プリントアウトされた王宮の見取り図を見ながらブランデーを口に含んで机に座るヴィンセントと、セフィロスはすっかりリラックスしてベッドに寝転んでいた。
「ベッド一個しかないけど、エキストラを持ってきてもらうのか?」
セフィロスが聞く。
「お前が一緒だと狭いかもな。」
見取り図から目を離さずにヴィンセントが答える。
どう言う意味だよ、と絡むセフィロスに、言葉通りだ、と言ってちょっと散歩してくると窓からさっさとヴィンセントは出ていってしまった。
「俺も行く。」
セフィロスはヴィンセントが出ていった後を急いで追い掛けて行った。
ヴィンセントは噴水のある縁に腰掛けて、例の見取り図をずっと見ていた。
今日は月が出ていて明るかったので、噴水の水の跳ね返りを月の光がきれいに縁取っていて、その煌めきの中にいる彼はちょっと眩しく見え、思わず声をかけるのを躊躇してしまった。
「セフィ、どうしたんだ?」
ぼおっとしている彼にヴィンセントは話し掛ける。
「いや、ちょっと」
何と答えていいか分からなくて、セフィロスはヴィンセントの隣に腰を降ろした。
気付くと、確かに、中庭中にラベンダーの香りがしてくる。
「セフィ、明後日族長に会いたいか?」
ヴィンセントがセフィロスの目を見て尋ねる。
「私のこと抜きで、答えてくれよ。」
ーそんなの無理だよ。
と思いながら、セフィロスは今の任務を邪念無しで検証してみた。
目をつぶって、水の音と虫の声をを聞いているとだんだん頭が澄み切っていくような気がする。
「会った方がいいな。」
ヴィンセントの顔を見ないようにしながら、セフィロスが答えた。
「エアリスから様子を聞くのじゃダメか?」
ヴィンセントがさらに聞いてくる。
「自分で会うのと、人から聞くのは全然違う。」
セフィロスが即答して、そっか・・・とヴィンセントが言った。
もう寝るぞ、とヴィンセントが部屋に戻りセフィロスはなんで中庭に出たんだろうな、と不思議に思いつつ部屋へ帰って行った。


セフィロスにしては珍しいのだが、4時頃ぱちりと目をさました。
いつもだったらすぐに眠くなって目を閉じるのだが、今日はとてもそんなことはできなくて、心臓がドキドキしてくる。
ーど、ヴィンのどアップ・・・
結局エキストラは頼まずに比較的広いキングダブルに二人で寝たのだが、セフィロスは疲れていたのかヴィンセントより先に寝付いてしまったのだ。
目の前に安らかな寝息でヴィンセントが目を閉じて眠っている。
ーうわ〜全然警戒してないじゃん。俺がヴィンのこと襲いたいの全然分かってないのか?
これはキスぐらいしないと、とセフィロスはヴィンセントの顔をじっと見て唇を近付けた。
その時、
「んっ、ルクレツィア。」
ヴィンセントがちょっと嬉しそうな感じで、寝言を言う。
セフィロスははっとしてこのままキスしようか迷っていたが、結局彼の肩を軽く抱いた後、くるりと寝返りを打った。
ーなんだよ。結局まだルクレツィアに未練たらたらじゃないかよ。
はぁ・・・まだ俺の恋は前途多難だ、と思いつつ良く考えてみたら、ヴィンのこんなかわいい寝顔はそう見られるものじゃないと思い、やっぱり寝返りを打って顔を見つめているうちに眠ってしまった。
変な時間に目をさましたせいか、陽の光が眩しく顔にかかり何となく寝起きが悪い感じでセフィロスは起き出した。
「セフィロス、おはよう。」
まだ気温があがっていないのでベッドの側にある部屋の窓をあけて、朝の空気を入れるヴィンセント。
「ヴィン、機嫌がいいな。いい夢でも見たのか?」
セフィロスは起きない頭をふるふる振って伸びをした。
まあな、と答えるヴィンセントに、おおかたルクレツィアとキスでもしたんだろうと返すと、
「なっ・・・」
とヴィンセントが赤くなって、動きが止まる。
「その夢、俺のおかげだぞ。」
彼の服の裾をひっぱって自分の方にぐいっとよせると、ヴィンセントがぐらっとバランスを崩してベッドに倒れこんだ。
寝起きの重い身体をずるりと彼の上にもっていって、彼の唇を確認してキスをする。
空いている窓からは爽やかな朝の空気が流れて来て、セフィロスの耳もとを通っていった。
すうっと目を閉じて、彼の動きにびっくりしているヴィンセントの顔に腕を回すと、彼の腕がセフィロスの肩にかかって押し戻そうとしている。
その手をつかんで、思う存分に彼の唇の感触を楽しんだ。
しばらくして顔を離すと、セフィ夢の中まで嫉妬するなよ、とヴィンセントが戸惑いながら答えた。
ユフィは王女の第一侍女として付いていかなくてはならなかったので、どっちにしても一緒に族長には会うことはできなかった。
当日だと声をかける時間もないからと、明日頑張ってね、と明るくエアリス達を励ますと、王女の方へかけていった。
「エアリスはどうするんだ?」
ヴィンセントが尋ねる。
「今日も王宮見学。でも、この前はユフィが表を案内してくれたので、見取り図を頼りにした裏バージョンかな。」
面白そうだな、セフィロスも一緒に行ったらどうだ?とヴィンセントが言うと、それよりもこの前見せてくれた航空地図を見せてくれないか、とセフィロスがエアリスに言った。
「いいけど・・」
まだあれに使い道があるのかしら、とエアリスが言うと、見る奴が見ればな、とセフィロスが偉そうに答えた。
「そうしたら、私は街に出て噂話でも拾ってくる。」
ヴィンセントがどんな格好が目立たないんだ?とエアリスに尋ねた。
私そうしたら服をもらってくるわ、とエアリスが答えて部屋を出ていった。
「ヴィン、一人で大丈夫か。」
セフィロスが相変わらず心配性に聞いてくる。
「せっかく語学要員で来たんだ。少しは活用しないとな。」
こともなげにヴィンセントが答えて、やっぱ黒のカラコン入れた方が目立たないだろうな、と鏡を見ながら呟く。
すぐにドアが開いて両手一杯に衣服を抱えたエアリスが入ってきた。
とりあえずエアリスが衣服の山の中からアラビアのローレンスのようなゆったりした服を出してきたので、
「これほんとに目立たないのか?」
とヴィンセントが不安そうに聞く。
にこーっ、とエアリスが笑ってこっちはどうかしら?と比較的普通のアラブ風のスパッツと、上着、
「ターバン?」
ヴィンセントがこれは私は巻けないぞ、というと、じゃあこの赤バンダナでとエアリスが手渡した。
「・・・この色はしゃれか?」
へへーっとエアリスが楽しそうに、バンダナは色いっぱいあるの、と机に広げた。
黒目には青の方が無難だなーと色合わせをしているヴィンセントを見ながら、腰にベルトかバンダナと同じ色の共布を巻くか、剣とか下げたりしてーとエアリスがヴィンセントの服装をこちゃこちゃいじっている。
「あのな、エアリスなるべく目立たないように貧乏臭くしてくれよ。」
そうでした、とエアリスが笑ってとりあえずちょっと服と顔を土で汚して普段着っぽく細工した。
「ヴィン、危なくなったらその通信機で連絡しろよ。」
セフィロスが釘をさす。
すぐ俺が駆け付けるからな、と続けると、それは嬉しいには嬉しいんだが・・・と答えつつ王女の所にあらわれた時の様子を思い出しヴィンセントは微妙な表情をした。
「ヴィンセントがそんな危ないことになるとは思えないけど、もしどこか助けが必要になったら・・・」
とエアリスが紙を渡して、ここにとりあえずは行ってみて、と言った。
ヴィンセントは渡された紙を開いてちょっとびっくりした。
「イファルナ・・・エアリスのお母さんの住所か?」
うん、とエアリスが答えて、もし会うことがあったら私は無事と伝えてくれれば、と続けた。
「なるべく行くようにするよ。」
ヴィンセントはにっこり笑って、銃を点検し、変装を終えると、じゃあな、と言って部屋を出て行った。

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