「おい、エアリス。お前ここに着いた時の約束覚えているよな。」
セフィロスがヴィンセントがいなくなったのを確認して言った。
「はて・・・?」
エアリスがとぼけていると、
「お前俺を工場に行くって振った時の。」
ああ、あれ、昨日ずっとヴィンセントと一緒だったでしょ、とエアリスが答えた。
「はあ?」
セフィロスが何言ってんだという感じで口を開く。
「だからね、セフィロス様がお眠りになっている間に私とユフィはすぐに出て行って、結構な時間二人っきりにしてあげたじゃない。」
俺ほとんど寝てたぞ!ふざけんな、と反論するセフィロス。
「そんなこと無いわよ。だって昨日は一緒のベッドで寝られたでしょう?」
にこーと笑って、エアリスはセフィロスに、楽しかったでしょ?、と畳み掛ける。
「まあ、そうだけど・・・ってお前なんでそんなこと知ってんだ!」
だって私も一昨日・・と言いかけて、ハッとした様子を見せ、航空写真持ってくるねー、とそそくさと部屋を出て行った。
ー一昨日?まあ、いいか。後でゆっくり聞いてやる。
暫くしてエアリスではなく侍女が航空写真が入った封筒を届けに来たが、そんなことで質問を忘れるセフィロス様ではなかった。


ヴィンセントは王宮を出ると真直ぐ庶民街へ向かった。
第三王女の王宮を出るまでの風景は夢のようにきれいな庭園を歩いていたが、門を出て庶民街に近付くにつれ活気があるがざわついた特有の生活感が感じられてきた。
ーちょっと軽装過ぎたかな・・・
自分の格好を見て、顔を覚えられたらこれじゃひとたまりもないな、と思ったが
ーとりあえず目の色が違うし、見たのが一瞬だったら分からないだろう。
と自分を納得させた。
情報集めに一番適しているのは、夜の酒場、市場、あとは公共施設に勤めている人からの感想等だが、とりあえずこんな日の照っている昼間からだったら市場と公共施設から始めるのがいいだろうと思われた。
ーでも、市場ってなんか買わないと情報が引き出せないんだよな・・・
ヴィンセントは思わず通信機に、何か買ってきて欲しいものを、と連絡してしまった。
2分ぐらいしてすぐに着信があった。
セフィロスからの返信で、
ーーヴィン、一緒に買い物に行きたいのか?つきあってやるぞ。ーー
ー・・・
とりあえず無視して市場へ入って行った。
ざっくり見てから市場を回ろうと思っていたのだが、最初からヴィンセントは市場の活気に押されぎみだった。
ーしかも、あるものは生鮮食品が大部分だ。
これじゃ買い物は続かないな・・と思いながらいい色のトマトを手に取った。
『今日の朝とれたトマトだよ。今時期だからおいしいよ。』
野菜売り場の売り子が声をかける。
『甘いか?』
『家の子供はおやつに食べているよ。』
それならとトマトの香りをちょっとかいで、4つもらおうか、とヴィンセントが言った。
どこでとれたトマトなんだ、とたわい無い話と売り子の子供の話等を軽く聞いてヴィンセントは売り場を離れた。
市場はかなり大きかったので軽く買い物をしつつ、話を聞いているとそれなりの時間が過ぎていった。
市場の終わりに差し掛かって、ちょっと荷物が増えたなーと思っていたら、突き当たり正面の壁に背の高い、サングラスをかけた、栗色の長い髪の男がもたれ掛かっていた。
ー・・・セフィだよな・・・
ヴィンセントは思わずくるりと背を向けて早足で人込みに紛れ込もうとしたら、
「おい、無視すんな。」
セフィロスがヴィンセントの肩に手をかけて、引き止めた。
「お前といると目立つからやなんだよ。」
声を潜めてヴィンセントが言う。
セフィロスはその言葉を全然無視して、ヴィンセントの持っていた荷物を取って
「俺が持ってやるから、買い物を続けていいぞ。」
と言った。
ヴィンセントは周りを盗み見ると、なんとなく市場の人たちの視線が自分達に集まっている気がする。
「セフィここを出るぞ。」
ヴィンセントはすたすたと一番近い出口へ向かい、その後にセフィロスがついていった。
市場の出口からちょっと路地に入った所にイファルナの住居があった。
3階建てのビルの一番下の階と書いてあるので、1階かと思ったが半地下な感じで玄関が設けてあり道路から少し階段を降り、玄関を開けてからすぐとなりに「ゲインズブール」と表札がかけてあった。
呼び鈴がないのでドアをノックする。
はい、と声が奥で聞こえてドアが少し開いた。
「ヴィンセント・ヴァレンタインです。エアリスの紹介で来たのですが。」
部屋の中が暗くて相手の顔は良く見えなかったが、暗闇から表を見ているイファルナには良く見えたらしく、直ぐに扉が開いた。
「エアリスによく話は聞いていたのよ。本当にきれいなひとねぇ。」
エアリスも美人ですけど、お母さんにお会いしてその訳が分かりました、と返すヴィンセント。
ーヴィンも、相変わらず年上好きだよなぁ・・・
家の中に招き入れられセフィロスはどうぞ、と言われた椅子に座ってサングラスをとり、荷物をそっと床においた。
「あなたは、セフィロスね。」
いきなり話し掛けられちょっと戸惑った。
「あなたは覚えてないと思うけど、私おかあさんに会ってるのよ。その後あなたにも。」
といっても、幼い時の記憶が無いセフィロスには何と答えていいのか分からなかった。
「とにかく、エアリスに困ったことがあったらここにと紹介されていたので。」
ヴィンセントが話を続けて、そう言えばお昼過ぎだけど御飯は食べたの?とイファルナが尋ねたので、トマトでも食うか?とヴィンセントがセフィロスに話し掛けた。
「トマトってこれか?」
袋から取り出して、うまそうだけどな、と呟くと、冷やさないと美味しく無いわよ、とイファルナがいう。
「せっかくだからお母さんの料理を食べて行きなさい。」
とイファルナが言って、遠慮するヴィンセントをさらりと黙らせていた。
キッチンへ消えるイファルナを追って私も手伝います、と追い掛けるヴィンセントをセフィロスは服をがしっと掴んで引き戻した。
「手料理を美味しく頂いとけ。」
ヴィンセントがびっくりしてセフィロスを見るとその間にイファルナがキッチンから顔をだし、くつろいでいてねと笑った。
「ヴィンは相変わらず茶髪の年上女に弱いんだな。」
セフィロスが自分の方へぐっとヴィンセントを引き寄せて椅子に座らせた。
「それはどういう意味だ。」
ヴィンセントがセフィロスに言い返す。
「別に。」
セフィロスは、ふん、という感じでテーブルに頬杖をつく。
半地下の窓からは道路がほぼ目の高さにあるため、道を歩く人の足がしょっちゅう見える。市場の近くなので人通りが多くざわざわしている感じだ。
イファルナが直ぐに果実酒と水、カルパッチョをテーブルにおいた。
「口にあうといいんだけれど。」
と言うと、いただきます、とヴィンセントとセフィロスがぱくぱく食べ始めた。
「美味しいぞ。」
とセフィロス。
「エアリスはいつもいいもの食べてるんだな。」
ヴィンセントが呟いて、とても美味しいですとイファルナに言った。
ありがとう、と言って彼女はキッチンにまた戻った。
「あのさあ、」
とセフィロスがヴィンセントに話し掛ける。
「なんだよ。」
「お前気付いて無いと思うけど、自分好みの女にはすっごいカマトトっぷりだぞ。」
いきなりなんなんだよ、と答えるヴィンセント。
「女性に親切にするのは当たり前だ。セフィロスがぶっきらぼうすぎるんだよ。」
そうかなぁ・・・どう見てもティファ、ユフィ、王女に対してよりも、エアリス、イファルナさんヘの方が親切に見えるんだが、とセフィロスが言う。
気のせいだよ、と答えると同時にイファルナがトマトのパスタとカツレツを持ってきて自分もテーブルに着いた。
食卓を囲みながら、ヴィンセントはエアリスが無事に第三王女の王宮にいること、調査期間は一ヶ月なのですぐに終わることを手短に話した。
「無事なことをわざわざ知らせに来てくれたのね。ありがとう。」
イファルナが言うと、いえ実は頼みごとがあって、と話を続ける。
「ちょっとの間でいいので、セフィロスを預かってくれませんか。」
おい!とセフィが怒った感じで席を立つとイファルナが落ち着いて、と彼を座らせた。
「あのな、セフィロスが一緒にいると目立って集まる話もうまく行かないんだよ。」
と言う訳で、申し訳ないけど宜しく、と言いおいて食事を済ませると、18時頃までには帰ってきますとヴィンセントは出て行った。

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