セフィロスは市街地へ出るのにそれなりに準備をしていた。
この前はちょっと試しに出かけただけなので適当な格好だったが、今回は護衛任務なのでそれなりに格好も目立たないように気を使っている。
「入っていい?」
エアリスの声がしたので返事をした。
「セフィちゃんありがとね。」
エアリスが部屋に入りながらお礼をいう。
「気にするな。俺はイファルナさんが危ない目にあうのを見るのが嫌なだけだ。」
セフィロスが適当に答えるのを聞いてエアリスはほんとに感謝してるのよ、と付け加えた。
「あのね、もしセフィロスが私ができることで頼みたいことがあるなら、何でも言ってね。」
セフィロスは無関心な感じで黙って身支度をしていたが、エアリスが脇の椅子に座って様子をしばらく見ていると、顔をあげてエアリスを見た。
「お前、あのエロ親父がヴィンに手を出さないようにしっかり見張ってろよ。」
エアリスは最初冗談かと思ったが、セフィロスの目が全然笑っていなくて真剣だったのでしっかりと彼の目を見てうなずいた。
「任せて下さい、セフィロス指揮官殿。エアリス全力でがんばりますから。」
ちょっとにっこり笑いながら答えたエアリスを見て、やっと口元に笑顔が見えたセフィロスだった。


ヴィンセントが部屋でしげしげとセフィロスが書き込んだ航空写真を見ていると、外がざわざわとしてきた。
しばらくしても人声が静まらないので、彼が部屋を出るといつも廊下を行き来している侍女や侍従は姿をひそめている。
そして普段は目立たないように立っている警備員たちが、何かを探すように宮殿内を動き回っていた。
「ねずみが入ったの。部屋で大人しくしていてちょうだい。」
部屋から出ていたヴィンセントを王女が見つけて声をかける。
「どんなねずみが入ったんだ?」
入国が厳しい某国へ来るなんて誰だろうと興味を引かれて、ヴィンセントが聞いた。
「赤毛の変なやつ。」
ー・・・レノ、のはずは無いよな。・・・でもツォンが入国しているからもしかしたら・・・
「私も協力する。宮殿の造りは頭に入っているし。」
銃を軽く構え、ちょっと面白い準備運動が入ったと言う感じで、ヴィンセントは何か言いたげな王女を無視して廊下をすたすたと歩いていった。
宮殿の廊下は建物全体に合わせたベージュの色合いに、ブルーのアラベスクがところどころ描かれている。
床にも壁にも天井にも同じ感じで模様が描かれているので、ともするとどこまでも続くアラベスクの迷宮の中でどこから来て、どこに抜けるのかよく分からずに宮殿内に迷い込むような感覚に捕われる。
「ヴィン、何かあったのか?」
いきなり突き当たった廊下から、セフィロスが出て来てヴィンセントはかなり驚いた。
「そこ・・・隠し扉なのか?」
ヴィンセントが尋ねると、カチャット音がしてアラベスクの模様の壁が動き、エアリスが出て来た。
「ほんと、この宮殿面白いわよねぇ。」
扉を閉めながらエアリスが呟く。
「閉めちゃうと本当に分からないわね。」
自分が開けた扉の跡を丁寧に手でなぞっていくエアリスだった。
「侵入者が発見されたので、今捕獲に協力している所なんだ。」
ヴィンセントが言うと、セフィロスの目がキラキラしてきた。
「まじで、俺もやる!」
いいかげん資料に向き合うのも飽きたし、と正宗をさっくり抜く。
「こんな狭い廊下でその剣は危ないわよ。」
エアリスがロッドを取り出して、マテリアをはめ込み始めた。
ー・・・二人ともやる気満々だ・・・
きっとこの宮殿で待機しているのも飽きて来たんだろうなぁ・・・と思いつつ、侵入者は赤毛だから、とヴィンセントが言った後三人三様に宮殿内に散っていった。
ーこの辺りをちょっと押すと・・・
エアリスがセフィロスとヴィンセントから別れてちょっと歩いた廊下に彼女は座って、床を軽く押した。
ーあれっ?
思っていた反応がなくって、焦ってその辺りを所構わず押すとうまい具合に床が浮き上がった。
するりと床の下にもぐり込んでぴったりとその扉を閉める。
ーここは結構人の足音が聞こえるのよね。
階段を数段下がって、広めのフロアに出るとエアリスは上の振動を感じ取れるように目を閉じて耳をすませた。
宮殿内の敷地は広い方だが、耳に意識を集中させると色々な音が上から聞こえてくる。
誰も入ってこない空間の中で、エアリスは感覚が鋭くなるように自己の意識を深く深く自分の奥へ沈めていった。
天井から聞こえてくる音が鼓膜の奥を振動させ、脳に情報を送ってくる。
ー逃げてる感じの、多分男性。赤毛・・・レノかしら?
彼をイメージしてさらに意識を集中させると、どうみても上から聞こえてくる大多数の足音とは異質のばたばたした音が聞こえて来た。
エアリスが目を開けて、その音の方向を見極める。
ー西北の方角、ちょっと距離があるわね。
進む方向が決まると、彼女はすっくと立ち上がってロッドをぎゅっと握ぎり、勢いよく定めた方向へ走り出した。
ーげっ!ほこり!
セフィロスが天井裏へもぐり込んだら、案の定誰も今まで入っていなかった感じの綿ボコリに見舞われ、咳き込んでいた。
ひとしきり咳が止まると、ずりずりと前に進みはじめる。
ーこの屋敷にもぐり込んでそれから逃げるんだったら、絶対西北の出口を目指すよな。身を潜めるには天井裏が一番適しているし。
この前ヴィンセントを助けに(?)館に侵入した時は、入るのは東南、出るのは西北とルートを決めてから来たのだ。
ーもし、新羅カンパニーの調査課だったとしたら絶対ツォンと同じ資料を持っているはずだし。
王女の宮殿の見取り図はすっかり頭の中に入っている。
セフィロスが宮殿に侵入した東南の入り口は屋敷内に入るのに一番外庭の面積が狭い場所で、塀からさっくりと床下への抜け道を探せば宮殿へ侵入できた。
ー西北の出口は出やすいんだけど、宮殿内から見つけるのが大変そうだったよな。
東南の入り口も分かりにくいのだが、宮殿の見取り図を持っていればまあ分かる。
でも、西北の出口を抜けるには扉を開くパスワードが必要だったはずだ。
ーあの、ぬけてる女がそこまで気付いてパスワードを変更してればいいけどな。
王女がちょっとむかついているセフィロスとしては、そんな親切なアドバイスをするはずも無い。
まっすぐ西北の方角へずりずりと進んでいったら、ひょこっと赤毛の男が目に入った。
廊下から天井裏への入り口を開け、このルートで逃げようと周りをうかがっているようだ。
ーあれ・・・レノじゃないか?
セフィロスに気付いたレノは出した首をさっさと引っ込めて、天井下へ逃げていった。
ーまて!このやろ!
レノが消えていった出口に向かって追い掛けるセフィロスであった。
ーいつになったら目的の場所に着けるんだよ!
ヴィンセントが何十回目かの扉を開くと、その先には同じよなアラベスクの廊下が広がる空間がまた現れて来ていた。
絶対に方向は間違っていないはずなのだが、同じ模様がいつまでも続いていると西北の方向へちゃんと行っているのか確信が持てなくなってくる。
自分の頭の中に入っている最短ルートを通って行こうとしたら、以外と抜け道と隠しルートが多くて辟易しているヴィンセントだった。
ーこんなんだったら廊下に沿って行った方がよかった。
後悔しながら廊下を進むと赤毛の男に出くわした。
「レノ!」
ヴィンセントが思わず声をあげる。
びっくりしたレノはヴィンセントの顔をちらりと見ると一目散に前方の隠し扉へ向かっていった。
ヴィンセントも彼の後を追う。
迷い無く、次々と隠し扉を開いて逃げていくレノを見てヴィンセントは絶対にこいつツォンの見取り図見てる、と確信した。
まっすぐの廊下にかかった時に、足を止めようと発砲したが全然お門違いだったらしく軽く避けられ、弾は無駄になった。
ーこの!
ヴィンセントが銃を再装填した瞬間、セフィロスが上からドサッと落ちて来た。
「あの赤毛を追って来たのか?」
ヴィンセントが銃を再度構えながら聞く。
「当たり前だ。あいつは俺が仕留める。」
大分前に行ってしまったレノに狙いを着けたヴィンセントと、正宗の錆にしようと思ったセフィロスが彼に向かっていくと、
ドオン!
大魔法が発動した音がしてびっくりした二人は後ろを向いた。
にこーと笑顔のエアリスが後方でロッドを構えている。
「エアリス・・・」
ちょっと固まるヴィンセント。
「お前、いるならいるって言え!危ないだろ!」
自分が仕留められなかったのが悔しかったのか、思わず八つ当たりっぽいセリフを言ってしまうセフィロス様。
「あはっ・・・決まったかしら?」
前方には可哀想に黒焦げになったレノが倒れていた。

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