夕刻にはヴィンセントは王女のの宮廷に着き、宮殿の一角に自分の部屋を与えられた。
「お人形さん、後で訪ねに行くわ。着替えて待ってて。」
ー着替えて・・・?
話の意味が良く分からなかったが、部屋にアマルダと呼ばれた付人と一緒に残された。
「着替えの手伝いをしましょうか?」
付人が話し掛けた。
「えっ!」
一瞬固まったヴィンセントは付人の顔を凝視した。
「御主人様に着替えを手伝うように言われております。」
ー・・・って女だろこいつ。私は男だし。
「わかるから・・・いい。」
やっと言葉を発して付人を遠ざけた。
付人は厳かに退出していった。
やっと一人きりになったヴィンセントは取りあえず自分を監視するカメラ、盗聴器等がないかざっと部屋を見渡した。
ー目立つところにはないな・・・
ということはもしあるとしたら、結構隠れて監視しているということだ。
ー思った通り一筋縄で行かないところだな。
取りあえず砂だらけの身体を洗おうと思った。
エアリスとセフィロスはとりあえず真直ぐオアシスへ向かっていた。
「エアリス、ルクレツィアを知っているか。」
黙々と歩いている中、セフィロスが話し掛ける。
「写真見たことあるわよ。セフィロスにそっくり。」
あっそう、気の無い返事を返すセフィロス。
「ヴィンセントはルクレツィアの恋人だったのか。」
セフィロスはまた質問する。
「知らない。だって私が産まれるずっと前の話だもの。」
エアリスは冷たく答える。
本当はかなりルクレツィアとヴィンセントの間柄は知っていたのだが、あえてセフィロスに教える義理もない。
「やっぱさあ、親がルクレツィアじゃ子供も相手になろうなんて虫がいいのかなあ」
エアリスはびっくりしてセフィロスの方へ振り向いた。
「セフィロス、そんなにヴィンセントに冷たくされたの!」
その言葉を聞いてちょっと傷付いた顔をするセフィロス。
「ごめん・・・セフィロスなりに深刻なのよね。」
ーセフィちゃんがこんなに本気だとは、ヴィンセントも参っているわよね。
人事ながらエアリスはヴィンセントに同情した。
ーどう考えても子供(と思っている年)から本気で懸想されているなんて、絶対ハッピーエンドになりそうもないわね。
「あのね!セフィロス。」
エアリスが重苦しくなった空気を何とかしようと思って明るく話し掛けた。
「取りあえず、甘えるところからがんばってみたら?子供みたいに。」
不機嫌そうにセフィロスがエアリスを見る。
「もうやってみた。子供扱いから全然進展せずだ。」
あちゃー、と思ったエアリスだがこれ以上口出しは止めようとオアシスへ無言で向かっていった。
シャワーを浴びてくつろいでいたヴィンセントの部屋へノックもなく人が入って来た。
「!」
王女がアマルダという付人を従えて入って来る。
「今日はお人形さん。くつろいでくれたかしら。」
ベッドで寝転がっていたヴィンセントの脇へ腰を降ろす。
ヴィンセントは居住まいを正した。
アマルダは素早くカーテンを閉める。
王女はゆっくりとヴィンセントの方へ近付いてきた。
「お人形さんは大人だから、なんでこんなところへ連れて来たか幾らかは察しが着いているわよね。」
ー・・・知りたく無いけどおおよそは・・・
ヴィンセントは自分の予想ができれば外れて欲しいと思っていた。でも、きっと無理だろうとも思っていたが。
王女はいきなりヴィンセントの身体をふわっと抱き締めた。
「男の人なのに細いからだね。かえってこういう場合は都合がいいけど。」
王女はゆっくりヴィンセントをベッドへ押し倒した。
余りにゆっくり自然にベッドへ横になったので、王女が覆いかぶさっていることに気付くとヴィンセントは思わず王女の両腕へ腕を突っ張らせた。
「やっぱり抵抗はするのね。お人形さん。でも無駄だから。」
ヴィンセントの目は焦っていた。
ーなんなんだ!この怪しい女は!
ちょっと身動きしようとしたら、自分のからだが思うように動かないことに気付く。
アマルダ、と呼ばれた女性がヴィンセント背後にいつの間にか着いていて、手を拘束していた。
「なっ、なにを!」
ヴィンセントが抵抗をする。
「だって、お人形さんにすることといったらお人形遊びよね。」
王女はにっこりとヴィンセントとアマルダへ微笑みかけた。
ーすっごい嫌な予感がする・・・
ヴィンセントは冷や汗がにじみ出てくるのを感じた。
ー力ずくならなんとか逃げられるが(女2人だし。)、あんまリ騒ぎたくない、といっても悪戯されたくもないし・・・
王女が楽しそうに上着を脱がそうとしているのに気付き、ヴィンセントはガバッ!っと起きた。
「あっあの!」
勢いにのまれてベッドにひっくり返った王女。
「私には愛する人がいるので、あなたの言いなりになるわけには!」
「誰?愛する人って」
かなり機嫌が悪そうに王女が言った。
ヴィンセントの頭にいきなり栗色の髪のセフィが思い浮かんで一人で赤面した。
ールクレツィア・・・
目をつぶって心を落ち着かせる。
ずっと黙っているヴィンセントにしびれを切らせたように王女はベッドから身体を起こした。
「いやいや言うことを聞かせる気は私にもないのよ。まあ、亡命者のあなたが好きな人を私が知るわけもないしね。」
ああ、残念美形をひとりものにし損ねたわ、と言う王女を見てアマルダという付人はちょっとほっとしたような感じがした。
「興がさめたから帰るわ。でも、あなたここから出ることはできないわよ。その方が私も都合が良いの。御気の毒だけれども暫くはここにいてもらうわ。」
アマルダを残して王女はさっさと部屋を出ていった。
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