調達課の幽霊調査が始まって10日程たった頃、セフィロスは変な噂を社内で耳にした。
セフィロスの秘書をしている女性から雑談程度に聞いたのだが、調達課の女性の間で「黒髪の美形さんと幽霊を見る会」なるものが流行っていて、どうも最近チケットらしきものまで売り出されているらしい。
「何だ?その黒髪の美形って?」
社内に美形って言ったら有名人は俺ぐらいしかいないはずだし、と思いながら秘書に言った。
「何でも今まで廊下ですれ違う程度にチェックはされていたらしいんですが、調達課で残業していた娘が幽霊に会うって言い出したらその方が調査してくれるようになったんですって。」
「なんだそれは?」
「私も詳しくは知らないんですけれど、調達課に行けばチケットが手に入るみたいですよ。でも、美形っていうからにはきれいな人なんでしょうねぇ。私も見てみたいです。」
微妙に不機嫌そうなセフィロスを見て、でも私はセフィロスさんが一番素敵だと思いますけど、と秘書が言って去って行った。
ー黒髪美形って、ヴィンじゃないよなぁ・・・
うちの組織は大きいし、ヴィン以外にも美形はいるだろうしなぁ・・・と思いつつ取りあえずティファに聞いてみようと電話を取った。
「リーブ、この調査もう止めないか?」
16時に出社してきたヴィンセントが昨日の日報を出して、リーブに言った。
「おや、気楽にできていいかと思ったんですが。」
リーブが御不満でも?という風に聞いて来る。
「別に仕事はどおってことは無いんだが・・・」
日替わりで調達課の女性が代わる代わる一緒にいるので、有名人になりそうで怖い・・・とヴィンセントが言う。
「それはまずいですね・・・」
ヴィンセントは見かけ上年を取らない体なので不審に思われない様、一般の社員とは極力接触を持たないようにしている。
組織で存在を知っているのは実は総裁とリーブ等一部の組織員だけだったりもするのだ。
「でも、一緒にいるのはティファだけじゃ無かったですか。どうしてそんなことに?」
「・・・そう言えばどうしてだろうな・・・」
ヴィンセントがことの次第を思い出してみると、クラウドとザックスが絡んでからおかしくなってきたような気がしてきた。
「心当たりがあるからちょっと聞いてみる。」
また明日な、と声をかけて実行部隊の方へ出かけたヴィンセントだった。
実行部隊の取りまとめのセフィロスに取りあえずは挨拶に行ったのだが、不在とのことでヴィンセントは直接ザックスとクラウドに会いに行った。
実行部隊は机の上で仕事をするわけでは無いので、オフィスのように一人ずつ席があるわけでは無い。
一人一人の予定表を見て、ザックスとクラウドの場所を確認していると、
「よお、ねぇちゃん。今夜辺り付き合わないか?」
どこにでも一人はいそうなすかした男が声をかけてきた。
「悪いけど、私は男なんだ。」
にっこり笑ってあっけに取られている男の横をすり抜けて目的の場所へ向かって行った。
ー全く、こんなに背が高いのにどこで女に間違えられるんだ。
ちょっと怒りながら歩いていると、鏡があった。
ーやっぱ髪のせいか?
切ろうかな〜と本気で思った瞬間であった。
セフィロスが調達課から帰ってくると、秘書がヴィンセント・ヴァレンタインという方が来ましたよ、と伝言を伝えた。
ーまじかよ。タイミング悪!
セフィロスは誰を探しにいったんだ?と聞いたが秘書の人には言って無いようであった。
ー俺の予想ではザックスとクラウドだな・・・
二人の予定を端末で確認して、さっさとオフィスを離れるセフィロスであった。
いくつかオフィスのビルを移動して階段を登って行くと、ヴィンセントがザックスとクラウドを迷いながら探しているのをセフィロスは早々に見つけた。
ーうわっ、生ヴィンだ。
最近会えなかったせいか、ヴィンセントを見ただけで笑顔がこぼれるセフィロスであった。
「ヴィンセント」
声をかけると、振り向いた。
「セフィ、こんなところでどうしたんだ?」
相変わらず優しい笑顔で話し掛ける。
近くに行って、隣に並ぶ。
ーっていうか、口元見てるだけでキスしたくなるんですけど。
ザックスとクラウドを探しているんだよ、と話し掛けるヴィンセントにキスするのを押さえようと目を反らすセフィロスであった。
「セフィは何処に行くんだ?」
聞いて来るので、俺もザックスとクラウドを探しているんだ、と目をそらし気味で言うセフィロス。
案内してくれるか?と話しかけられて、頷いて先頭に立った。
ーあ〜あ、何でこんなチャンスに俺ってこうなんだろうな〜。
ちょっと落ち込むセフィロス様でありました。
予定表に書いてあった場所に行っても二人にはタイミングが悪かったらしく会えなかった。
「もう帰ったのかな。」
時間を確認して、ヴィンセントが言った。既に17時をかなり過ぎている。
「あのさあ、明日の待ち合わせだけど。」
「9時に現地集合だろ。」
ヴィンセントがあっさり言うので、思いきって言ってみた。
「お前、今日オフィスに0時頃までいるだろ。」
そうだけど?とセフィロスの方を向くヴィンセント。
顔がすぐ近くまで迫っている。
ー・・・わざとか?
色々我慢しながら、今日は俺もお前の調査にいるから、となんとか伝えた。
ヴィンセントは不思議そうな顔をしていたが、じゃあ21時に調査現場に集合なと伝えて自分のオフィスへ帰って行った。
ー俺我慢する必要あったのかな?
もう定時過ぎだし、キスぐらいしてもOKだったのでは、と色々と反省するセフィロス。
ーそれよりも、ザックスとクラウドだな、問題は。
あいつら、俺の考えている通りのことをしてたらただじゃ置かない、とちょっと上司らしいセフィロス様でした。
ヴィンセントが調査部に戻ると電話が直ぐに鳴った。
「ん?ティファ?」
ヴィンセントが受話器を取って答える。まだ残っていたリーブが状況を把握する為か近くに来た。
ーヴィンセント、ごめん今日の調査は無しで。
「いいけど、どうしたんだ?」
横で聞いているリーブにめくばせして、会話を続ける。
ーなんか、セフィロスの怒りをかっちゃったみたいなの。原因はわかんないけど。
「今日セフィロスも来るって言ってたぞ。」
ヴィンセントが答える。
ーごめん、無くなったって伝えといて。クラウドとザックスには私から言うから。
リーブが電話にでます、と合図したのでヴィンセントはティファにリーブに代わる
、と言って受話器を渡した。
「ティファさん、この調査一般の方が参加しているそうなので打ち切ろうかと思ってるんですが、いかがですか。」
ヴィンセントは、ティファの言っている内容は分からなかったが、リーブが受話器をおいて
「多分多くても後一回ぐらいで終わりますよ。」
と言う言葉に安心するヴィンセントだった。
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