朝の10時頃に目をさますと既にヴィンセントとエアリスはすっかり起きていて二人で話をしていた。
「さすがに、老人と小娘は朝が早いな。」
セフィロスがぼそっと呟いて顔を洗いに行くのをヴィンが微笑ましく笑い、エアリスが、べーだっ、と見送った。
身支度を終えて部屋に帰ってきたセフィロスをそっちのけでエアリスとヴィンセントは楽しそうに話し込んでいた。
「結局王女はなんでヴィンセントを呼び出したの?」
「いや・・・」
くすっと笑ってヴィンセントが笑うのも申し訳ないけど、と続ける。
「彼女はどうもポーカーがやりたかったらしく、国のものは誰も知らなくって、私を呼んだらしいぞ。」
ユフィは知らなかったの?と言うエアリスにさあ、と答えるヴィンセント。
まあ、ユフィはまだおこちゃまっぽいしね、とエアリスが話している最中に
「セフィロス、昨日は私に会う前はどうしてた?」
とヴィンセントが聞いてくる。
「実はエアリスからもらった航空写真で気付いたんだが、」と話しはじめると二人とも真剣な目になってセフィロスの方に来た。
ー俺は仕事のみの付き合いの要員かい!
なんで怒るのか自分でも分からないが、何となく腹が立って不機嫌になったセフィロスだった。
ーま、昨日のヴィンセントのキスが気持ちよかったからいっか。(なぜだ?)
と思い、とりあえず見てくれ、とセフィロスはエアリスからもらった航空写真を某国の地図通りにきれいに並べた。
「エアリス、良くこれだけ航空写真を集められたな。」
ヴィンセントが話し掛ける。
「がんばったのよ。だって、他に手がかりを見つける方法が思い付かなかったし。」
エアリスは真剣だ。
「この写真の撮影時期からいってここ1年もたっていない。」
セフィロスは写真に赤いマルを書き込んだポイントを指し示した。
「ここの建物は俺の勘からいってちょっと変な所に建っているんだ。」
どの建物も国境ぞいの何も無い所に、別荘のような豪奢なつくりで一件だけぽつんと建っている。
「こんな建物が一個だけだったら俺もなんとも思わないんだが・・・」
セフィロスの印のつけた航空地図には敵国と報道された領土も合わせて8ケ所同じ系統の建物があった。
「こんな別荘を閑散としてレジャーも無いような所にこんなに分散して作るやつが何人もいるとは思えない。普通は別荘は何件かまとまってあるものだしな。一人で作ったにしてはこんなに同じような所にあるなんて変人でも無ければありえない。しかもこの写真の状態を見る限り、放棄されたのか?と思われるものと、現役かと思われるものとある。」
セフィロスは広げた航空写真の丸印にそれぞれ自分の予想を書き入れた。
「絶対何かの意図があるんじゃ無いかと思うんだが。」
「エアリス、ちなみにこういう別荘を持つのが流行っているとかの話はなかったよな。」
ヴィンセントが念のため尋ねたが、エアリスは聞いたことも無い、と言った。
「私が集めた噂話の中にもそんな別荘の話は無かったし、やっぱり変なんだろう。」
そうしたら、そこを調べた方が良いけど何が出てくるのかしら・・・とエアリスが言った。
「欲しいものが出てくれば良いが、結局は調べてみる迄は分からない。今日会う奴に聞いてみたらどうだ?」
確かに、とヴィンセントが言うのを聞いて、私も一緒に居ても良い?とエアリスが言い出した。
大丈夫だと思うぞ、とヴィンセントが言った瞬間に
「エアリスは、別の調査に行ってもらう。」
セフィロスがきっぱり言う。
「どこに行かせる気?っていうか私はここにいたいんだけど。」
エアリスがセフィロスをキッと睨み付ける。
「王女について行ってもらう。ユフィとか言う小娘だけじゃ不安だからな。」
「セフィちゃんヴィンセントと二人っきりがいいからってちょっと露骨すぎ!」
二人の言い合いを聞いて微妙に居心地が悪くなるヴィンセントであった。
「別にエアリスがいてもいいんじゃないのか。」
ヴィンセントがそっとセフィロスに言う。
「ヴィンはさあ、絶対にエアリスに甘いよ。この女は色々と美味しいめにあっているようだし、ちょっと一言いってやらないと・・・」
ヴィンセントはまたセフィロスが余計なことを言いそうになるのを察知して、言葉の途中で彼の口をすばやく手でふさいだ。
「エアリス、19時にここに居ても、王女の方に行ってもどっちでもいいから。」
ヴィンセントは続けて、ちょっとセフィロスと話してくる、と言って無理矢理彼と一緒に部屋を出ていった。
ベッドに座ってエアリスは一人ぼーっとしていた。
ー今までずっと気が張り詰めてたもんなぁ・・・
セフィロスに会った時はともかく、ヴィンセントに会った時はかなり懐かしてくて思わずほっとした。
ーちょっとヴィンセントに甘え過ぎたかも・・・
彼は優しいしね、と思ってベッドにぽふっと身体を横たえた。
ーお母さん、どうしてるかな。
あと、お父さんも無事だといいな・・・と思いつつ明るい窓の外を見ながらうつらうつらと眠ってしまった。
部屋を出て廊下を大分歩いてパティオに出る回廊に面した扉の前でヴィンセントは止まった。
引っ張られていた手を一瞬離され、ヴィンセントがセフィロスの目をじっと覗き込んできくる。
ちょっと勢いに飲まれて、後ずさるセフィロス。
扉はパティオに向かって開かれており、パティオ側と王宮内の回廊はそれぞれ王宮の住人がせわしなく行き来していた。
明るい日ざしは容赦なく二人を外から照らして、気温はあがっているはずなのだが、セフィロス的にはちょっと寒気がしてくる雰囲気だった。
「セフィ、我が侭もいいかげんしなさい。お前はこの作戦の指揮官だろう。」
彼の怒りがひしひしと伝わってきて、これはフォローしなければ!と焦りを感じてきた。
「だから、エアリスが大変だったのは分かっている。・・・でも、あのユフィとかいう小娘を全面的に信頼するにはちょっと時期尚早だし・・・」
その場しのぎに聞こえないように、ゆっくり言葉を選んでしゃべるセフィロス。
「それだったらなおさら某国の事情に詳しいエアリスを手元から離すのは危険じゃないのか?」
セフィロスとしてはヴィンセントと二人っきりで族長との会見をしたいので、当然のエアリスへの指示だったのだが・・・フォローが思った方向へいかずに微妙に焦っているセフィロス。
「っていうか、セフィはこの国の実情を実感してないからそんな事を言い出すんだ。言っとくけど・・・」
ヴィンセントがセフィロスの目を見ながら、滔々と話し始めたのだがセフィロスは全然彼の言葉は聞いていず、ぼーっと言葉を紡ぐ唇を見ていた。
ー昨日のキスは気持ちよかったよなぁ・・・結構やわらかかったし・・・
正午に近付く明るい光の中、呆けて彼の顔を見ていると、
「セフィ、聞いているのか?」
ヴィンセントが鋭く睨み付けてきた。
「聞いてる!聞いてるから!!」
ちょっと締めないと!と自分に言い聞かせるセフィロス様でした。
夕暮れが宮殿を包み、少しずつ光が引いていく瞬間は溢れる生気を感じさせる風景が好きな人よりは、控えめで、それでいて美しい静かな瞬間を愛する人に好まれる時間と言えるかもしれない。
砂漠の国某国は日々の天候が毎日変わるという国ではなく、ある一定の時間はこの美しい夕暮れと、引いていく光加減が毎日見られる場所であった。
でも、そんな美しい風景もそんな事に気を払わない男と、それが既に日常となっている住人では全然その真価を発揮出来るべくもなかったようだ。
「結局お前いるんだな。」
セフィロスは意地悪そうにエアリスに言った。
「悪い?」
エアリスがちらりとセフィロスを見る。
「二人ともやめなさい。」
なんとなく保護者然となってしまうヴィンセント。
19時近くになって三人で部屋にいるのだが、どうもしっくりと仕事をする雰囲気では無い。
エアリスはベッド、ヴィンセントは椅子、セフィロスはソファに座って訪問者が来るのを待ち構えていた。
特にすることも無しに話もせずに三人とも黙っている。
今日は宮殿の主人が不在なので、仕事が少ないらしく部屋の外の人通りも無いように思えた。
「19時10分、遅刻だな。」
セフィロスが時計をみて言った。
「頃にくるんだからまだまだよ。」
エアリスが答える。
何となく窓ガラスが、コツ、と音がした気がしてヴィンセントは窓際に近寄った。
良く見るとガラスが振動している感じがして、窓を開けて周りを見る。
今日は満月だったので中庭は見晴しがよく、不審な者どころかそれぞれの入り口の警備員以外は誰もいなかった。
ー窓の上の方が振動していた気がするが・・・
ヴィンセントが窓から身を乗り出し上を見上げると、人影が見えた。
ヴィンセントがハッとした瞬間、彼がふっと下の方を見て目が合った。
「あなたなら、気付くんじゃ無いかと思っていましたよ。」
以前にパティオで会った浅黒い肌の精悍な顔立ちの男性が屋根の上に座っていた。
「ユフィの記憶は正しかったって訳ですね。」
ヴィンセントは、そっちに行きますから、と言って窓枠から軽々と屋根に登った。
部屋の中の二人もヴィンセントがいきなり外に出たのを見て、追い掛けてくる。
屋根の上になんとか落ち着いて、
「かえってここの方が目立つんじゃ無いですか。」
とヴィンセントが話し掛けた。
「そうでもない。屋根なんて気をつけていないと見る人はそういないし、大体宮殿の者に気を使わせるのも悪かったですからね。」
そうだ、この人は族長だったんだ、と思い出すヴィンセントだった。
「そちらの二人は初めましてですね。」
族長が挨拶する。
エアリスはちょっと緊張したようにおじぎをして、セフィロスは目礼をした。
煌々と月の光が屋根を照らしている中、族長が口を開く。
「しかし、うちの娘が『すっごいパパ好みのきれいな人が来たから見に来て。』と連絡をくれたときはどうしたんだと思ったのですが・・・」
セフィロスがそれをきいて、はあ?何言ってんだこの親父、と眉をしかめ、エアリスは思わず吹き出した。
「・・・まさかそれであの日中庭に来たんじゃ無いですよね・・・」
ヴィンセントが、あの王女やっぱりちょっとおかしい、と思いながら確認した。
「まあ、あの日はちょうど時間も空いていたので気晴らしにでもとね。」
族長の返答を聞いて、ため息をつくヴィンセント。
君たちみたいな都会の人には分からないかもしれませんが、鎖国状態のうちの国はレジャーが少ないんですよ、と族長が言葉を続けた。
「でも、会ってみたら予想以上でした。さすが私の娘の眼力というか・・・」
族長はにっこり笑ってヴィンセントの顎をすっと、掴むと自分の顔を近付けてじっと見た。
「顔立ちはもちろん、白くてきれいな肌ですし、長い黒髪に赤い目というのも魅力的です。どことなく神秘的な感じもするし。」
顎を掴まれながらヴィンセントはたらーと冷や汗が出てきた。
ーみっ、身の危険を感じる・・・
なんとかしなければ、とヴィンセントが思った瞬間、セフィロスが既に正宗を抜いて族長に突き付けんばかりにしていた。
「おい、エロ親父、さっさと手を離してヴィンから離れろ。3秒以内にな。」
低い声で睨み付けながら正宗の切っ先を定めた瞬間、族長はぱっと手を離した。
「既に予約済みというのが、残念でしたが。」
と付け加える。
「よ、予約済み・・・?」
ヴィンセントが絶句して思わず言うと、セフィロスはさっさと彼を引き寄せて族長から引き離した。
「そういうことだ。手ぇ出すなよ。」
セフィロスは族長に言ってから、余計なこと言うなよ、とヴィンセントの耳もとに囁いた。
ー予約された覚えはないが、それを言うとさらにはまるし・・・
ヴィンセントが深いため息をつくのと一緒に、このやり取りをずっと聞いていたエアリスが我慢しきれず大爆笑していた。
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