ヴィンセントはしょうがなく王女の前に引っ立てられた。
ーなんか一昔前の時代劇のシーンだな。
ヴィンセントをちらっと見た王女は付人達に指示をだし、すぐに出発の用意を始めた。
「!?」
逃げる間もなくヴィンセントは王女の輿に乗せられ、首都へと向かっていった。
某国の首都はヴィンセント今まで訪れたどんな都市よりもエキゾチックだった。
ー良く考えてみれば、行く機会は幾らでもあったのに写真でしか見たことはなかったな。
地震が少ない国なので、建物は土をこねレンガを積み上げた住居が主な庶民街と、贅を尽くした大理石やきれいなタイルや色彩に彩られた外観の宮殿からなる王族の住む地区にわけられる。
輿の主は明らかに王女だったのでまっすぐ王族の住居へ向かっていった。
輿のカーテンから辺りを伺うヴィンセント。
『あなた、私の国に興味があるのね。』
王女が話し掛ける。ヴィンセントは一瞬言葉が分からない振りをして彼女の顔を見た。
ヴェールで顏を隠していた時は分からなかったが、良く見ると幼さが残る顔立ちだ。
茶色の髪は肩に少しかかるくらいに切りそろえられており、額の辺りに宝石をあしらった髪飾りをしている。
顔立ちの割には思慮深気な瞳は髪と同じ茶色で、ゆったりとした白いアラブ風の服でくつろいでヴィンセントを見ている様は、どことなく威厳があるか若しくは世間知らずな印象を与えていた。
少し考えて王女が口をひらいた。
「ごめんなさい。あなた外国人だったわね。」
大陸標準語で話し掛ける。
ヴィンセントは黙って王女の顔をみた。
「あなた、なんで自分をここに連れて来たのかと思っているわよね。」
王女が楽しそうに微笑みながら言葉を続ける。
ー確かに。すぐに軍や警察にでも通報されるかと思ったのだが。
王女はぐっとヴィンセントへ顔を近付けた。
「まあ、私はあなたを気に入ったのよ。だから、政治家や軍人達に渡したくないわけ。」
「?」
怪訝な顔をするヴィンセント。
「簡単よ。あなたとても素敵な容姿をしているもの。お人形さんみたい。それだけでも私の側においておきたいわ。」
ー何かこのまま連れて行かれると、まずいことが起きる気がする・・・
一難去って又一難か?、という感じの展開に、つきそうになるため息を我慢するヴィンセントだった。
「びっくりしてるわよね。お人形さん。」
王女がお構いなく話し掛ける。
「でも、これがこの国の実情なの。取りあえず私の王宮にくれば、命の保証はしてあげるわ。あなたの国でいう治外法権ですもの。」
ヴィンセントは取りあえず身の危険はないと思ったものの、相変わらず囚われの身には変わりないことを自覚したのだった。
ところで、砂漠の某地点で合流したエアリスとセフィロスは意見が寸前で割れる瞬間にいた。
「あのねっ!ヴィンセントを助けないと言っているわけじゃないのよ!」
某国の事情に詳しいエアリスが声を大きくする。
「ただ、彼の身は絶対安全だから救出は時期を見ようと言っているだけ。」
それに対してセフィロスは絶対にヴィンセントの救出優先派だった。
「でも俺達2人で生化学兵器工場をくまなく調査できるか?三人いる上で、某国の言語に堪能なヴィンセントとエアリスがいた方が全然スムーズだろう。」
「そう言う際どい場所の調査は警戒の少ない潜入直後にする方が効果的なのよ。後からだったら、警備が厚くなるの!」
でも・・・
といいかけたセフィロスの通信端末にリーブからメールが入った。
ーーちゃんとエアリスと会えたようで何よりです。念のため任務の重要度をお知らせしておきますよ。一番は生化学兵器工場、二番が人質救出ですからね。ーー
だめ押しのメールを見てセフィロスはため息をついた。
「リーブもヴィンセントを心配していない。」
エアリスは心外な!と言う表情をした。
「心配はしています!ただ、緊急ではないとはっきり分かっているだけ。ヴィンセントは絶対生きてるしひどいめにもあわないわよ。」
勝ち誇ったように言うエアリスにセフィロスは従うしかなかった。
ーこいつ・・・絶対後でシメル!
その機会があるかどうか分からないが・・・
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