「セフィロスはいい部下を持ってるんだな。」
ザックスもクラウドも休みの日をつぶして、お前を心配してるみたいだったぞ、とヴィンセントがしゃべっている。
「あいつらは単に暇だったからついて来ただけだ。」
「でも、ザックスなんてお前に何人も女性を紹介してるみたいじゃないか。」
「俺が一緒にいると向こうから女が寄ってくるからな。」
あいつも、ゲンキンなんだよ、とセフィロスが大きな建物の前でぴたっと止まった。
ヴィンセントが、おや、と思って建物を見ると、
ーーニュー・インベリアル・ホテルーー
という落ち着いたベージュ色の建物の表示が目に入ってくる。
「今日はここに泊まるから。」
とセフィロスが高級そうなフロントにずんずん入って行った。
「ちょ、ちょっと待て!」
ヴィンセントが焦ってセフィロスの腕を取って、待ち合わせのホールの方へ移動させた。
「私はいいなんて一言もいってないぞ。」
ちょっと高級そうな椅子に座ってヴィンセントがセフィロスを睨む。
「今迄ザックスが紹介してくれた女はここ迄来ると全員OKだったんだがな。」
ー最近の女性って一体・・・
ちょっと世間常識についていけずに視線を反らすヴィンセント。
「この時点で部屋キャンセルすると勿体無いんだよなぁ〜」
セフィロスがちらりとヴィンセントを見る。
「予約なんてしてないくせに。」
ヴィンセントもセフィロスを流し目で睨んだ。
セフィロスがぺろっと舌を出すと、ヴィンセントはため息をついた。
「ほら、コーヒーおごってやるから。酔いをさまして帰るぞ。」
ヴィンセントはウェイターに声をかけて注文した。
その様子を楽しそうに見つめるセフィロス。
ーまあ、成功するとは思わなかったけどな。
ヴィンセントはテーブルに両ひじをついて、手の甲に顎を載せフロントの様子と目の前を通り過ぎる人を見ていた。
季節柄ハローウィンが近いので、フロント近くのディスプレイスペースには大きなカボチャが何個も置かれ、お化けの絵が背後に描かれていた。
その前を宿泊客がちらほらと通り過ぎて行っていた。
「騙されるのと持て成すのとどっちがいい?」
セフィロスがヴィンセントに顔を近付けて聞いた。
「普通だったら持て成す方を選ぶんだろうけど、」
ヴィンセントはにっこり笑って顎から手を外し、ウェイターにコーヒーを置くスペースを空けた。
「セフィだったら騙されてやってもいいかな。」
「そんな一筋縄でいかないくせによく言うよ。」
セフィロスがコーヒーカップを口元に近付けて言い返す。
私を騙せるようになったら一人前だな、と優しく笑ってヴィンセントもコーヒーを飲んだ。