イファルナの家から出たヴィンセントはまっすぐ市庁舎の方へ向かっていった。
彼女の家からまっすぐ市場から反対方向へ進んで行くと、目印のようにレンガではないコンクリートでデザイン性も何もないそっけない感じの四角い箱のようなビルが見えてくる。
ミッドガルのビル街と比べたらかなりの旧弊な建物だが、周りの住居があまりに素朴な感じなので、かえってそこだけ近代的に見えた。
セフィロスがいなくなって身軽になった(笑)彼は市庁舎を訪れるのに、いかにももの慣れない青年という感じを出すため、受付嬢に見られる前にレストルームへ向かった。
トイレの鏡に写る自分を見て言い聞かせる。
ーもの慣れない20歳前後の男性っぽく・・・できれば色男っぽく・・・
受付が女性なのを意識している感じだが、色男っていう言動事体がすごい時代を感じさせるかも・・・(笑)
レストルームを出たヴィンセントは受付の女性に市庁舎の資料室を聞いて、ついでに市長に面会できないかとさり気なくきいてみた。
「普通はだめなんですけど・・・」
ちょっと緊張しながら受付の女性が電話を取り、都合を聞くと意外にも会えるという。
ー・・・罠かも・・・
と思ったヴィンセントだったが、断わるのも怪しいかと思われたので、素直に受付嬢の指示に従う事にした。
呼び出しがあるまでそちらでお待ち下さい、と言われ近くの椅子に腰を降ろす。
市庁舎を訪れる人は以外と少なく、ロビーは閑散としていた。
申し訳程度にある観葉植物は少し枯れかけていて、受付嬢が絶対に気を使って水をこまめにあげていても、砂漠の国の水不足には抗えずに現状を物語っている感じだ。
ー・・・王宮は噴水から水が溢れんばかりだったな。
やっぱりこの国はまだちょっとおかしいようだ、とヴィンセントが思った時、受付嬢がヴィンセントを呼んで市長の元へ案内した。
セフィロスがイファルナと食事を済ませ、時間を見るともう3時頃になっていた。
「ヴィンセントさんが戻ってくるまであと3時間ぐらいね。」
イファルナがセフィロスに話し掛ける。
「すいません。」
珍しくセフィロスが申し訳無さそうに答える。
いいのよ、全然、私は珍しいお客が来て楽しいわ、とイファルナがにっこり笑った。
「あの、ルクレ・・・母に会ったことがあるって言ってたけど。」
セフィロスがもしかしたら気になっていたことを聞けるかもしれないと思い、イファルナに尋ねた。
「1、2回ね。宝条博士と一緒にいらっしゃたわ。残念ながらその時ヴィンセントさんには会ったことは無かったけれど。」
それだと、結婚した後か・・・と思い一番気になる所はきけないかもなと考えた。
「彼のことが気になるの?」
にっこり笑うイファルナに思わず素直にセフィロスは頷いてしまった。
その後直ぐに自分の行動に戸惑って
「えっ、いや、その・・・」
と訳の分からない言い訳が口から出てくる。
「隠さなくてもいいわよ。エアリスからも聞いてるし、今日も思わずついてきちゃったんでしょう?」
あ、はい、と誘導尋問のように答えてしまい、隠すこともないかと思って口を開いた。
「でも、全然俺の片思いで、諦めるつもりは絶対無いけど、あいつは何を考えているんだろうと思うことは。」
さすが、ルクレツィアさんと宝条さんの息子さんね、粘り強いわとイファルナが言う。
ーそうなのかな?俺自身は親の記憶がほとんど無いから良く分からないが・・・
黙っているセフィロス。
「でも、ヴィンセントさんはきっとあなたのことは大事に思っているわよ。だって、一緒にいて嫌な気分になったことはないでしょ?」
イファルナの言葉に、確かに、と思うセフィロスだった。
「ルクレツィアさんが何かあった時は私の護衛のヴィンセント・ヴァレンタインという人に息子のことは頼んであるの、と言っていたもの。」
「えっ・・・」
セフィロスは思わず顔から血の気が引いて行く気がした。
「大丈夫、義務感であそこまで一緒にいないわよ。」
イファルナがセフィロスの手をとって安心させるようにたたいた。
「ヴィンセントさんはきっとあなたのことが好きで一緒にいるのよ。セトラの勘だから、信用して。」
にっこりわらうイファルナに、信用します、でも外れたらただでは、とちょっと笑いながら言うセフィロス。
窓の外は夕日が見えてきて、夕食の買い出しに市場へ向かう人でさらににぎわいを見せてきた。イファルナは夕食の準備をしましょうか、とキッチンへ行って、でも、セフィロスにずっと話し掛けていた。
ー俺はこういう家庭って全然今まで体験したことが無いかもしれない。
セフィロスはイファルナの会話にあいずちを打ちながら思った。
半地下の窓からはほんのり今の時間が分かって、でも、全面の窓から差し込むよりも控えめな光が部屋を照らし、部屋の雰囲気を何となくいい感じにしていた。
「でも、エアリスはヴィンセントさんの味方だからここにいる間は邪魔するかもよ。」
イファルナが話の続きで話し掛ける。
セフィロスは今までのエアリスの行動を思い返して、もう邪魔されてるよ、と言った。
テーブルにサラダと簡単なつまみが並び始めた頃、ヴィンセントが帰ってきた。
イファルナとセフィロスが楽しそうに会話しているのを見て、私も夕食に一品作るよ、と市場から買ってきた食材をヴィンセントがイファルナのいるキッチンへ運び込んだ。
21時頃にはすっかり食事が終わりセフィロスとヴィンセントはイファルナの家から帰途についた。
「エアリスのお母さんに会って良かっただろ。」
ヴィンセントが言う。
「そうだな。」
セフィロスがにやりと笑って、お前が俺に絶対気があるらしいって分かったからな、と続ける。
「そんなことイファルナは言って無いだろう!」
焦ってヴィンセントが言い返すと、どうだろうなぁ〜、とセフィロスが返した。
でも、お前の作ったトマトサラダはうまかったぞ、と言って上機嫌ですっかり暗くなった庶民街を歩いて行った。
王宮の部屋に帰るとエアリスが待っていた。
「セフィちゃん、ひどく無い?私一緒に食事しようと思ってたのに。」
待ちくたびれて食べちゃったわよとふくれるエアリスに、別に約束した訳じゃないだろ、とセフィロスが言い返す。
会話を聞いていたヴィンセントが、イファルナに会ってきて無事だって伝えてきたから、と言った。
エアリスがハッとした様子を見せて、
「ありがとう。なんか強制しちゃったみたいでごめん。」
と言う。
「大切な人に無事を伝えるのは当たり前だから。でも、今日の寝室はどうするんだ?」
ヴィンセントが二人に聞く。
三人いるならさすがにエキストラベッドを持ってきてもらわないと、と呟くヴィンセントをを尻目に、セフィロスが、そういうことか・・・とエアリスを睨んだ。
セフィロスが一言エアリスに言おうかと思っった瞬間、
「ヴィンセント、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
と王女がいきなり入ってきた。
「はい、なんでしょう?」
とヴィンセントが他人行儀全開の笑顔で答える。
なんだかんだ訴える王女にちょっと手こずりそうだな、と思ったヴィンセントは
「悪いけど、王女の部屋に行ってくるから先に寝ててくれ。」
と言いおいて出て行った。
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