「ヴィンセント。」
エアリスが声を出す。
黙ってすたすた廊下をヴィンセントは歩いていった。
「ねえ、ツォンの会見の時族長と何してたの。」
引き離されないように頭のヴェ−ルを掴んで、彼の歩速にがんばってあわせる。
「ちょっとな・・」
エアリスの方をちらっと見てすぐに目をそらし、そのままの速度で歩いている。
「ヴィンセント、私何にも言われないで守られてるだけってやだからね。」
小走りになりながらエアリスは彼の顔を伺う。
「エアリスが心配するようなことは何もしてない。」
廊下の右側には半楕円形の窓を唐草模様の装飾で彩られた窓がいくつも並ぶ。
左側はずっしりとした感じの木製のドアがところどころにあり、窓とそろいの唐草模様が壁に描かれていた。
廊下は永遠に続くかと思われる程長かったが、エアリスの息が切れかける頃ヴィンセントがドアの前に止まってカチャリとノブを回した。


部屋に入ると、ツォンがソファに座っていた。
部屋に入って来た彼らをちらりと見る。
「エアリス、無事だったんだな。」
「おかげさまで。」
二人の会話を気にせずにヴィンセントは彼の正面にあるソファに腰掛けた。
エアリスがヴィンセントの隣に座る。
すぐに話を始めずに、黙っているヴィンセント。
エアリスは自分から話しだすわけにもいかず、時間つぶしにぐるっと部屋をみた。
全体的にベージュの色合いに統一されている部屋は、ソファとガラスのテープル以外に特に家具はなく、壁には族長の肖像画がかけられている。
絵の雰囲気は彼にどことなく似ているが、自身ではなく何代か前の人物のようだった。
エアリスの座っているソファの後ろには大きな窓があり、ほんの少し空いていて、ときおりそよそよと風が入ってくるのがわかる。
いつ話を始めるのかな・・・とエアリスが思った時、頭のヴェールを邪魔そうに取ってヴィンセントが口を開いた。
「レノは無事に第三王女の地下牢にいる。」
ツォンは表情を変えずに、ヴィンセントの顔を見た。
「彼をそこから出すには正規の手続きが必要なんだが、こんな国だからかなり時間がかかるし、もしかしたら余計な費用もかかるかもしれない。
もしちょっと頼みを聞いてくれるなら、もっと簡単に彼は出てこれるのだが。」
何でこんな所に呼び出されたのか、分からなかったツォンだったのが、彼の言葉を聞いてなるほど、という顔をした。
「で、あなたは私に何をして欲しいんですか?」
話が早くてうれしいよ、とにっこりヴィンセントが笑った。
相変わらず明るい太陽がさんさんと街を照らす昼下がり、セフィロスはイファルナと一緒に市場に買い物に出かけていた。
「セフィロスありがとう。一緒に荷物を持ってくれる人がいるだけで助かるのよ。」
イファルナがにっこり笑って次の店に向かう。
ーヴィンセントどうしてるかなぁ・・・
別にイファルナと一緒にいるのがいやな訳ではないが、やっぱり好きな人と一緒にいたいのは誰でも同じである。
買い物をするイファルナについて行きながら、ふっと見るとツォンがこっちに近付いてきた。
セフィロスと目が合ってにやっと笑う。
いつもの黒スーツの格好で目立つことこの上ない。
セフィロスがイファルナを連れてこの場を離れようと思った矢先に、
「イファルナさん、初めまして。」
とツォンが挨拶してしまった。
ーイファルナさん、すっごく目立ってるから買い物を終わらせてとっとと帰りましょう。
セフィロスがイファルナに囁くと、スパイ小説みたいね、と彼女が笑ってセフィロスに付いて行った。
「お前があんなに困っている所は久々に見たぞ。」
ツォンは面白そうにセフィロスに話し掛けた。
場所はイファルナの住居、セフィロスが急いで市場を離れて移動しようとした場所である。
「ツォンは時々プロ意識に欠けんのな。」
セフィロスは全くヒヤヒヤしたぜ、と呟く。
とにかく伝言を伝えるぞ、とツォンが口を開いた。
「イファルナの護衛は以後私がする。セフィロスは別荘の調査の為なるべく早く第三王女の宮殿へ戻ること。以上。」
セフィロスは一瞬何を言われたのか反応ができなかった。イファルナとの平穏な3日間が彼の状況察知の鋭敏な牙を抜いてしまったかのようだ。
「セフィロス、良かったわね。」
イファルナが言ってくれてはっとしたが、何故か彼の心はスッキリしなかった。
「何かあったら、遠慮なく連絡して下さい。」
セフィロスは思わずイファルナに言っていた。
心配しないで一生懸命がんばってらっしゃい、と彼女が声をかける。
ツォンが、俺から奪ったPCちゃんと壊さないでおいてくれよ、と言う。
「俺はメカ音痴じゃないぞ。」
と言い返すセフィロス。
ちょっと元気になったセフィロスにツォンは意地悪をしたくなったらしく、
「お前が急いで行かないとヴィンセントが族長に言い様にされそうだぞ。」
とそっと耳打ちする。
ーちょっ、マジかよ!!
別れの挨拶もせずにダッシュで出て行くセフィロスを(笑)、イファルナは微笑ましく見送っていた。
騒がしい男がいなくなったな、とツォンがイファルナの家の椅子に腰掛け、ふっとテーブルの上見ると、三日前にきれいに咲いてた桜草がまだ生き生きとしていた。
第三王女の宮殿に髪をたなびかせて到着したセフィロスは、入り口から門までの長い道のりをイライラしながら走っていた。
花が咲き乱れるきれいな庭を全く無視して門を通り、玄関まで突っ走っていると、
ーあっ・・・だめ・・・
ヴィンセント似の低い甘い声が聞こえてきた気がした。
ーあんの、エロ親父!!!
声の方に敷石から外れて庭の方へ進んで行くと、木陰に隠れて男二人が情事に耽っているのが見えた。
ー・・・ヴィンじゃない。
全く二人が気付かないことをいいことに、すいません・・・と心の中で謝りながらセフィロスはまっすぐ玄関のドアをくぐり、ヴィンセントの部屋へ向かって行った。
複雑に曲がりくねった通路と部屋をいくつか通り抜けて、セフィロスは一発で目的の部屋にたどり着いた。
「ヴィンセント、エアリス!」
ドアを開けると部屋の中にはエアリスだけが椅子に座っていた。
「セフィちゃん、早かったね。」
エアリスが声をかけ、セフィロスはお疲れ、と言ってから、ヴィンセントは?と聞く。
「中庭で散歩してる。」
エアリスがちょっと微妙な顔をして言ったのが気になったので、急いでパティオへ出た。

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