「おい、ユフィ。暖炉の中を調べるぞ。」
ヴィンセントからの連絡をみてセフィロスが言った。
暖炉の灰をすっかり片付けて、床を見るとヴィンセントの言う通りに石の蓋があり、あけると起動ボタンがあった。
ーヴィンはただ押しただけだと何も起こらなかったと言ってたけど。
セフィロスはどうすればいいか、ぐるぐる考え始めた。
ー同時に押すのは大変だよな、後は押す順番とか・・・
とりあえずボタンを押してみたが、全然反応しないのでこれははずれだと思った。
順番変えるにもどのタイミングか分からないし・・・
ーー取りあえず同じタイミングで押してみないか。今から一番近い時間だと、16時ぴったりにーー
メールを送ってから、今は15時半過ぎ、身構えているにはちょっと時間がある気がしたが、まあヴィンセントだったら大丈夫だろうとセフィロスは思った。
「こんな離れた場所で、タイミング合うの?」
ユフィが端末を覗き込んで言う。
「大丈夫だ。あいつと俺は気が合うからな。」
確か時計の時刻も合わせていたし・・・と思い出していたら、
「あんたさあ、気が合う割には振られ続けてるわけね。」
とユフィが言って、セフィロスは思わず正宗の柄で彼女をど突いた。


ー16時。
ヴィンセントは自分の腕時計を見て、時間を確認した。確か飛行船に乗る時に時間を合わせたので大丈夫なはずだ。
「エアリス、16時に向こうのボタンと一緒に押してみることにしたから。」
ヴィンセントが声をかけると、了解、と言うようにエアリスが手を振った。
30分弱あるが、どこかに調べるというにも中途半端でエアリスとヴィンセントは無言で時間を潰していた。
ちなみに、調査部の仕事というのは時間潰しも仕事のうちのことが結構ある。
クライアントの要求の情報にたどり着けたか、若しくはたどり着けなかったけどどんな場外があったか、クライアントが納得できて組織に結果的に利益のある情報をゲットできればOKなのだ。
だから延々と待ち伏せのような、ぱっと見はさぼっているような業務も多々あり、何もすることのない時間をつぶせないとかなり辛い職業ではある。
「エアリス、イファルナがしっかりね、と言ってたぞ。」
ヴィンセントが口を開いた。
「私ね、ヴィンセントの話結構お母さんにしてたんだ。」
とエアリスが言うと、イファルナがすぐ分かるぐらいだったからな、とヴィンセントが答えた。
「きっとお母さんは言ってないと思うけど、銃を構えるしぐさがきれいとか、にっこり笑いかける様子はちょっと犯罪ものとか。」
「だから会った時の第一声できれいとか言われたのか。っていうか容姿のことしか話してないのか?」
ヴィンセントが眉をひそめてに答える。
そんなことないよぉ、親切な先生でしたと言いました、とエアリスがちょっと笑いながら言った。
窓からの陽が段々直角から角度が低くなってきて、部屋全体にオレンジ色が満たされてきた。
「5分前だな。」
時計を見てヴィンセントが暖炉の中にスタンバイした。
15時59分55秒、56秒、57、58、59、
16時、ぴったりにセフィロスはボタンを押すと目の前の暖炉の壁が音もなくすうっと上がっていった。
迷うこと無く奥に進む。
ーちょっと雰囲気がツォンと行ったモンスターだらけの所に似てるよな。
「何かいるかもしれないから、油断するなよ。」
ユフィに声をかけて、彼女がしっかりうなずいた。
ーー暖炉の奥の壁が開いた。そっちはどうだ?ーー
と、通信が入ってきて、
ーーこっちも開いた、そのまま中を調べる。ツォンと調べた所と雰囲気が似てる。危ないかもしれないから気をつけろよ。ーー
と素早く返信する。
暖炉の中を通って直ぐに地下に続く階段があり、ワンフロア分くらい降りたか?という距離を行くと大きく開けたフロアに出た。
ーサーバ室みたいな所だな。
取りあえず製造工場の線はないかな、とセフィロスは思った。
巨大なコンピューターがいくつもラックの中に積み上げられ、ほこりがかぶらないようにガラスケースの中に整然と並んでいる。
そんなガラスケースが辿り着いたフロアにはいくつもあった。
それらを操作する十も割れるコンソールとディスプレイがセットになった大きい装置が、でん、とフロアの端にある。
フロアがどこまで広がっているのか目視しようとしたら、僅かに目の端に人陰が2つ見えた。
「ヴィンセント!」
セフィロスが大きい声をあげたので、ユフィがびっくりしてしりもちをついた。
遠くでヴィンセントが側にいるエアリスに話し掛けてセフィロスへ手を振ったのが分かった。
「あんた相当ヴィンセントにやられてるね。この距離ではっきり分かるなんて。」
はーなんかあたしにはついていけないよ、とユフィがため息をつくと、
「お前みたいな小娘がヴィンとつり合おうなんて、百万年早いんだよ。」
とセフィロスがふふん、と鼻で笑う。
しかも露出が高い服を着てるにも関わらず全然色っぽくないしな〜、と鼻歌を歌いながらコンソール装置の方へ向かうセフィロス。
「このっ!!」
とユフィが本日ニ度目の手裏剣を投げたが、難なくよけたセフィロス様であった。
フロアは階段を降りた所は両端ともすぐにコンピュータ置き場となっており、中央はデスクと作業台のようなものが置かれている。
セフィロスがコンソールの近くへ行くと、ヴォン、と音がして自動で電源が入ったようだった。
後ろのコンピュータも心無しか熱を帯びて稼動しているように思える。
セフィロスはツォンのPCを取り出して、必要最低限の情報を移動させようとコンピュータ内の検索を始めた。
ー結構膨大な情報量だな。
目的の情報にたどり着けるか不安になって来て、取りあえずこのコンピュータのストレージ内の情報一覧ツリーを呼び出した。
ーヴィンの方のコンピュータとも繋がってるのかな。
セキュリティの為に独立していると思われる可能性が大きかったが、ヴィンセントの方へ連絡をした。
ツリーの内容から、怪しそうなファイルを片っ端からチェックする。
30分ぐらい集中していたので、ユフィが話し掛けてくるのに気付かなかった。
「あのさ、セフィロス。聞いてる!!」
はっとして振り返った。
「このコンピュータの様子ちょっとおかしいよ。どんどんダウンしている気がする。」
ユフィが指し示すラックの方を見ると、載っているコンピュータが不自然にどんどん電源が落ちている。
「まさか、ウィルスか。」
セフィロスが、ダウンしているコンピュータを全体から物理的に切り離すぞ、と言ってユフィにお前コンピュータ少しは分かるか、と聞いた。
「一応一通りは。ウータイで親父の手伝いをしてるときコンピュータ関係はあたしがやってたし。」
「なら、あの電源落ちているラックを見て、不自然に電源が落ちてるサーバが全体に繋がれているケーブルを切断してくれ。俺はこっちで情報をプロテクトして、電源を落とせないかやってみる。」
急げ、と言われてユフィは問題のコンピュータの方へ飛んで行った。
ガラスケースの入り口を器用に鍵を外して内部に入り込む。
ー多分、暖炉のスイッチが全体の電源を入れる合図になっているに違いない。
そして、不審な情報検索が開始されると自動でコンピュータ内の情報を壊すウィルスが作動すると。
セフィロスは急いで、ユフィが切断しに行ったコンピュータに入っているファイルの方へアクセスした。壊れていない所からプロテクトをかけようと、簡単なプログラムを急いで作る。
ー多分このコンピュータを動かしているのは、俺が知ってる言語でOKなはず・・・
できたプログラムを流そうとしたその時、
『chemical weapon』
というファイルの名称が目に入り、急いでPCへコピーした。
ユフィが後もう一個ぐらいケーブル引きちぎらなきゃだめかな、と思った矢先に不自然に点灯していたコンピュータの電源が正常になり、セフィロスの方を見ると、大丈夫だ、というように手をあげていた。
後はゆっくり電源を落とすだけだ、と思ったセフィロスは通信が入っているのに気付いた。
ーーこっちの方は外部との通信用のコンピュータのようだ。なんだかやばそうな情報がだだもれに入って来ている。そっちの方は何だったんだ?ーー
ーまずい・・・誰だか分からないが、やばそうなこの施設の持ち主に不審者がいることがばれる。
セフィロスは急いで、
ーー情報をプロテクトして、電源を切ってくれ。ーー
と連絡した。
と、不安がもたげてくる。
ーあっ、あいつらじゃダメかも・・・PCも持ってたか怪しいし。
途端に焦って、自分が行かねばと思い、ユフィに簡単に電源の落とし方を言った。
ユフィは、大丈夫、分かるから、と言ってから、電源落としたら屋敷から出てる!、と全速力で去って行くセフィロスに大声で言った。

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