ヴィンセントはぼんやりとしていた意識がかなり戻って来て、寝台の上に起き上がった。
すぐに時計を見る。
「!もうこんな時間。なんで起こさなかったんだセフィ。」
彼らしくもなく相棒を責める。
「寝顔が可愛かったから。とても起せなかった。」
睨み付けるヴィンセントを全然ものともせずに楽しそうなセフィロスであった。
というのも、ケットが面白い飛行機装置を提案して来たのだ。
ーがぜんやる気になってきたぞ!
あたらしもの好きのセフィロスはそれが稼動するのが楽しみでしょうがない。
急いで服を着るヴィンセントを尻目に、セフィロスは着陸計画を既に作成済みであった。
「ヴィン、着陸はちょっと特殊な装置で行う。
背中に背負うジェット噴射装置をもっと操作しやすくしたものだ。」
一応起きたものの、いまいち要領をえないヴィンセントを無視して話をすすめる。
「背中に背負うジェット装置と足にボードを装着する。
さっき操作しやすいように俺達のDNA、身体、他の情報を元に微調整できるソフトウェアに組み込んだ。」
背中と足にジェット噴射・・・ヴィンセントはそのぐらいしか印象に残らなかった。
「エアリスとの合流地点と最悪会えなかった場合の集合地点をいつでも訂正できる。
コントローラはこれだ。」
ゲーム機のコントローラのような外観のものを見せられてとにかくがんばらねばと思うヴィンセントであった。
「某国からの亡命者、逃亡者等は全然見つからないんだな。」
ヴィンセントはやっと起きて来た頭で、ずっと気になっていたことを言った。
「そのことなんだが・・・」
話そうとしたら、作戦開始の合図の警報が鳴り響き始めた。
「ヴィンセント、俺は絶対お前と一緒に着地するからな。」
セフィロスの言葉もヴィンセント聞こえたかどうかは分からない。



シドの荒っぽい運転を感じながら、セフィロスはなかなか着陸地点をコントローラで検索できないでいた。
ーもうちょっと風が凪いでくれると嬉しいんだが。
セフィロスはでも文句は言わずに、必死に最適地点を探す。
「セフィロス、安心しろ。エアリスはきっと大丈夫だ。会えるから。」
ヴィンセントは何も確信の無いはずなのに、セフィロスに声をかけた。
「なんの根拠もなくそういうのは、楽天的な方が今まで成功した事例が多いからか?」
集中を乱れさせないようにセフィロスが口をひらく。
「そうだ。当然ながら、私はお前よりも全然経験豊富だからな。」
でも、できれば俺がヴィンセントに全部助けられるのは避けたいよなと思いつつ、やっと都合がよい着陸地点を決定した。
「エアリスには、連絡できないんだな。」
「そうだ、彼女はかなり警戒しているからな。」
とにかく無事に下り立てる様ヴィンセントは船の窓から様子をうかがった。
まあ、天候ぐらいしか分からなかったが。
「ヴィン、いざとなったら俺はお前を守るから。」
セフィロスがいつになく真剣にヴィンセントに話し掛けた。
びっくりして振り返るヴィンセント。
「この装置は開発中のまだ不完全なものなんだ。
砂漠とか特に目印がない位置を特定しやすいのがいいらしいが、万が一ってこともあるからな。」
しかも、お前は機械に弱いだろ。
ばっさりと、言われたヴィンセントはうっと返答できずにいた。
「着地地点はここだ。」
コントローラについている画面に赤い点が点滅する。
「この横ら辺にあるのが、エアリスが言っていたオアシスの地点を思われる。
まだ、視認はできてないがな。」
目で確認できたらこんなふうに入力すると簡易版の地図ができる。
「便利だな。」
そうだろ、とセフィロスはかなり楽しそうに言った。
「当てになるかどうか分からない十年前の地図は別に保存されていて、簡易版と重ねることもできる。」
他にも色々機能があって、セフィロスはちゃかちゃかと操作していたがヴィンセントは聞いていなかった。
ーまずはオアシスを探さないと。あとはエアリスだ。
船は雲の中を運行していた。多分適当な座標で降ろすつもりなんだろう。


船のデッキへ行き着陸の準備をする。
すごい風が吹いているが、これは船の速度から来ているので降りれば気候どおりである。
「セフィロス、思ったのだが。」
と、ヴィンセントが話しかける。
「私達チームは1人でも任務遂行できるぐらい能力が高い。
私とセフィロスが一緒にいるのは無駄ではないだろうか。」
一体何を言い出すんだとセフィロスはヴィンセントを見た。
「要するに、最初の着陸地点をオアシスと、エアリスの指定地点へわけて、効率化した方がいいんじゃないかって事だ。」
「・・・」
ー一緒にいるのが大事なのにまたこの人は何を言い出すんだ。
ヴィンセントは珍しくセフィロスに寄り掛かって言った。
「セフィ、お前は私と一緒にいたいと思ってるんだろう。」
ーそうだよ!っていうかこの作戦全部がそうだよ!
答えずヴィンセントを見る。
「でも、作戦の成功の為には常に敵の裏をかかねばならない。
そんな意図が敵に無くても、できるだけ人間の位置を分散することは情報調査では大事なことだ。
だから、エアリスに会えない場合にオアシスに二人で行くのは大変危険だ。
何かあった時二人とも捕まってしまう可能性がある。
ひとりだったら仲間に連絡して救出を待つこともできる。」
「でも、俺は今まですべての作戦をうまく指揮して来た。今度も大丈夫だ。」
ヴィンセントはセフィロスの目をじっと見た。
「一ヶ月ぐらいの長期の潜入作戦はほとんど無いだろう。私は結構あるが。
お前はそれを経験した方がいい。」
ヴィンセントは自分がオアシスに行って何かあった場合備えるつもりだった。
ー砂漠のオアシス程危険なものはないからな。
セフィロスでは経験がないので凌げないことも自分なら多分大丈夫であろう。
何も言わないセフィロスにヴィンセントは言った。
「私はオアシスへ向かう。お前はエアリスとの合流地点へ。
不都合があったら、連絡してくれ。」
例のコントローラをちゃっちゃとかざしてヴィンセントは言う。
「立派な指揮官になりたいんだろう。」
からかうようにヴィンセントが言う。
「なりたいけど・・・それよりも大事なものがある!」
思わずヴィンセントをじっと見て目を潤ませた。
ヴィンセントはびっくりして困ったようにセフィロスの肩に手を置いた。
「指揮官ならまず、作戦の成功に心を砕くものだ。セフィロス、お前はそうじゃないのか?」
ーいや、ぜんぜん。今回はヴィンに関して以外は後回しでいい感じ。
セフィロスの目の色を見てヴィンセントはこの作戦はヤバいと感じた。
ー普通のセフィならこんなことはないだろうが、私がいるからだろうな。
とんでもない我がままになっている。
「セフィ、元気でいるんだよ。絶対私を見つけるように。」
一瞬何を言われているか分からなかったセフィロスだったが、唇をふさがれて思わず舌を貪ろうとした。
あっと、思った瞬間ヴィンセントは既に着陸地点へ向かって船を降りていた。
風にのまれてあっという間に見えなくなる。
「ちょっ、ヴィンセント」
これ以上はない程うろたえたセフィロスだが、すぐにシドから連絡が入った。
「おい!エアリスとの合流地点だ。用意しろ!」
セフィロスはヴィンセントが心配だったが、いないおかげか気持ちが引き締まり、頭がクリアになっているのを感じた。
もうヴィンセントがどこに行ったのか分からなくなっていたが、要するにエアリスと無事合流してオアシスへ向かえばいいだけの話だ。
雲の中を進んでいるので、着陸地点は見えないがどうせ砂しかない砂漠だ。
流砂さえなければ大丈夫。
ーそのためにこの妙な機械を使っておりるんだしな。
オアシスの方向を確認しつつ下へおりる準備をする。
「いまだ!」
セフィロスは軽々と雲の中へ飛び下りた。

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