潜入作戦の日当日、ヴィンセントはまるで何も持っていないような身軽な服装でやってきた。
ティファとリーブは彼を見て気をつけて、と声をかける。
時間潰しに腰をかけ、長い足を組む。
ちょっとして、セフィロスもやってきた。
ーなっ!!!
ティファと、リーブもびっくりしたが、一番動揺したのはヴィンセントだった。
「ヴィンセント、手ぶら!俺といる間は着替え無しか!」
思わず叫んだセフィロスを無視して目を合わせないようにしているヴィンセントだった。
ティファが、がんばって、とセフィロスに声をかける。
なるべく目を合わせないようにしているヴィンセントの側にやって来て、セフィロスは話し掛けた。
「まさか、ルクレツィアに似ているなんて思ってないだろうな。」
図星だったので、思わずセフィロスの顔を見て赤くなって目を背けるヴィンセントだった。
その様子を見て例の二人はニコニコしている。
ーティファ、なんかうまくいきそうですよ。
と、リーブ。
ーいかせたいわよ!今ヴィンセントに取って一番ツボのセフィロスだもの!
セフィロス!ナイス!栗色が一番ツボなのよ!
ティファは1人でほくそ笑んでいた。
「リーブ、作戦決行はいつ予定だ。」
「今から約5時間後ですね。ゆっくりしていて下さい。」
ーゆっくり、か。
ヴィンセントは落ち着かない自分の心を鎮めてセフィロスに話し掛けた。
「まだ、5時間ある。3時間前までは連絡とれるところならどこに居てもいいぞ。」
「今回は人数も少ない重要な作戦だ。できれば一緒にいた方がいい。」
オフィシャルに聞こえるようにして、ヴィンセントと5時間一緒にいられる外堀を固める。
「とにかく、1時間前までは好きに過ごしていいから。必ず連絡とれるようにしてね。」
ティファが無理矢理まとめた。
栗色の髪のセフィロスを見て困ったように見つめるヴィンセント。
「やっぱりおまえはエアリスと血のつながりがあるんじゃないのか?」
エアリスとも似ているが、それ以上にルクレツィアとそっくりだと思って困っている。
ちょっと待て!がんばって好きな人と一緒にいたいのにこんなに凄い反応されるとは。
「ヴィンセント、ちょっとこっちに」
ドアのある個室にまんまと連れ込んだセフィロスだった。



「あのな、俺はとにかく潜入捜査だから目立たないようにこの髪の色にしたんだ。
お前がそんなに動揺すると思わなかった!」
まくしたてるセフィロスにヴィンセントはセフィロスをちらりと見た。
「セフィロス、分かってるんだが・・・」
ヴィンセントが目を反らして、下を見る。
ーそれ以上にちょっと俺はショックだよ。
ヴィンセントの反応を見たら、要するにルクレツィアに似てるから困っているというのがまるみえだ。
ー銀髪の時と全然反応が違うんだもんな。
セフィロスを真直ぐ見れないヴィンセントはセフィロスがなるべく視界に入らないようにしている。
ーみかけだけでは心は動かないと思っていたのだが、こんなに似てると理性も吹っ飛びそうだ。
ヴィンセントがもともと、セフィロスから迫られてなかなか断れないのは性格も容姿もルクレツィアに似ているからであった。
セフィロスは自分自身を好きでいて欲しいと思っているが、親子なのだから似ないわけにもいかない。
「セフィロス、お前が気を使っているのは分かってるから。」
頭ではセフィロスが某国へ潜入するのに目立たない茶パツにしたのは分かっている。
でも、実際にそれを見てみたら目の前にルクレツィアがいる気がしてショックを受けてしまった感じだ。
セフィロスをちら見して、耳まで真っ赤になるヴィンセントは自分でもどうしたらいいか困っていた。
椅子に座り片膝を立てて顔をうつむけるヴィンセント。
ーどうしよう。見慣れればいいのか?でも全然落ち着かないんだが。
ヴィンセントの様子を心配そうにセフィロスは見ていた。
「やっぱり戻した方がいいのか。」
気を使って話し掛けるセフィロス。
これから一ヶ月一緒にいるのだから(エアリスが居るとしても)なるべく最初は穏便に過ごしたい。
「いや、大丈夫だ。」
たっぷり10分は考え込んでからしっかりとセフィロスを見た。
「でも、」
セフィロスをじっと見てちょっと赤くなる。
「セフィ・・・その、あんまり冷静になれないかもしれないから。
なるべく私から離れてもらえると嬉しいんだが。」
ーンなことできるわけないじゃん!
っていうかセフィロスにとって、そんな美味しそうなシチュエーションになるのは望むところなわけで。
「ちなみに今、どうしたいんだ?」
セフィロスは試しに聞いてみた。
ーキスして抱き締めたい・・・
切なそうにセフィロスを見るヴィンセント。
その視線を受け止めるだけでセフィロスは自分が辛いのか嬉しいのか、分からなくなって来た。
「俺は・・・別に代わりでもいいのかもしれない。」
ぼそっと呟いたが、すぐ取り消した。
「やっぱり代わりは嫌だから、容赦しないから!」
「分かった。」
そう言いながらセフィロスはいざそんなことになったら絶対に喜ぶな、俺、と思った。
「とにかく、これから一ヶ月一緒にいるんだから慣れてくれ。」
そうだな、と言ってヴィンセントは椅子でくつろいで自分を落ち着かせようとしているのか、ちょっと眠り始めた。
ーどこでも寝られるやつだな・・・
セフィロスは面白そうに彼を見て、ちょっと悪戯してやろうと近付いた。
顔を近付けて手でヴィンセントの顔を固定する。
まだ5分もたってないのに警戒心がないのか全然起きない。
セフィロスはそっと唇を重ねた。
心臓がドキドキしている。
舌を入れようとしたら、素直に唇を開いて来た。
ヴィンセントの舌に触れるセフィロス。
「ん・・・」
ヴィンセントが薄目を開けて、セフィロスの身体に腕を回した。ちょっとぼーっとしながら、キスに集中している。
セフィロスはほんのり赤くなっているヴィンセントの顔がちらりと見えて無性に嬉しくなった。
ーやっぱ、最初の掴みは代わりでもいいかも。
今までにないヴィンセントの素直な反応が新鮮だ。
セフィロスは顔を掴んでいた手を離してヴィンセントの後頭部と背中に移動させた。
自分の身体に回されている腕を、上に引き上げて首の辺りに掛けさせる。
さらに何度も深くキスするうちに、ヴィンセントの頭がだんだん起きて来たようだった。
セフィロスが唇を離すと同時に、腕を離し身体を起こした。
「あんまり、誘惑するな。わけが分からなくなる。」
セフィロスから目をそらせて、ため息をついた。頬が赤い。
黙り込んでいるセフィロス。
ー悪戯のつもりが思ったよりもすごかった・・・
黙って向き合っている二人であった。

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