食事が全部終わると2時過ぎだった。
「また、動物園に戻るのか?」
セフィロスがちょっとうんざりしたように話し掛ける。
「15時頃からペンギンの行進があるから、それは見ないとな。」
何故か楽しそうに笑うヴィンセントにしょうがないか、とついていくセフィロスだった。
ペンギン舎はフラミンゴ舎の近くにあった。入り口から左にまがって池の近くにある。
園内には大分人が込み合い始めていて、どこかの幼稚園の団体がペンギンの行進を目当てに辺りをうろついているのが分かった。
15時にはあと30分程なので、家族連れもちらほら集り始めている。
ヴィンセントはちょっと遠くのフラミンゴ舎の手すりの辺りに背中を寄りかけて、時間を潰していた。
セフィロスも隣で同じように手すりに寄っかかっている。でも、フラミンゴを見ている振りをしてヴィンセントを見ていた。
彼の横顔は見れば見る程きれいだ。外見年令は27歳時で止まっているが、その瞳から伺える思慮深さは見かけより遥かに年長な雰囲気をただよわせるので、全体的に年令不祥な神秘的な感じがする。
ペンギン舎の周りに集っている女性達がヴィンセントとセフィロスが二人でいる様子を見て、噂している様子が感じられた。中には分からないように指差している人もいる。
そんな様子を気にもせずに、ヴィンセントがセフィロスの髪をすうっと手に取った。
「もう、すっかり銀髪に戻ったな。」
こっちの方がセフィらしい、と付け加える。
「でも、茶髪の時の方がヴィンの警戒心が薄らいでた気がする。」
「警戒心ってなんだよ。」
ヴィンセントが言い返す。
セフィロスは口に出して言うのが面倒なのか、ヴィンセントの顎に手を当てて少し上に向けた。
「!!セフィ。子供がいるんだから!」
ちらっと周りを見ると興味深げな幼稚園児の群れと、自分の子供の目を隠しつつかたずを飲んで様子を見守る母親達が見受けられた。
ーもしかして、この為にこのロケーションにしたのか?
それだったらヴィン汚ねーぞ、と思いながら彼の顎から手を放した。
「もし、セフィがその気になったらでいいんだが」
ちょっと安心したように、ヴィンセントが話し始める。
「いつか、ルクレツィアの墓参りに一緒に行こう。」
セフィロスが返事をする間も無く、幼稚園児の集団が二人の周りに集ってきた。
どうもペンギン行進が始まる迄の時間に飽きたようだ。
「ねぇ、おねぇちゃんさっきの続きはどうなるの?」
無邪気な感じで集団の中でも小柄な男児がヴィンセントに話しかけてきた。
ーお、おねぇちゃん・・・
思わず固まっているヴィンセントの隣で、セフィロスが、くっくっくと笑いを堪えていた。
「続きはないよ。あと、私はおにいちゃんだからね。」
男児の視線に合わせてヴィンセントはしゃがんで言った。
幼稚園児達がそれぞれ、あれは続きがちゅってやるんだよ、とかお兄ちゃん通しで?とか盛り上がっている所に、
「ほら、ペンギンが行進を始めたよ。」
ヴィンセントが、さっきの子供をペンギン舎の方へ向かせた。
ペンギンが2列に並んで普段の住居から出て来てぺたぺたと飼育員の先導に従って歩道を歩き始める。
よちよち歩きの可愛い様子に周りはみんな目を奪われていた。
全部で30匹程度と思われる集団が目の前からかなり時間をかけて、ぺたぺたと通り過ぎて坂を登って目的地の方へ消えていった。
「こうやってみると、動物も可愛いもんだな。」
セフィロスが笑顔を浮かべて話す。
だろ、と楽し気にヴィンセントが答えるとシャツの裾を引っ張られているのに気付いた。
下の方を見るとさっきの小柄な幼稚園児がくっついていた。
「あれ?」
周りを見ると既に同じ制服の幼稚園児の群れはいつの間にかどこかへ消えている。
「他の子はどっちに行ったのかな?」
子供に聞いても分からなそうだった。
ー迷子になっちゃったかな。
ヴィンセントは手をつなごうと思ったのだが、思ったより背が低くて大変だったので抱き上げた。
子供は喜んでヴィンセントに抱き着いて来る。
「おい、お前ガキの割には面食いだな。」
セフィロスが話し掛ける。
「めんくいってなに?」
セフィロスに子供が聞く。
「きれいな人が特に好きな奴のことだ。」
セフィロスがヴィンセントに、今日はいやに子供に好かれてるな、と笑った。
「ぼくきれいなひと好き〜。ねえ、なんでおねぇちゃんじゃないの?」
ヴィンセントに抱き着きながら目を見てきいてくる。
「何でって言われても・・・取りあえずみんなを探そうな。」
ちょっと困った様子で話題をそらせて、園児の集団が側にいるかとペンギン行進を追っていった。
ペンギン行進は入り口の近くのペンギン舎から坂を登って、上にある白熊舎の近くにあるもう一つのペンギン舎で終わる。
ヴィンセントとセフィロスは終点についたが、幼稚園児の集団は近くにいなかった。
「ペンギンの次は、何を見る予定だった?」
ヴィンセントが腕の中の園児に聞く。
「ん〜ぞうさん?」
二人で象舎に行く。
「いないな。」
セフィロスが呟く。
「次は?」
ヴィンセントが子供に聞くと、きりん、サイ、カバ、ライオン、トラ、タカ、と引っ張り回されて
「おいガキ、お前自分が見たいものをいってるだろう。」
とセフィロスが子供の頭を小突いた。
「へへ〜」
と嬉しそうな顔をしているのを見るとヴィンセントはあんまり怒る気にはなれなかった。
「しょうがないから迷子預かり所に行くか。」
セフィロスが言うと、でもな、とヴィンセントがちょっと重そうな感じで迷っていた。
時間は16時30分を差していて、幼稚園児ならそろそろ帰る時刻だ。
「一度出口に行ってだめだったらそうするか。」
ヴィンセントが言うと、セフィロスはじゃあちょっとガキを貸せ、と子供を移動させようとした。
「やだ、こっちがいい。」
子供がヴィンセントにひしっと抱き着く。
「あのな、ヴィンはちょっとお前が重くなって来てるんだよ。」
「やだ〜ぼくめんくいだもん。」
おいガキ、俺だってイケ面なんだぞと子供に言い聞かせるセフィロスにヴィンセントはくすくす笑っていた。
「ほら、銀髪のお兄ちゃんが肩車してくれるって。」
ほんと!と子供が言って素直にセフィロスの方へ移動していった。


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