き身構える。
勢いをつけてジャンプした瞬間、セフィロスはエアロラを発動してふわっと風に乗り、4m程の所に正宗を突き刺すと、たんっ、と剣の柄を踏み台にして城壁のてっぺんへ着地した。
直ぐに上体を低くして目立たないようにし、正宗を抜く為に壁に手を伸ばした。
ーこのかっこすっげえ目立つな・・・
エアリスも加減しろよな・・・と思いつつこの柄物のシャツのままで街を歩くのは避けたかった。
幸い城壁の上には見る限り近くに人影はない。近くに見張り台のような建物があったので、中に入ると防寒用と思われるのだが、白いマントようなものがあった。
セフィロスはさっさとそれで身体をくるむと、慎重に街に降りて行った。


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