エアリスは機会を伺っていた。
町中から砂漠への移動は結構かかるのだが、生化学兵器生産ができる施設となると町の近くで見たことはない。
ーと、すると砂漠のどこかに秘密裏に隠し作っているのかしら。
でも、本当に作っているのだろうか。
ーもっと、化学兵器よりも危ないことやっていたりして。
エアリスはもともとの生まれはここではないのだが、セトラが多く住んでいるこの地へ移ってきた。
特に不自由を感じたことはないが、外部との連絡を極端に嫌う傾向がこの地にはある。
ーこの前ティファと話した時もなんか認識のギャップがあったような。
調査員と言うだけあって勘は鋭い方だが、まさかこの国が内戦騒ぎがあったと報じられていることはまだ知らなかった。
ーしきりに大丈夫?と聞いていたけど・・・
これだけの情報規制をするようになったのは、エアリスがこの地に移住する前だ。
でも、表面上は全く問題がないように思える。
エアリスがいる間に内戦どころか、治安が不安定な様子をを見せたこともなかった。
警察はしっかりしているし、特に戸締まりをしなくても安心できる隣近所だし。
ーでも、組織の調査員の仕事をしていることがそれとなくばれてから身辺が危なくなったわ。
セトラが集まっているのは、住みやすいだけではない。
ここの地は少数派ながら、なぜかセトラを尊敬して特別視する宗教があるのだ。
さすがにエアリスは自分がセトラだと公表することは同じ仲間以外は避けていたが、
他国では何かと鬱陶しがられることが多い同胞が集まるわけは良く分かる。
ーでも、私の仕事に勘付くのはセトラだけね。
関係ある話をしたのもその間だけだし。
と、言うことはセトラの中にもこの国の情報操作に協力するものがいると言うことだ。
ー分からないのは、これだけ情報を制限して誰がどう得をしているかよね。
疑問はつきないが、取りあえず生化学兵器工場を探すため信頼できるセトラ仲間から,
航空地図を借りられるか相談することにした。



セフィロスは警備室へずんずん向かって行った。
ーあいつら!絶対シメル!
ガチャッ、とドアをあけると誰もいなかった。さすがに逃げ足は早いようである。
モニターを見るとリーブは既に調査部へ、ティファも調達課で座っていた。
ーすましやがって。あれ?
別モニターを見るとヴィンセントが資料室にいるのが見えた。
某国の資料を探している途中、同じく資料室に居たシドに会い楽しそうに話をしている。
セフィロスの心の中にふつふつと嫉妬の感情が湧いてきた。
ー俺にはあんな笑顔はめったに見せないぞ。
ヴィンセントに会う度に自分がしている行動を思い起こせば当然なのだが・・・
とにかく資料室に行ってヴィンと一緒に作戦を立てよう!と思いセフィロスはモニター室をでた。
その瞬間、するりとナナキがセフィロスの行く手を遮る。
「セフィロス、お前の部署だが書類と決済文書がたまりにたまって大変なことになってるぞ。
私はお前の部下から探してきてくれと頼まれたんだ。」
さっさといくぞ、と服を引っ張られナナキに拉致られた。
ー管理職なんて・・・
サラリーマンらしい愚痴を久々にこぼすセフィロスであった。


資料室でひとしきり雑談をしたヴィンセントは席について某国の基本資料を読み始めた。
一応語学を学んだ時に一通りは頭に入っているとは思うのだが、視点を変えると思わぬ発見があるので目を通しておく。

某国
大陸内陸に位置する砂漠と山岳の国。都市は山岳地帯に狭く位置している平野へ主に作られている。
面積:約44万平方キロメートル
人口:3000万人弱 セトラ民族の移民を積極的に受け入れており、人口は増加中
首都:カンディフ 
公用語:大陸標準語が国内で共通語として使用されている
民族構成:多民族構成、カンディフ族、セトラ族 が多数派
政治形態:立憲君主制
宗教:イスラム教、キリスト教、ギリシア正教、セトラ教
経済:資本主義経済
外交:軍事重視
国防:
略史:

書物の発行年月日を見るとやはり古かった。改定もされていない。
ー私が某国の言語を修得したのが30年以上前だから・・・
少なくともここ10年の間某国関連の書籍は組織に入荷されていないということだ。
書籍検索をかけてみても某国のキーワードでは今読んだ本が一番発行が新しい。
ー情報が10年前のみでは不安だな。せめて過去5〜6年迄遡らないと内乱のこともわからない。
ネット上の情報を調べてみたが憶測の域をでない情報が多かった。
取りあえずプリントアウトして参考にする。
ー某国へ入国したことのある人に聞いてみるか。
ネットでの某国の専門家の検索と、イントラで組織内の人員、あと一番新しい某国の書籍の作者を調べる。
ー!これは・・・
ヴィンセントは出てきた結果に思わず寒気を感じた。
プリントアウトをして紙を凝視する。
ーもしかしたら・・・
調査の目的を思い出し検索に某国と科学者のキーワードもかけてみる。
出てきた結果も意外なものであった。
ー生化学兵器もガセではないかもしれんな。
ヴィンセントは資料室にまだシドがいるかもと思い席をたった。
真直ぐ航空機関連の棚へ行くとやはりまだ本を選んでいた。
「シド、ちょっと聞きたいことがあるんだが。」
「なんだよ。」
振り向くシド。手には最新航空技術書となぜか美味しい夕食の作り方の本がある。
本題の前にシドの手にあるラインナップを見てヴィンセントは思わず顔をほころばせた。
「お前、いい旦那様をやってるんだな。」
シドは夕食の作り方を見られたのを勘付いて、しまった!という顔をした。
「うるせえ!この間ついシエラに俺様も料理ぐらいお茶の子さいさいだって言っちまったんだよ。」
ーそれで一生懸命勉強しているわけか・・・
ヴィンセントは笑いを堪えられず、静かにくっくっくと笑った。
「それよりお前、何の用なんだ。」
夕食の本は手放さずにリーディングスペースへ移動する二人。
机に本をどさっとおいてシドは椅子に座った。
正面に座るヴィンセント。
「実は、飛空挺で某国を通過する時になにか気付いたことはないかと思って。」
さっき雑談した時よりも目が真剣になっている。
ーヴィンセント、なんか掴んだんだな。
シドは落ち着いているが、こちらの動きを見のがすまいと見ている紅い目をちらりと見た。
「某国を通過するのは結構厄介なんだ。」
シドは今迄のことを思い出しつつ答えた。
昔、シエラに会う前にヴィンセントを女だと思って危うく口説きかけたことがある。
声を聞けば男だとすぐ分かったのにあの時はうかつだった・・・
今でもときどきドキッとする仕ぐさをすることがある。
「厄介とは?」
ヴィンセントはシドの方へ少し身を乗り出しつつ髪を邪魔そうに少しかきあげた。
ーそういう行動が困るんだよ!
シドは心の中で叫びつつ、こいつは男なんだからと自分にいいきかせた。
「あのな、某国の上空を通過するのは通常はできないんだ。
ただ、悪天候で致し方ない場合とか、どうしても緊急着陸をしなければいけない時には某国上空へ針路をとれる。」
「領空内の通過は20年以上前に条約を締結して基本的には大丈夫なはずだ。」
ヴィンセントは自分の遠い記憶を思い出して言った。
「それが、内戦が勃発したと思われる7〜8年前から危険だと言う理由もあって通過できなくなり、戦争が終わった後もまだ続いている。」
ーおかしくなったのは内戦が始まってからか?
ヴィンセントは頭の中に某国の最新年表を作成を始めた。

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