「彼は私の知り合いなので、投獄はちょっと考えてもらえないでしょうか。」
仕留めたレノを王女に引き渡したヴィンセントは、口を挟んだ。
「それは無理ね。これは完全な侵入者だし、お父様に引き渡すか入国管理官の所に持っていくまでは監禁しないと。」
王女は侍従にことの次第をお父様に知らせてと言ってから、この赤毛は地下牢にと警備員達には指示を出した。
「レノ、ルードはいないの?」
エアリスが話し掛ける。
サンダガのショックからやっと回復しつつあるレノは顔を少し上げた。
「あいつはこんな時に休暇中だぞ、と」
いつもの相棒がいないから調子が出ないのね、とエアリスが言葉を続ける。
「セフィロス、ツォンさんのPC返せ。」
彼女の近くにいたセフィロスが目に入り、レノが言う。
「お前あれを取りかえしに来たのか?」
レノの返事を聞く前に警備員達が彼を連れて行ってしまい、三人は顔を見合わせた。
「あのPCツォンから盗って来たのか?」
ヴィンセントが、セフィロスに聞く。
「まあ、一時的に貸してもらっているというか・・・」
言葉を濁すセフィロスに、
「結局全ての原因はセフィロス様にあるってことよね。」
とエアリスが適当にまとめる。
って、あいつを黒焦げにしたのはお前だろ!と言い返すセフィロスを見ながら、そっとため息をつくヴァレンタインさんでした。


一騒動あった後、セフィロスはイファルナの家ヘ向かっていた。
ーあのエロ親父、絶対ヴィンのこと諦めてないよな。
街中を歩きながらどうしても(セフィロス的に)いけすかないあの族長のことを考えてしまう。
セフィロスはかなり背が高い。
某国の人間の身長は平均165cm程度、彼は190cm程度あるのでどうしても普通の格好だと目立ってしまう。
この前市場に出かけた時に、それとなく行き交う人と視線を観察していたので、セフィロスは迷わず全身を覆う白い王族風の民族衣装に身を包んだ。
この格好だと確かに背は高く一見目立つように思われるが、顔立ちや身体的特徴が全て衣装に包まれてしまうため、個人を特定できる特徴が分からなくなってしまうのだ。
道中の市場でも、長身の彼を一瞬見る人もいるのだが、大体の人は気さくな王族が庶民街に来たのだろうと、あまり関心も払われずに通り過ぎて行った。
ーあいつ、いやにヴィンのこと細かく観察しているようだったし、大体どっからあんなに見てたんだよ。
色々考えながら歩いていたが、イファルナの家にの近くに着いたので辺りの様子を伺ってなるべく人目につかないように、建物の中に入った。
「あら、セフィロス今度はすごい格好ね。」
玄関から入ってきたセフィロスを見てイファルナはにっこり声をかけた。
「いえ、これは変装なので。」
セフィロスはすぐに白い衣装をとって、下に来ていた普段着に戻った。
「今度はどうしたの?」
優しくイファルナが話し掛ける。
セフィロスは思わずエアリスの事情をそのまま話しそうになって口をつぐんだ。
ー言っても、イファルナさんを不安にさせるだけだしな。
ちょっと事情があって、何日かここにいさせてくれませんか、とセフィロスが言うのを、あら、それはかまわないけど、とイファルナが以外そうな感じで答えた。
それならお部屋を用意しなくっちゃね、とイファルナが奥の方へ消えて行った。
居間の椅子に座ってセフィロスはまた窓をぼーっと見ていた。
ーしっかし俺もお人好しだよなぁ・・・ヴィンといたくってこの作戦引き受けたのに、未だに日程の半分も一緒にいられないじゃないか・・・
ーしかも変な女と親父にヴィンは好かれてるし。
はぁ・・・・と思わずため息をついて、セフィロスはテーブルに突っ伏した。
ーヴィンは調査の拠点にあの王宮を使えるのを喜んでたけど、絶対自分を絡め取るためだとか思ってないだろうしな。(俺はそんな気もするんだが。)
イファルナが育てている桜草がテーブルに置いてあるのを見つけ、セフィロスはじぃ−っと見つめ、咲いている花びらの縁を目でなぞり始めた。
ー大体あのユフィとか言う小娘も怪しいんだよな。あいつもヴィンのこと好きなんじゃないか。いやに王女に近付けようとしていたのが気に入らないし・・・
ーって言うか今回ヴィンもて過ぎなんだよ。何かが俺を邪魔しようとしている感じがする。
っていうか、セフィロスさんここに来てから自分のことばっかり考えていて、仕事のことが全くお留守になっているんですけど!
セフィロスは自分から見える部分の花びらを全部なぞリ終わったらしく、桜草の植木鉢をくるりと回してまたじぃーと眺め始めた。
半時ばかりたってイファルナが居間に戻ってくると、セフィロスがぼーっとしているのを見つけて彼女はびっくりした。
「セフィロス!起きなさい。」
イファルナが声をかけたのが聞こえて、はっと身体を起こすセフィロス。
「どうしちゃったの?セフィロスさん?」
ちょっとふざけてイファルナが話し掛ける。
「あっ、いや」
あまりに長い間ぼーっとしていたのでなかなか元に戻れないセフィロス。
「優秀なソルジャーが、らしくないですねぇ。」
イファルナが正面の椅子に座って、セフィロスをなだめるように下から見上げた。
「そういうところは、エアリスとそっくりですよね。」
何と言っていいか分からず、思わず本音が出たセフィロスだった。
「親子ですから。」
イファルナがにっこり笑うとセフィロスも思わずつられて笑顔になった。
「その笑顔をヴィンセントさんに見せると弱いと私は思いますけど。」
イファルナがちらっと言う。
そうかな、と笑うセフィロスにお母さんを信用しなさい、と彼女はセフィロスの頭をくるっとなでた。
ヴィンセントが族長の王宮に行くことになって、エアリスはとりあえずストレートに一緒に行くことを頼んでみた。
「でも、エアリスはここから離れない方がいいんじゃないか。」
ヴィンセントに反対されて、近場の王女に頼んでみる。
「っていうか、なんでエアリスがお父様とヴィンセントの間を邪魔する訳?」
ー・・・邪魔って一体・・・
そのコメントは道徳的にどうなのよ、と心の中で突っ込みを入れたエアリスだったが、だからと言ってセフィロスとの約束が果たせる訳でもない。
むうーと思って彼を睨むエアリスに気付いたのか、ヴィンセントが
「エアリス、そんなに族長の王宮に付き合いたいのか?」
ときいてくる。
うん、とエアリスがうなずくのを見て、
「じゃあ、一緒に行くか。」
とヴィンセントがエアリスをふわっと抱き締めた。
ーうわっ、セフィちゃんごめん!
と思いながら、エアリスはお母さんに慰められた時のことを思い出していた。
ーちょっとぐらいいいよね・・・
ヴィンセントに抱き締められている感触はお父さんのことも少し思い出されて、お父さんにいつもしていたように、思わずわからないようにそっと彼の頬にキスをした。
ヴィンセントがエアリスの顔をじっと見る。
ー気付かれたかな・・・
エアリスは緊張して思わず彼の顔をじっと見てしまった。
ヴィンセントは男性にしては線の細い感じだ。
族長が言っていた通り、肌が白くてきめが細かくて頬を触ると気持ちいい。
身体の線も細くてエアリスが触ると筋肉質で男性的なのが分かるが、セフィロスみたいに鍛えている人からだったら女性っぽく見えてもしょうがないかもしれない。
「なんか期待してたか?」
ヴィンセントがくすっと笑ってエアリスに言った。
「お母さんに怒られたいんだったら勇気を出してどうぞ。」
エアリスが楽しそうに言い返す。
さすがにイファルナは怖いからな、と言ってヴィンセントがエアリスから身体を離した。
「うちのお母さんは怖いんだ。」
エアリスがベッドに腰掛けながらへえという感じできく。
「イファルナは怖いって言うより・・・」
ヴィンセントの視線がちょっと飛んで、エアリスはおやっと思った。
ー彼女はルクレツィアを知っているからな・・・
ちょっと黙り込んだ感じになって、まずいと思ったのか
「エアリスも早く私が口説きたいと思うくらい色っぽくなれよ。」
沈黙を遮るように冗談を言うヴィンセント。
「ヴァレンタインさん好みになるにはあと30年くらい必要ですから。」
とエアリスが言い返した。
それはそうかもな、と思わず答えた彼にもお!とエアリスがふくれた。

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