族長との夜の会見から3日程たって、別荘へ行く手配が済んだとの連絡が来た。
ーセフィロスに連絡しなくちゃな。
ヴィンセントはとりあえず隣の部屋にいるエアリスへ知らせに行こうと、続き部屋のドアをノックした。
ヴィンセントが通訳として族長の側にいるのは入国を許可された外国人と族長の会見の時だった。
入国制限をしているという建て前の割には以外と出入りをしている外国人は多く、会見は毎日あった。
ノックしても返事がないので、エアリスにドアを開けてもいいか、と声をかける。
「ちょっとあなたと二人っきりで話をしたかったので、眠ってもらってますよ。」
後ろから声をかけられて振り向くと、族長が部屋に入り込んでいた。
「何が聞きたいんですか。」
ヴィンセントはさり気なく銃を確認して無愛想に聞いた。
「とりあえず近くにに来て座りなさい。」
族長は丸いきれいな装飾を施された小さなテーブル脇にある、そろいの椅子にゆったりと腰をかけて言った。
絶対に下心があると思われたが、目くじらを立てて断れる雰囲気でもなかったので、ヴィンセントはゆっくりと彼の方へ向かう。
ーこんなことの為にエアリスに一服盛るなんて親子揃っておかしいな。
縦長の窓にヴィンセントのすらりとした後ろ姿が全面に写った瞬間、族長は素早く席をたちヴィンセントが振りほどく間もなく背中を抱き寄せて、ふわりとベッドへ押し倒した。
同時に彼は族長の下顎に銃を突き付けた。
「話がしたいんじゃなかったでしたっけ。」
ちょっとびっくりした感じの表情の族長に、さらにぐっと銃身を突き付けて、安全装置をカチャッとはずした。
「っていうか私にそう言う趣味はないんだよ。」
ちょっと怒りぎみのヴィンセントに向かって、口を開こうとした族長にスリプルでもかけようかと、身構えると、ドン!と音がして族長がドサッとベッドに横たわった。
「エアリスさんがあんな薬に騙されるなんて甘いわよ。」
続き部屋のドアからエアリスが姿を現していた。
「ヴィンセント、大丈夫?変なことされなかった?」
駆け寄ってくるエアリスに、彼は思わず固まってしまった。
「えーと、エアリスここに来たのは」
「護衛任務よ。」
「誰の?」
自分を指差すエアリスに、私はエアリスに守られる程弱くないぞ、と恨みがましそうにじっと見た。
「そうかもしれないけど、私はセフィちゃんに頼まれてるし。」
ーあいつエアリスに何頼んでんだよ・・・
はぁ・・・と思わずため息をついて、とりあえずこいつを介抱するぞと声をかける。
「それよりもヴィンセント、変なことホントにされなかったの?」
エアリスが族長を楽な格好にさせて、さっき落としたブリザラの氷を布に包んで彼の額においた。
「お前、何心配してるんだ。」
大体、私一人でも大丈夫だったのに・・・というヴィンセントに、エアリスはだってぇ・・・と答える。
「セフィロスはすっごくこの人に警戒してたし、私セフィちゃんから特にこの人のことは言われてたし。」
キスとかされてないわよねぇ・・・と念を押すエアリスに、押し倒されただけだ!とヴィンセントが思わず声を大きくした。
「セフィちゃんごめん、押し倒されちゃった。」
どこの方にか分からないが懺悔するエアリスに、お前絶対セフィロスに余計なこと言うなよ、と念を押すヴィンセントだった。
半時程たって族長が目をさました。
エアリスとヴィンセントが二人で椅子に座って彼の様子を見ている。
「大丈夫ですか。変な痛みとか無いといいけど。」
ヴィンセントが声をかける。
「いててて・・・大丈夫だよ。でも君があんなきつい美人だとは思わなかったよ。」
族長は後頭部をちょっと押さえながらベッドから起き上がった。
「私思いっきり魔法をぶつけちゃったから。」
エアリスが族長に氷の包みを渡す。
「これは君が出した魔法の氷だね。」
エアリスに話し掛ける族長に、あっはい、と恥ずかしそうに彼女が答えた。
「ユフィに私のことを聞かなかったんですか。」
ヴィンセントがなるべく距離をとって族長に話し掛ける。
「言ってたよ。彼女は君がノーマルだって。でも、」
銀髪の彼とあんなに仲がいいと誤解しないか?とエアリスに同意を求め、あっ、セフィちゃんのこと?と彼女があいづちを打つ。
「私の経験上、あれぐらい仲がよければ同性でもいけると思ったんだが・・・」
彼が寝ているベッドからさらに距離を取るヴィンセントだった。
「でも、セフィちゃんも結構苦労してそうだけど。」
エアリスがヴィンセントに話し掛けると、苦労しすぎて諦めて欲しいもんだ、とヴィンセントが答える。
「私の勘では君は絶対適性があるはずなんだ。」
にっこり笑って話し掛ける族長の言葉を、ヴィンセントがうんざりしながら聞いた。
そして、「私にとってセフィロスは息子のようなものだから、全くあなたの話とは関係ない。」ときっぱり言い切る。
それを聞いた族長が、息子と恋愛するぐらいだったら私との方がノーマルだ・・・と言いかけるやないなや、ヴィンセントは思わず銃のグリップで勢い良く彼を殴ってしまった。
ーヴィンセントが切れてる・・・(byエアリス)
やだ、ヴァレンタインさん野蛮・・・と言うエアリスの横で族長は再び眠りについていた。
「エアリス、こいつを引き取ってもらうぞ。」
お怒り気味のヴィンセントさんに、そうですね、とエアリスが答えて呼び鈴を鳴らした。


族長の外国人との会見は朝の10時から時間ぴったりに始まる。
ー昨日あんなに頭殴っちゃったし大丈夫かしら・・・
心配するエアリスをよそに冷静にヴィンセントは用意をしていた。
表向きは実権が無いとはいえ、某国最大部族のカンディフ族の族長の通訳ともなれば、伝統的なややこしい(ユフィが嫌がっていた(笑))衣装で外国人を出迎える。
白い布を身体に巻き付けてきれいなしわを見せる長いトーガと頭を覆い隠すヴェ−ルを身に付けるとすっかりヴィンセントの身体は布に覆われて誰が誰だか分からない状態になってしまう。
「エアリス、行くぞ。」
昨日のことをおくびにも出さず、ヴィンセントはすたすたと会見の間へ歩いていった。
族長の座る椅子にはまだ誰も来ていなかった。
今日の会見を望む人たちはちらほらと現れている。
ーいつ来てもここは緊張するわよね。
ヴィンセントは通訳代わりなので、族長の椅子の脇に立っているのが定位置だ。
エアリスはそこまでは近くにいけないので、同じ高さの床にちょっと距離をおいて立っている。
床から真直ぐな柱がいく本か広間に等間隔に立ち並び、荘厳な趣を加えている。
ーエアリス、ちょっと。
ヴィンセントが耳もとに囁いて目で方向を示した。
ーツォンが来てる。
ホントだ、とエアリスは彼を遠くからじっと見た。
エアリスがツォンを確認したのを見て、
ーイファルナの護衛をセフィロスからツォンに変えても安心だよな。
と言った。反射的にうなずいた後、えっ、と一瞬ヴィンセントの目を見たエアリスは、ヴィンセントが何を心配していたのかちょっと分かって、なんか感動してしまった。
族長が出てきて会見が始まる。
某国は外国人の入国が制限されているので、オフィシャルに入国するにはこんな面倒な面会手続きを取らないと入れない人が多いのだ。
入国をした人は全て顏写真と個人情報、入国目的等が資料として保管され、出国するまで当人は厳重な監視下におかれることになる。
ーツォンがこんなオフィシャルな場所にくるなんて・・・
エアリスはきっとなんか神羅カンパニーの中であったんだわ、と思った。
次々と族長が人に会っていくうちにツォンの番になった。
ツォンと話をしている間族長にヴィンセントが通訳をしているように見えたが、一瞬ヴィンセントの頭のヴェ−ルが二人を覆って、暫くして何ごとも無かったように会見が続いていった。
全ての人と顔を合わせ会見が終わったあと、ヴィンセントに
「ツォンと別口で会うからおいで。」
と言われ、エアリスは彼について広間を出た。

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