2. ゴ・ウ・イ・ノ・ウ・エ

「藤丸、尊くんと何かあったのか?」
茜のおかげで身体の毒が排出され、昔の元気を取り戻したケンは時節藤丸の様子が尊に対して変な事に気付き始めた。
「別に。」
話したくないように無表情になって藤丸は答える。
立川市から逃げ出して、クーデター一行に参加する事になってしまったケンだが、藤丸はまた昔のように一緒にいられるのが嬉しいのか、何かとケンと一緒にいた。
メンバーも増えて、人見知りだった藤丸がケン以外の仲間と話している様子は、昔から成長したようでケンは嬉しかった。
ただ、何となく尊と話すときは必ず誰かいるようにしている気がしていただけだ。
最初に気付いたのは尊と二人きりになりそうになったときに、
「あっ、ケンこっち来いよ。」
とトラックを直そうとしていた所のケンを藤丸が大した用でもないのに強引に呼びつけたときだ。
それでも、いつもの藤丸のわがままだと思って付き合ってやったり、他のメンバーに声をかけて行かせたりしたのだが。
つい昨日、尊と二人きりになってしまった藤丸を見かけると、どうも会話の様子が変に思えた。
というより、壁に背を預けている藤丸に、尊が覆い かぶさって彼の手を取り、ただ話しているというには顔が近すぎるような気がしたのだ。
視線に気付いた尊が、ケンに向かって手を振り、藤丸から離れたときの藤丸の顔は赤みが差して、なんというか様子が変だった。
いつも見せる気が強い表情が消えて、困ったような不安そうな感じで、「ケン!」と自分の存在に気付くと、ごしごしとなぜか口元を拭って泣きそうな顔を急いで隠していた。
「いやなら無理に話す事はないが。」
今はトラックの中に藤丸とケン二人きりだ。
白雪が奪われ、他のメンバーは食料集めと今日の宿泊出来る所があればと場所を探している。
藤丸は我慢していることがあると無表情になる。
ケンの目に映っている今の藤丸の表情は、まさにその時の顔だった。
「変な我慢はするんじゃないぞ、藤丸。」
「ケン。」
藤丸は大きく息を吸って、昨日みた困ったような表情をしてケンを見上げた。
「何か俺にできることはあるか?」
紅い瞳をみると潤んでいて、泣きそうな表情だ。
「ケン、あの。」
少し声が震えていて、涙をこぼすまいと一息入れた。
「な、なるべく俺の側にいてくれ。頼む。」
ケンの顔から目を離して、藤丸が言った。
外は雨がぱらぱらと降って来ている。空模様は暗くどんよりとしていて、雨は更にひどくなりそうだった。
「藤丸、頼まれなくても一緒にいるぞ。いつもそうじゃないか。」
「違う!いつものとおりじゃなく、、」
キッとケンを睨みつけて、自分の言葉に藤丸ははっとした。
「悪い、俺何言ってんだ。」
はぁ、、、とため息をついて藤丸はまたさっきの無表情に戻って行った。
「昨日尊くんと二人きりにしたことか?」
「見てたのか!?」
藤丸がはっとしてケンの目を見た。
「遠くからだから何を話しているかは分からなかったが。」
「あれは話していたんじゃなくって、、」
「話してない?」
ケンの返しに藤丸はまたはっとして、口を閉じた。
二人の間に沈黙が流れる。
雨がひどくなって来て、そろそろみんな帰って来る頃だ。
口を開かない藤丸に、ケンがやっぱり少し時間をおいてまた聞いたほうがいいかと思った時、
「やっぱりケンに隠し事はできない。話す。」
藤丸は重い口を開いてケンを見ずに言った。
「あんまり思い出したくない事もあって、、、」
「藤丸、話せる部分だけでいいんだぞ。」
藤丸を元気づけるように、ケンは彼の肩に触れた。
「その・・・・・・・、ケンも気付いているように、俺は赤銅を避けている。」
ーそうか、でもなぜ?
藤丸はケンの目を見て言った。
「あいつ、、俺を女扱いしやがって、、」
ー女扱い?
言葉の意味が分からなかった。戦闘向きではない藤丸を守ろうとしているのに機嫌を損ねているのだろうか。
「藤丸、でも尊くんはお前が前線向きじゃないから」
「ちがう、そういう意味じゃない!あいつ俺に触ってくるんだよ!」
触る、という意味がまた不明確でケンは口を閉じた。
「だから、昨日も誰もいなかったから、俺が抵抗出来ないのをいい事に、俺にキスしたり身体を触ったり・・・」
ケンは文字通りびっくりして、言葉を返せなかった。
「た、尊くんはお前の事が好きなのか?」
「・・・・そんな訳ねーだろ。だったら嫌がるのを無理矢理なんてしねーよ。」
ー無理矢理!?
ケンの理性が少し崩れる。
ー無理矢理何をどこまで?
「藤丸、それで大人しく触らせているのか?」
「大人しくなんてしてねーよ!」
藤丸が切れて怒鳴った。
「ただ、あいつ馬鹿力だから本気出すと俺なんて暴れても全然動かないし。」
だから、ケンになるべく側にいて欲しいと、、、藤丸の言葉にケンは動揺してその先は聞いていなかった。
ー藤丸と尊くんがそんな関係に・・・
藤丸の様子だと、これまで何度か尊に触れられているようだった。
ケンは藤丸がそんなケがないと思っていたので、笑って彼の隣にいるしかないと今まで思っていたのだ。
ふっと藤丸の首筋を見ると、さっき気付かなかったが紅い印があり、きっと昨日尊がつけたものに違いなかった。
「聞いてるのか?ケン!」
いきなりドアップで藤丸の顔がケンを覗き込んで来た。
近くに藤丸の首筋があり、その紅いキスマークがケンの目に飛び込んで来る。
思わず藤丸の腰を抱き、ケンは噛み付くようにその首筋にキスをした。
「え!?」
藤丸の動きが止まる。
はっ、と自分のしている事に気付いて、ケンはゆっくりと藤丸から身体を離した。
藤丸の目はびっくりしてケンの顔をじっと見つめている。
「すまん、藤丸。その、」
少し藤丸から目を離し、もう一度しっかりと彼の目を見る。
「俺もそういうことなんだ。悪い、藤丸にその気がないことは・・・」
藤丸のびっくりした顔が普段の表情に戻って来た。
「ケン、あやまるな。別に、俺ケンがそう思ってる事に全然気付かなくて、、」
悪い、と藤丸はケンから顔を背けてケンの手を取った。
雨足が強くなって来て、トラックの窓から外の様子が見えなくなって来ていた。
藤丸はケンの手をぎゅっと握って、口を開いた。
「ケン、俺といるのつらいか?」
目を見ないで聞いて来る。
「まさか。ずっとお前に気付かれないようして来た俺だぞ。ただ、」
藤丸の手を握り返し、ぐっと彼を引き寄せる。
「お前が尊くんに身体を触れさせていると聞いて、嫉妬した。」
ケンのもう一方の手が藤丸の身体を頬、あご、唇、肩と撫でて滑り降りて来る。
その手が藤丸の脇を滑り、彼の腰のあたりで一度止まった。
「ケン。」
藤丸の口が開く。
「藤丸。お前の身体に触れたい。」
藤丸が息をのんだのが分かった。
その唇に自分のを重ねる。
藤丸の顔はまた驚いたような表情になっていた。
「俺に触れられるのはいやか?」
藤丸にそのケがないのは分かっている。ただ、尊に触らせているのに、自分が我慢するのはできそうになかった。
「や、じゃない。」
小さな声で藤丸が呟いた。
だが、彼の身体は震えていて、目は潤んで泣きそうになっていた。
「無理はしない。優しくする。」
藤丸の腰を抱き、もう一度唇を重ねる。今度は舌を入れて藤丸の口の中を味わおうとすると、藤丸はおずおずと舌を絡めて来た。
それは、魅力的だが初めてではないキスだと分かり、ケンは尊に嫉妬した。
唇を離して藤丸の首筋に吸い付き、その感触に甘い息を漏らし始める様子も、もう何度かされている事だと伺え、ケンは激しく自分の自制心を後悔する。
藤丸の耳に舌を入れ、キスしながらケンは言った。
「藤丸。後ろに移動しよう。」
ケンの愛撫に震える藤丸はそれを聞いて微かに頷き、ケンに身体を預けた。

荷台にあった寝袋と毛布を下に敷いて、ケンは藤丸をそこにそっと降ろした。
「寒いか?」
まず彼のコートに手をかけてケンは藤丸に聞く。
藤丸は小さく首を振った。
華奢な腰を抱き、ケンは藤丸の鎖骨の辺りに唇を這わせる。
「はっ・・・・あっ・・・」
ちろちろとその部分を舐められる感触に、藤丸は眉を寄せて甘い息を漏らした。
ーこんなところまで尊くんに・・・・
きっと抱かれているのは2度や3度ではないのだろう。藤丸の感度の良さに尊の影がちらつく。
ケンは次にシャツを脱がせ、藤丸の胸の中心にあるピンクの突起を口に含んだ。
「!んっ!」
そこは既に固くなっており、ケンのざらざらした舌の感触に感じて、藤丸の声が漏れる。
少しずつ、彼を横たわらせて胸を愛撫し白からピンクを帯びていく藤丸の身体を堪能した。
藤丸は抵抗はして来ない。ケンが施す愛撫を受け止めて、素直に声を上げ、甘い息を漏らしている。
ケンが藤丸の両胸の突起を優しく転がし始めると、藤丸は眉を寄せて感じているようだった。
ーできれば、俺が最初から教えたかった・・・・
目の前の愛撫への反応に慣れた身体は魅力的ではあるが、本当にケンが藤丸から欲しいものではなかった。
上半身を堪能して、ゆっくりと藤丸のズボンに手を掛ける。
一瞬藤丸の身体が震えたが、観念したようにケンに脱がされるままにされた。
下着も取り去ると、ケンは自分も上半身を脱ぎ、藤丸の華奢な足を割り開いてその間に自分の身体を滑り込ませる。
震える藤丸を安心させるように、もう一度唇を塞ぎ、藤丸の下半身に手を伸ばした。
「い、、やだ、、、、」
ケンの手が藤丸自身に触れる前に、藤丸が呟いた。
ケンはびくっとして、藤丸を見る。
「藤丸、やっぱり俺は・・・」
ー尊くんの方がいいのか?
口には出せずに動きが止まる。
「ちが、、。」
藤丸はケンの顔をぐっと近づけて囁いた。
ーキスしながら下触られるのはやなんだ・・・・
尊に無理矢理された時に、ずっと最初はその体勢でされていたのがトラウマになっている。
そんな理由はケンには言えないが、藤丸のその一言で彼が今までどんな愛撫を自分以外から受けていたのか想像出来て、ケンはむくむくと藤丸を問いただしたい気持ちを抑えられなくなって来ていた。
「藤丸、ここを尊くんに触れられてイッタのか?」
「なっ!」
藤丸に覆いかぶさり、ケンは藤丸自身を愛撫しながら耳元で意地の悪い言葉を囁いた。
「尊くんはお前のここをしゃぶってくれたか?気持ちよかったか?」
耳に舌を入れながら囁く。
「はっ・・・・やっ・・そんな事言うケン、、、キライだ・・・あっ」
巧みな下半身への愛撫に少しずつ水音が加わって来て、藤丸はやっ、、、あっ、、、と喘ぎながらケンの愛撫に翻弄されてくる。
「藤丸、後ろはどうされた?もう尊くんを受け入れたのか?」
「あっ!!」
藤丸を指で絶頂まで導いて、ケンは溢れてきた藤丸の体液をたっぷり手に取った。
「ケン、な、何でそんな事を・・・」
ケンの前に身体を投げ出しているのに、なぜ責められるのか分からず、藤丸は目を潤ませる。ケンの頬に手を当てて藤丸は言葉を続けた。
「俺は・・・・、ケンが好きだから・・・・・・、だからできることなら受け入れようと思っただけで・・・・・・、でも、ケンは今の俺はいやなのか?」
藤丸の言葉にケンははっとなり、自分の頬に添えられた藤丸の手に触れた。
「すまん、藤丸。俺のはただの嫉妬だ。優しくするって言ったのに。」
ケンの様子が元に戻り、藤丸は安心してケンに笑いかけ身体を起こした。
脇に脱ぎ捨てられたコ−トを羽織って、藤丸はケンに寄り添い顔を見上げる。
「ケン、赤銅と変な事になったのは1回きりだ。その後はキスしてきたり、少し触られただけで、こんなんじゃ全然ない。」
1回だけという藤丸の言葉に、ケンは本当に安堵した。
でも、その1回でどこまで?という疑問は拭えず。
「藤丸、その時はどんな事されたんだ?大丈夫だったのか?」
「大丈夫じゃねーよ、全然。すっげートラウマったのに、あいつけろっとして俺にちょっかい出してきやがって・・・」
「だから、藤丸どこまで・・・」
「どこまでって何だよ。そんなのケンの方が詳しいだろ。知るかよ俺が。」
全くあいつ気持ちわりー、と呟く藤丸に、
ー俺が聞きたい内容はきっと藤丸からは無理だな・・・
とケンは一人で悩み始める。
「ただ、次は最後までとか意味深な事言うから、ぜってー次なんかさせないって俺としては予防策をだな。だからケン、」
いきなりケンにぎゅっと抱かれて、藤丸は混乱した。
「藤丸、良かった。」
「?何だよ。だから俺はケンに協力して欲しくて。」
「するさ。もちろん。藤丸最後までされてなくて良かった、本当に。」
「???????」
この手の事に疎い藤丸にはケンが何を安心したのか分からず、きょとん、としている。
と、遠くの方から宗一の声が聞こえてきて皆が帰ってきたのが分かった。
「あっ、やべー俺服着ないと。」
上はともかく下はやばいだろ、と独り言を言って藤丸が脱ぎ捨てられた下着とズボンを急いで身につける。
シャツは後で着るか、とコートの前を締めた藤丸をケンは後ろから、ぎゅっと抱きしめた。
「藤丸、もしも。」
「何だよ、ケン。」
荷台に変な痕跡が残っていないか見ながら、藤丸は答えた。
「もしも、お前がその、最後を俺にやってもいいと思ったら・・・」
「えっ!?」
藤丸がびっくりして振り向いてケンを見つめる。
「いや、藤丸忘れてくれ。いや、忘れて欲しくは・・・」
「何なんだよケン、はっきりしろよ。」
ケンの腕から離れて、いつもの様子の藤丸が言葉を投げて来る。
ケンは藤丸の耳に口を寄せ、何か囁いた。
「なっ!」
「待ってるぞ。」
宗一くんお疲れさまだ、とケンは藤丸から離れて帰って来る彼らを迎える。
一方、ケンの言葉に藤丸は耳まで赤くなって俯き、
「待ってんじゃねーよ」
とぼそっと呟いた。
ーもし、藤丸が最後までしてもいいと思ったら、最初の相手は俺を選んでくれないか?
「バカだなぁ・・・ケン・・・」
ーあそこまで俺が譲っているのに、待つとかありえないだろ・・・
でも、そこがケンのいい所でもあるしな、、、と思い直し藤丸はトラックの運転席に戻るのだった。



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