「何かご用ですか。」
さっきまでのくだけた様子はみじんも見せずにユフィがゆっくりと部屋へやってきた。
「中庭を散歩したいのだが、案内してくれないか。」
ではついて来て下さい、とユフィは静々と廊下の案内を始めた。
ー行儀見習いはかなり成功しているようだな。
さっきとの態度のギャップにかなり驚きながら、複雑に曲がって行く廊下をパティオの方へ降りて行った。



パティオは思ったよりも光が無くて暗かった。
ヴィンセントは星の光にわずかに反射をしている噴水の方へ向かった。
ユフィも後ろからついてくる。
噴水の近くにある樹の影にエアリスと思われる侍女のヴェールがちらりと見えた。
噴水の枠に座って、ちょっと身体を伸ばして確認した。
「ねぇ、もう侍女をひとり落としたの?」
いきなりユフィが話し掛ける。
「何ばかなこと言ってるんだ。ところで、ここは他の部屋から見えにくいのか?」
う〜ん、あそこの樹の影は多分角度的にどこの部屋からも見えにくいよ、とユフィが確認する。
ありがとう、ちょっと待っていてくれ、と言ってヴィンセントはエアリスのいる方へ向かって行った。
ーうわ〜これはもしかして!いい物が見られるかも〜
ユフィは頭の中で様々なラブシーンを想像して、ヴィンセントはそのうちのどのパターンで行くのかと思っていた。
ヴィンセントがエアリスに話し掛け、二人で微笑んでいる様子を遠目で見ながら、
ーちら見ではかなりの美人さんだね。これは見目麗しい美男美女カップルってやつ?
と妄想を逞しくしていた(笑)。
少しして、ヴィンセントはユフィの所へ戻って来た。
「ユフィ、エアリスを紹介するから来てくれ。」
ー??もう紹介されちゃうの??
と連れて行かれると、エアリスがにっこり笑って話し掛けた。
「ウータイの人、よろしくね。私達一緒に調査をしているの。」
「あの、二人は恋人どうしとかじゃなかったわけ?」
あっけにとられて変なことを言い出すユフィ。
「ユフィ、私がそんなことを一言でも言ったか?」
呆れるヴィンセント。
「私と、ヴィンセントとあとセフィロスっていう男性と3人で組んでいるのよ。
あなたが協力してくれるなら、王族の方はお願いできるかなって。」
それでも結構範囲は広いがな、とヴィンセントは言った。
「でも、ヴィンセント愛する人がいるって言ってたじゃないか。」
なかなか少女趣味の妄想から抜けられないユフィが食い下がった。
「ヴィンセントそんなこと彼女に言ってたの?誰?愛する人って?
しかもどんなシチュエーションでそんなことを言ったの?」
エアリスが思わず身を乗り出す。
ー・・・また、余計なことを・・・
「ユフィ、とにかく私達は三日後に例のオアシスに行って、セフィロスと落ち合わねばならないんだ。何とか私が抜けだせる理由はないのか?」
こんなことにならなければ、セトラ族として亡命させる予定だったのよ、とエアリスが付け加えた。
「う〜ん、一番良いのは王女に直接頼んで良いわよって言われることだね。
ヴィンセントお気に入りだから大丈夫な気がするけど。」
ユフィが言うと、もうこんなに女の人を落としているの?すごいわねヴィンセントは、とエアリスが茶々を入れた。
あのな、おかげで私はかなり迷惑を被ってるんだぞ、と言いながら、王女に許しをもらって行ってもお供がぞろぞろついてくるのは困るとヴィンセントは言った。
「それは利用しないと。エアリスさんを侍女に潜り込ませて行けば良いんじゃない?」
侍女同志って王女の直接のお付きでなければ以外と人の出入りは激しいものだから。
そんなものかとヴィンセントは思ったが、エアリスがやっぱり心配だから他の手も考えつつそれも検討しましょうか、とまとめた。


セフィロスは大きな地下の事務所を慎重に進んで行った。前にツォンがいるので安心ではあったが。
場所事体は結構前に放棄されたような感じで、人の気配がなかった。
「ツォン、ここはずれじゃないのか?」
セフィロスが話し掛けた。
「いや、私の情報によるとここの実験施設に何かヒントがあるはずなんだが。」
地下の空間は思ったよりもだだっ広く、黴臭い空気が大分人がここに入ってないことを感じさせる。
ーそれにしては、何かがいる感じがする。
セフィロスは本能的な警戒心がもたげてくるのを感じていた。
整然と机が並べられている奥に何があるのかはまだ良く見えない。部屋の中は真っ暗に近く、大分前から目が慣れて来てはいたがあまり戦闘には宜しくない環境ではあった。
前後左右どこから来ても良いように神経を研ぎすます。
ー!
思わずツォンを机の影に引っ張り込んだ。
ーどうした。
正宗の柄で斜後ろのパーティションの辺りにちらりと見えるウロコの生物のような影を指し示した。
「モンスターか?」
「こんな何にもない場所の割には大きくないか?」
セフィロスが言った。
その瞬間に周りがざわざわして来た。
「気付かれたのか?」
ツォンが小声で話し掛ける。
「いや、多分機会を伺っていたんだろう。
もしかしたら俺達は久しぶりの御馳走なのかもしれないぞ。」
取りあえず二人は背中合わせになり、出口の方を睨みながら敵の数をカウント始めた。
ーそんなに数はいないようだな。いいとこ10匹か。
でも、視界が暗いし相手がどんな種類のモンスターか分からないので手こずりそうだったら、すぐ脱出した方がいい。
大体この洞窟?の大きささえ分からないのだ。
ー囲まれたら厄介だし、しかも後から後から10匹ずつ出てこないとも限らないからな。
いや、そんなRPGのレベル上げ裏技みたいのは現実にはごめんだろう。(笑)
ツォンがセフィロスをつついた。
「取りあえず、来た道を戻るがうまく行かない時はエレベーターが壁際にある。
その時は私に付いて来い。」
軽く頷いて、セフィロスとツォンは少しずつ入って来た道を戻り始めた。

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