いつも座っている噴水の所にいなかったので、パティオの中をうろうろしていると、木立が比較的密集している木陰にヴィンセントがいるのを見つけた。
「ヴィン、」
と話し掛けると振り向いて、
「セフィ、早かったな。おつかれさま。」
と声をかけられた。
セフィロスは直ぐにヴィンセントの側によって、有無を言わせずに抱き寄せる。
「あのエロ親父に、抱かれたりキスされたりしてないだろうな。」
突然の質問だったので思わず返す言葉が見つからないヴィンセント。
「されたのか?」
ヴィンセントの頬に手をあてて自分の方を向かせた。
「セフィが心配するようなことは何もない・・・」
ヴィンセントがゆっくり顔をそらせた。
午後3時過ぎの木漏れ陽が優しく二人の身体に光を落とす。
セフィロスは顔をそらせたヴィンセントを再度自分の方に向かせた。
ー絶対なんかされてる・・・
こっちを見る何となく濡れた赤い瞳を見て、セフィロスの野生の勘(!)がそう言っていた。
ーなんか久しぶりに見るとセフィ、すごいルクレツィアに似てる・・・
ちょっとボーっとしている間に、セフィロスのドアップの顔が目の前にきてヴィンセントは思わず目をつぶって顔をそらせた。
戸惑って困った感じのヴィンセントが初々しくて、
ーなんか、すごく可愛くなってないか?
と嬉しくなったセフィロスだった。
目をつぶっている彼を上向かせ、親指で唇をなぞった。
「キスされたんだろ。」
と耳もとに囁くと、ヴィンセントははっとして元に戻った。
そのまま口付けようとしたセフィロスの肩を掴んで、
「されてない!大丈夫だから。」
と言い返すヴィンセントは、さっき見せた移ろいだ様子はみじんもなくいつもの彼になっていた。
ーちぇっ、一瞬だけかよ。
とセフィロスはかなり残念に思った。
ヴィンセントがさっさとセフィロスの腕を振りほどいて部屋に帰ろう、とした矢先
「可愛い息子が無事に任務を終えて帰ってきたんだぞ。御褒美はないのか。」
とセフィロスはヴィンセントの腕を掴んで引き止めた。
「何が欲しいんだ。」
ヴィンセントがいたずらっぽく笑う。
「お前を一晩好きにしたいんだが。」
抱き寄せようとたった瞬間に、ぱっと腕を離された。
息子からの要求にしては不謹慎だから却下だな、とヴィンセントは言いながらセフィロスをおいてすたすたと部屋へ帰って行った。
部屋にはユフィも来ていて、別荘行きのメンバーが集合していた。
「とりあえず、作戦を考えたんだが。」
セフィロスが3人に話し掛けた。
「『超バカっぽい大金持ち3人組某国の不動産購入ツアー』って言う設定はどうだろう。」
エアリスとユフィが、ええっ、と大爆笑し、ヴィンセントが深〜いため息を付いた。
「で、どうしてそう言う話になるんだ?」
ヴィンセントはまたため息をつきながら質問した。
そんなにため息をつくと幸せが逃げるよ、とユフィがチャチャを入れる。
「まず、不動産ブローカーにおれたちの正体を明かす必要はない。
族長も絶対明かしていないし、でも外国人なのはばれてる。
某国みたいな危ない土地を買おうとするのは、ばかか、よっぽどの悪知恵を働かせてる奴かどっちかだ。」
ここまでは分かるな、とセフィロスはユフィに話し掛け、こくこく、とユフィがうなずいた。
「悪知恵が働くやつと思われるよりは、ばかと思われた方が動きやすい。
あと、金持ちの方がいいのは、こんな土地に別荘を買うやつは絶対に他にも買い漁っている富豪と思われた方が自然だからだ。」
以上!質問は?とセフィロスがチャッチャとまとめた。
「はい!名前は変えるの?」
エアリスが手をあげた。
「俺とヴィンセントはいいと思うんだ。ユフィは既にあるだろ。
エアリスって珍しい名前か?」
そうねえ・・・セトラでは多い名前だけど、というと、もしかしたら族長がもうブローカーに名前くらいは伝えてるかもしれないよ、とユフィがいった。
「変えない方が無難だな。」
ヴィンセントがやっとやる気になってきたようだった。
「役割分担は、俺と、ヴィンセント、エアリスがバカっぽい外国人、ユフィはこの国のお付きの侍女な。」
えー私は外国人できないの?と不満そうに言うユフィに、族長がブローカーに私達3人を外国人って紹介するから、とエアリスが訳を話した。
「じゃあしょうがないね。」
残念そうなユフィは私旅行の準備するね、と部屋を出ていった。
「旅行?」
ヴィンセントがユフィの言葉を不審な感じでくり返し、旅行じゃないわよねぇ・・・とエアリスもくすっと笑った。
さて、私達も準備しないと、とエアリスが言う。
「何か必要なのか?」
ヴィンセントが不思議そうに聞く。
「自然にお金持ちに見えるように見かけには気を使わないとね!」
エアリスは張り切っていたが、男二人は??と言う感じだった。
首都から目的の別荘までは某国を2/3横断する距離だ。
「どうやって移動するんですか。」
ヴィンセントがブローカーに聞くと
「ジープよ。」
と彼女が当然のように答えた。
族長の信用できるブローカーとはみんなの予想を裏切って眼鏡をかけた大分切れそうなお姉様だった。
「名前はシャルア・ルーイ。よろしくお願いします。」
挨拶して食料品をあと少し買ったらすぐ出発しますから、とてきぱきと準備をしていた。
「目的地までどれくらいかかるのかな。」
エアリスが呟くと、
「3日はかからない。道が良ければ1日半くらい。」
と即答された。
ー俺あのエロ親父の性格からしてすっごいエロ中年男か、美青年を想像してたぞ。
セフィロスが囁く。
ーまあな。
ヴィンセントがやっぱり予想外だったらしく、ちょっと意外そうな顔をしていた。
「あの族長の御紹介とはいえ予想と全然違う印象でびっくりしました。」
エアリスが大胆不敵にも話し掛ける。
「そお?あの人は仕事に関しては結構シビアなのよ。」
シャルアはにっこり笑って荷物を全て積み込むと出発準備できました、とみんなへ声をかけた。
ちなみに昨日はエアリスががんばったおかけで三人の服はかなりこの国の中ではあか抜けた感じになっていた。
エアリスは長めのつばの白い帽子に生花に間違えるような花を付けたコサージュを帽子と服に付け、細身の白ワンピ、靴は白地にピンクの刺し色が入ったミュールだ。
髪はちょっと縦ロールぎみにしてリボンははずして大人っぽくしている。(ホントはかわいい日傘をさしたかったんだけどね!byエアリス)
ヴィンセントにはトラッド系の軽めのスーツを選んでいた。
色はくすんでグレーが強めのグリーン。シャツは冒険せずうすい同系色にして、ちょっと襟元が遊んでいる感じのデザインにした。靴も気が抜けないけど、履きやすさも考えてリーガルのカジュアル系ローファーで。ノーネクタイで!と言うのがエアリスのこだわりだ。
セフィロスは髪が重いので、軽い色のチノパンで普通っぽく見せるが、仕立てがしっかりしているのでかなりラインがきれいにみえている。(それは俺のスタイルがいいせいだ!byセフィ)シャツをきれいな柄物にして遊び人風で。靴は皮のスニーカーにしてみました。(byエアリス)
「エアリスよくここまで考えたよな。」
ヴィンセントがなんだかいつもしない格好をしているので、窮屈そうにしている。
「いいじゃないか、結構普段しない服装っていうのも面白いぞ。」
それよりもエアリスの要求に良くここまで答えたよな、あのエロ親父、とセフィロスは某国ってどんなルートがあるんだ?と疑問に思っていた。
車に乗る時にエアリスはヴィンセントとセフィロスの服装が自分が考えた感じではまっているのを見て、とっても満足している感じだった。
長いドライブになるから、リラックスしてねとシャルアが声をかけ、音楽ずっとかけてるけど違うのにしたかったリ、止めて欲しかったら言ってと念押しした。
広いジープだったので、助手席にユフィ、後部座席にヴィンセント、エアリス、セフィロスが座り運転手はもちろんブローカーのシャルアである。
「運転できるんで、疲れたら言ってください。」
と、ヴィンセントが言って、ありがとう、と運転席から声が帰ってきた。
2時間ばかり取り留めの無い話と、沈黙が過ぎて行き、一回話題が尽きた頃、
「どうして、うちの国のあんな所の別荘を買おうと思ったの?」
と質問された。
「別に、珍しい所の別荘があったら面白いかと思っただけだ。」
セフィロスが即答した。
「そう、私みたいな職業にはあなたのような人は有り難いわね。」
と答える彼女に、
「私達みたいなお客は結構いるの?」
とエアリスが逆に聞く。
「う〜ん。正直言うと最近結構いるのよね。」
へえ〜、そうなんだ、とヴィンセントがフォローして流行ってるんだなこの土地は、とさり気ないふうにまとめる。
3人とも表情には出さないがそんな情報初めて聞いた、と微妙に焦った。
一日では某国の横断ができるはずもなく、その日はキャンプになった。
シャルアは皆の分のテントを張って、女組と男組で2個張ったからと説明し、夕食まで丁寧に作ってくれた。
食べ終わると8時頃になっていた。
私は明日も運転があるから寝るけど何かあったら、遠慮なく起こして、お酒はそこにあるから、と言いおいてさっさとテントに彼女は入って行った。
ヴィンセントがごろんと砂の上に横になって、星空を見上げる。
「この国は銀河がきれいに見えるな。」
目を解放するように上を見上げると、セフィロスが彼の顏の上に反対側から覆いかぶさった。
「俺には天空の星よりも、地上にある赤い星の方が気になるけどな。」
と言った。
それを聞いていたエアリスが、スト−ップスト−ップ!と笑いを堪えてきれずに肩をゆらし、ユフィはまたしても固まりかけていた。
「って言うかお前ら聞かなきゃいいだろう!」
セフィロスが、女性二人を怒鳴り付けると、こんな近くでそんな訳にもいきませんからとエアリスがあーくさいセリフ過ぎてお腹いたい、と失礼なことを言っていた。
ーそんなことを言われている私の立場は・・・
とヴィンセントが起き上がり、ユフィはあたし眠くないけど寝とくわ、とその場を退散した。
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