テントを出て周りを見てもヴィンセントの姿が見えなかったので、エアリスはとりあえず自分の勘でうろうろしてみた。
見晴しはいい砂漠地帯なので、すぐに目的の建物の影にヴィンセントが隠れているのが分かった。
「気付かなくってごめん。」
エアリスが息をきらして彼の側に行く。
「エアリスが気を使うことはないのに。」
別にどうということもなく夜を楽しんでいる感じのヴィンセントだった。
ならいいんだけど、と隣に座るとヴィンセントがちらっとエアリスを見た。
夜は長いから、とヴィンセントが長い足を伸ばして伸びをした。
「昨日セフィちゃん怒らせるようなことしたみたいだけど。」
ヴィンセントの顔を覗き込むと、そのことを聞いたせいかちょっと顔が赤くなっていた。
「だから結婚してくれとか今日言い出したわけ?」
エアリスがいうと、あれは軽い冗談だよ、でもセフィがすごく焦ってたのが面白かったな、とヴィンセントが笑った。
ーヴィンセントが言う冗談っていまいち笑えないのよね・・・
隣で彼が砂漠の砂の上に寝っ転がる。
「もし、私がこのまま寝てしまったら横で番をしていてくれるか。」
ヴィンセントが聞いてきて、なるべくがんばります、とエアリスが答えた。
「あのな、」
とヴィンセントは全然脈絡なくセフィロスに言った飛行船のことを話しだした。
「多分輸送用の飛行船が、船隊を組んでいる感じだったんだ。こんな国であんなに大量の物を急ぎで運ぶ事ってあるんだろうか?」
運ぶとしたら何を・・・しかも某国内で普段わざわざ使わない輸送手段を使って、とヴィンセントが考え込んだ。
隣でエアリスが少し不安そうな顔を見せる。
治安が良くて、隣近所との付き合いも良好、過ごしやすいと思った某国が一皮剥くとわけの分からない秘密を多く抱えていて、底の見えない淵(ふち)の側に佇んでいるような感覚が彼女を襲ってきた。
「エアリスはあの轟音に気付かなかったのか?」
とヴィンセントが聞いてくる。
「あんまり聞きなれない音だから良く分からなかったのかもしれない。」
と彼女が答えた。
二人が口を閉じると一瞬周りから音が消えた感じがする。
でも、暫くすると砂の流れる音、風の音、夜の生き物が静かに活動している物音が聞こえてきた。
「そういえば、昼間セフィロスが言ってた飛行船恐怖症ってなんなの?」
とエアリスがちょっと笑いながら聞いてきた。
「あれはセフィが多分機転をきかせたんだよ。」
でも、ありえない病名だよな、とヴィンセントもつられて笑う。
「でもね、今日の午後はセフィロスはヴィンセントに寄り掛かられて幸せそうだったわよ。」
ちょっと妬けちゃった、とエアリスが冗談めかしてヴィンセントに言った。
「・・・」
なんかそう言われると弱いんだよな・・・とヴィンセントが呟いて、テントに帰ろっか、とエアリスに声をかけた。
目的の屋敷は人が住んでいないのでうらぶれている感じはしたが、造りはしっかりしていて立派だった。
「神羅屋敷よりも広いかもな。」
ヴィンセントが屋敷の全体をみて呟く。
中に入ると吹き抜けの天井の下に広めのホールがあり、目の前に上階へ続くゆるいカーブの螺旋階段があった。
天井を見ると絵が描かれていて、良く見ると天地創造の場面をいくつか描いているように見えた。
ホールにいてもしょうがないので、三人三様に屋敷をうろうろする。ユフィはお付きなのでもちろんホールで御留守番だ。
「気に入りましたか。」
シャルアが話し掛ける。
「思ったよりも全然広いわね。」
エアリスがしゃべる。
「こんな広いと。」
ヴィンセントが二階から声をかける。
「おちおち落ち着いて3Pもできないな。」
セフィロスがぼそっと言ったのを、あんた(お前)何考えてるんだよ(のよ)!とエアリスとヴィンセントから総突っ込みが入った。
ーお・・・大人の会話だ・・・
とユフィが思い、シャルアは密かに大笑いしていた。
(↑ユフィちゃん激しく間違ってるよ!by著者)
とにかく2〜3日ここを見てみるよ、とセフィロスが言うのを、私は近くで待機してますね、とシャルアが答えた。
彼女が出て行って四人はすぐさま集まった。
「あの、シャルアっていう女どう思う?」
セフィロスがヴィンセントに聞く。
「結構勘が鋭い気がするんだ。しかも頭もよさそうだし。」
族長みたいに味方にした方が仕事がしやすいかも、と言い出した。
「ヴィンセントにしては珍しく好意的よね。」
エアリスが言うと、
「エアリスもその帽子にあうぞ。」
とヴィンセントが返して、ありがと、とエアリスがにっこり笑った。
「っていうかその会話全然本筋に関係なくないか?」
とセフィロスが文句をいうのに、女性をほめるのは当たり前だ、とヴィンセントが諭した。
「私、ほめられたこと無い気がする・・・」
ユフィがそおっと言うと、ヴィンセントがあせって、
「ユフィは会って間も無いから、なかなか声をかける機会がないだけだよ。」
とフォローする。
「俺もほめられたことないかもなぁ・・・」
セフィロスが頭に乗って付け加える。
いいかげん話を元に戻すわよ!とエアリスが言って、その横でヴィンセントがはぁ〜とまたため息をついた。(←自分が原因のくせに。)
「とにかく、調べるぞ。」
とセフィロスが言って、それぞれ屋敷の中をうろつき始めた。
が、その日は四人とも大して収穫もなく、夕食時になって手ぶらで広間に集まっていた。
「しっかし部屋数は多いし、広いしこの屋敷誰が持ってたんだよ〜」
ユフィが文句を言うと
「多分カンディフ族の族長の父の弟の妻のお兄さん、と聞いた。」
複雑な人間関係をヴィンセントが一気に伝えた。
「?ってことは肉親?」
ユフィが全部聞き取れなかった感じで要約すると、まあ他人に近いけどな、とヴィンセントがあいづちを打つ。
「その後ずっとその人が持っているの?」
エアリスが聞く。
「名義上はそうなっているけど、実際は本人が20年くらい前に亡くなっているので、その後どういう風に使われていたかは・・・」
そうなの、とエアリスが答えて私ちょっと疲れちゃったから先に休ませてもらうね、とその場を離れた。
ユフィはエアリスの後をついて行き、
「ヴィンはどうするんだ?」
とセフィロスが聞くと、
「私はもうちょっとこの屋敷をうろついてみるよ。変な感じがするんだ。」
と返事が返ってきた。
エアリスとユフィが居なくなった屋敷は夜も深くなってさらに人気がなく、無気味な感じだった。
ーそういえばセフィはどうするんだろうな。
聞かなかったが、一緒に調査するなら言うはずなのできっと仮眠でも取る気なんだろう。
ーまあ、何もない可能性が大きいからそれも当然だな。
ヴィンセントは一人で納得して、何部屋もある一階の廊下のいくつめになるか分からないドアを開けた。
部屋は普通の客用の寝室と見られ、大きめのダブルベッドと簡素な暖炉、クローゼット、鏡等の家具がシンプルに備え付けられていた。
ヴィンセントは簡単に盗聴器等が取り付けられやすいポイントを調べた後、隠し扉等がありそうな場所を入念にチェックした。
特に不審な点がないと納得すると、その部屋を出て次の部屋へ向かった。
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