Second Lesson for Fujimaru, the Hachiohji head of a ward 3


都庁の近衛のエリアをカツカツと足早に進み、藤丸は赤銅隊長の執務室のドアをノックする。
「誰だ?」
「八王子区長藤丸。入っていいか?」
隊長自らドアを開け、藤丸は初めて入る執務室で手短に話を終わらせようと、泉がデスクの向こうに移動すると、その正面に立ってすぐに本題に入った。
「隊長、こんな事で時間とってわりーんだけどよ。」
ケンとの事があってから、なるべく早く、都庁に行く用を作って、赤銅隊長のアポも念のため取ってから、彼の執務室で今相対していた。
「何だ?いきなり。アポまでとって。」
何を言われるのか分からない心の用意か、赤銅泉はタバコをくわえ、火をつける。
「大した事じゃねぇんだが、これからオレに会うのはやめてくれねぇか。」
それで通じるだろう、と思い泉の目を見る。
その言葉を聞いた泉の目からは、自分の言葉をどう感じたのかは分からなかった。
「じゃ、話はそれだけだから。時間とって悪かったな。」
さっさと立ち去ろうとした藤丸を、シガレットを灰皿に押しつけ、彼を泉は止める。
「藤丸、俺はお前を手放す気はないぞ。」
デスクの向こうから、彼の方に手を伸ばし藤丸の腕を掴むと強引に引き寄せた。
「た、隊長、まだ何だよ。」
「大方新しい相手ができたんだろうが、俺はお前が何人相手をしていようが、全くかまわんが?」
ぐいっと藤丸の腰を抱き寄せ、近くなった顔を近づけて感じやすい耳から首筋へ唇を滑らせる。
「なっ、こんなとこで、何すんだよ!」
「例えば、これで終わりにする、というのはどうだ?」
慣れた手つきで彼の軍服の上着を脱がせてくるのに、藤丸はビクッとして息を飲む。
少し大人しくなった彼の身体を、何度も愛撫して反応すると分かっている場所を触れると、すぐに甘い吐息が漏れてきた。
「気持ちいいか?藤丸。俺と寝てたせいでお前の昔なじみとやっても、良かったんじゃないか?」
藤丸は何も理由は言わなかったが、容易に予想がついてそれを口にした。
「だ、黙れよ!あっ、んんっ!!」
シャツの前をはだけさせて、胸の辺りに吸い付き、下半身にも手を伸ばして感じるポイントを触れてやると、藤丸の目はだんだん快感に潤んできて、頬もピンク色に染まっていく。
「はっ・・・やめっ・・・んっ!」
藤丸の口から甘い喘ぎ声が漏れてきて、もう立っていられなくなったのか、泉が抱いている腰の辺りに彼の重さが感じられて来る。
泉は一度藤丸を持ち上げて、彼を自分のデスクに座らせた。
ーずいぶんな眺めだな。
AVでよくあるようなオフィスでのセックスシーンのようだと思いながら、藤丸の足を開かせながら彼の服を寛げて、その間に顔を埋める。
口で促し、何度したか覚えていないその場所を刺激すると、身体は素直に応え、頭の上から喘ぎ声が聞こえて来る。
「あっんんっ!!!」
達したのが分かって、彼のを飲み込み、泉は自分もだんだん彼の身体に触れて、最後までしないとおさまりがつかなくなり、まだ余韻で動けない藤丸の軍服に手をかけ、下半身をするりと脱がせた。
「い、いずみ・・・こんなとこで・・・」
息を切らせて、赤い顔で言葉だけの抗議をしてくるが、聞く気はない。
シャツを纏っているだけの姿もそそる、と思いそのまま彼を抱き上げて、ソファに移動した。
とさっと軽い彼の身体を降ろし、迷いなくいつものように彼の身体に覆いかぶさり、上げている髪を解いた。
キスを施し、濡れている下からそれを指に取って、後ろに手を伸ばす。
「んっ!」
泉の指が自分に入って来る感触に、藤丸が声を上げた。
ー最初に比べると、ずいぶん反応が良くなった・・・
あっ、、と後ろの動きに反応する藤丸を見て、ケネス区長に藤丸がどこが感じるのか、教えてやろうか、と頭に浮かび苦笑する。
ー余計なお世話だな。
セミロングの黒髪に指を絡めて、キスをまた落としながら藤丸の口元に囁いた。
「泉、愛している。」
「なっ!」
彼の細い腕を自分の身体に掛けさせて、身体に抱きつかせる。
「最後だろ、言ってみ。」
紅い目を潤ませて、上気した頬で睨みつけて来るのも、非力な彼相手だとプレイのように思えて来る。 「んっ・・・・・、いずみ・・・」
足を開かせて、いつもの通り、彼の中に身体を進める。
「あ、あいしてる・・・」
ーケンにも、愛してるなんて、言った事ねぇのに・・・
嫌なのか、快感のせいなのか眉を寄せて、泉の言葉を繰り返して来たが、年若い彼にはまだ愛という言葉は似合わない気がした。
「ああっ!」
身体を揺らされて、思わず声を上げ、泉に掛けた腕にぎゅっと力が入る。
「藤丸、もう一度。」
「あっ、、、いずみ、、、あ、、愛してる・・・・。」
動かされる腰の動きに、あっと反応しながら繰り返して来る。
執務室の中が、藤丸の甘い喘ぎ声と二人の肌を合わせる熱気で充満してくる。
「い、、いずみ。だ、誰かきたら・・・」
「でなきゃいい。」
こんな状態でそれを気にする藤丸が可笑しくなって来るが、止めるわけにもいかないので、答える。
「んんっ!!」
余計な事を考えさせないように、彼の前に手を伸ばし刺激を始めた。
しゃべらないように、口もキスで塞ぐ。
ーこうしていると、熱愛中の恋人同士のようだな・・・
本当は実態と全く違うのだが。
いつものように、身体の欲求のままに彼の中に自身を突き入れ、その感触を楽しむ。
感じやすい胸の先も、時々舌先で転がしてやると、んっ!と泉にしがみついて身体を震わせる。
「あっ!ああっ!」
藤丸と泉は同時に果てて、泉は藤丸の絡み付いた腕に身を任せて狭いソファの上で彼の身体に手を這わせ、覆い被さった。
愛しげに自分の髪に指を絡め、顔に、身体にキスを落とす泉を、藤丸は複雑な表情で見た。
「まだ、オレの顔が好きなのか?」
「ま、それもあるがな。」
と、答えた時に、
「隊長、天城屋です。ちょっとお邪魔しますよ。」
とノックと一緒に声が聞こえた。
ギクッとした藤丸に、泉は素早く脱がせた藤丸の軍服のズボンと、上着を渡す。
「下は急いで着て、上は軽く羽織っとけ。」
泉は軽く服を整え、藤丸が何とか軍服の上着を肩にかけたのと、天城屋がドアを開けたのが同時だった。
「何だ、天城屋。今取り込み中だ。」
身体の正面を向けるわけにはいかずに、藤丸はドアに背を向けてソファに座る。
ー髪、降ろしたままだ。
「ああ、八王子区長といらしたんですか。立川区長が時間があったらお会いしたいと来ていらっしゃいますけどね。」
どきっとして、ケンがそこにいるのかと顔だけ向けて、天城屋の後ろにいる彼と目が合った。
「ケン、わりぃ。今隊長と複雑な話してて。」
何も言わなかったら誤解されると思い、何でもない風に彼に向けて言った。
「ケネス区長。悪いが、八王子区長と込み入った話し中だ。申し訳ないが、またの機会に来てくれ。」
シガレットを胸ポケットから取り出し、火をつけながら藤丸の言葉に被せるように言った。
「いえ、こちらもいきなりでしたから。」
藤丸の格好と様子が心配だったが、隊長本人から言われて連れて帰るわけにも行かない。
「じゃ、赤銅隊長、お邪魔致しました。」
と天城屋が言って、泉の執務室のドアが閉まった。


「隊長が人払いするなんて珍しいんですが・・・。ケネス区長、ご足労申し訳ありませんねぇ。」
執務室から都庁建物の外に出る廊下で天城屋がK.K.を送り出すように、一緒に歩く。
「いや、藤丸はよくいるのか?赤銅隊長の部屋に。」
ケンが聞くのに、
「いえ、初めてじゃぁないですか?あたしの勘では、あれはヤッてたんじゃないかって感じですけどね。」
何を好んであんなガキんちょを、と呟いてから、あ、失礼致しました、とケンに言ってきた。
「副隊長のあんたでも、そう見えたか。」
「ええ、まあ。素直に状況を見たら、てだけですけどね。まぁ、どっちにしろ、あたしには関係ない事ですが。」
と都庁内の近衛のエリアが切れて、じゃここで、と天城屋はケンを送り出して自分の部屋に戻って行った。
ー藤丸、この前俺を受け入れてくれたのは、どういうつもりだったんだ?
ケンの目からも、どう見ても今日の様子は赤銅隊長と事があったとしか思えなかった。
しかし、あの時の藤丸の言葉に嘘があったとも、思えない。
ー話を、ちゃんとした方がいいな・・・
とケンは少しため息をついて、エレベーターホールにある待ち合わせの椅子に腰を降ろし、藤丸が出てくるのを待とうと思った。


「どーしてくれんだよ、隊長。ケンにまで見られて。」
天城屋がドアを閉めたとたんに、藤丸が泉を睨みつけて言った。
「正直に言わなきゃいいだろ。」
泉はさっきから藤丸に言っていたことを、また繰り返した。
「ケン、ただでさえオレとおめぇの事疑ってるのに・・・。」
ー疑っている、というか事実だからな。
大体藤丸に最初に手をつけたのは自分だし、あんなに付き合いが長いのにケネスがぐずぐずしているのが悪い、と泉的には思う。
「正直に、俺とは別れられません、しかも前から寝てますってケネスに言ったら、どうなるんだ?」
「なっ!これで最後だって!」
「気が変わった。」
とあっさり言う泉に、てめぇ、、と藤丸は睨みつけ最初の時のように泉をひっぱたこうとして、その手を簡単に取られた。
「ま、俺はお前を手放すつもりはないが、そんなに束縛するつもりもない。今まで通り、こっちに来る時だけ、付き合ってくれればいいんだがな。」
気に入っている、髪を下ろした藤丸の横顔を見ながら、説得にかかった。
ある意味、K.K.に言った複雑な話を今しているとも言える。
「断ったら、どーするよ。」
譲歩のポイントを探して、藤丸が言い返す。
「ふむ。今日みたいなことになるか、又はお前をこっちで見つけた時に、持ち帰らせてもらうか、どっちにしても俺はお前を諦める気はないからな。」
解けた髪に触り、意地悪く藤丸を見るのを、くそっ、と泉の目を睨み返して来る。
確かに、鬼の赤銅隊長なら人前でやりかねないし、きっと誰も(ケン以外は)止めないだろうし、人目につく事を思えば、今までのままの方が隠す、という目的にはかなっている。
しかも、隊長から逃げ続けて、あの生真面目なケンが隊長とカチあって言い合いなんか始めたら・・・・
ーうわぁ・・・・ぜってぇ人に見られたくねぇ・・・
自分がそんなバカバカしい痴話げんかの原因になるなんて、今まで想像すらもしなかったのに、渦中に放り出されると思うと、隊長の提案はリーズナブルに思えた。
しかし、そのためにはこの関係を自分はずっとケンから、隠し続けないといけない訳で。
ーオレ、そんなストレス耐えられるか?
ケンから疑われつつ、素知らぬ顔をして彼の恋人になって、しかも泉と都庁行きの時だけ身体の関係を結ぶ、というのは10代の自分には高度な技に思われた。
「藤丸、俺の事そんな嫌いじゃないだろ。」
難しい顔をして考え込んでいる藤丸を、 泉は自分の方へ向かせる。
「ああ、まぁ。」
というか、こんな関係になってかえって話しやすくなった、と思う。
狩人部隊のトップだと思って接している時は、正直いつ自分もその餌食になるか、怖いイメージしかなかった。
しかも、気楽に赤銅隊長と接している藤丸の様子に、都庁職員の目が、以前の適合者の生意気なガキ、として見ていたのとは少し違ってきた気もする。
「なら、都庁に来る時はそこでしか会えない友人に会っている、と思えばいいだろう。」
「ダチとは、寝ないだろ。」
「部屋に泊めてもらうくらいはするだろ。」
どうも、赤銅泉は一歩も自分の条件からは退く気はなく、言葉を変えて藤丸を説得する気らしい。
はぁ・・・と、ため息をついて、いい考えも思いつかず、藤丸は軍服を着ようと思って、その前に一応泉に聞いた。
「シャワーは、ねぇよな。」
「そのドアの奥にあるぞ。」
とデスクの側にある別部屋に繋がるドアを目で示す。
「借りんぜ。」
と服の前を軽く留めて立ち上がった後に、思い出したように言葉を続けた。
「隊長のオファーは保留だかんな。あと、ケンには何も言うなよ。」
「都庁に来た時は挨拶に来いよ。」
と満足そうに赤銅泉が返して来る。
ーケンに、受け入れられたら泉はもういらねぇなんて、オレも大概都合のいいやつかもしれねぇな・・・。
タオルあるか?と泉に言われたドアを開ける前に聞いて、泉がロッカーから出してきたのを、サンキュ、と受け取る。
「もし、ケネスがドアの外で待ってたらどうするんだ?」
と泉が聞いてきたのに、それはねーだろ、とぞんざいに返事をしてシャワー室の扉を閉めた。


髪を十分乾かして、泉の執務室から出て八王子に帰ろうとした時に、エレベーターホールにケンがいるのに藤丸は心臓が止まりそうにびっくりした。
「ケン、誰か待ってんのか?」
すぐに話しかけて来る藤丸に、ケンは長く座っていた椅子から立ち上がり、彼を優しく抱きしめる。
「ケン、連絡してくれれば、赤銅隊長との用は早く切り上げたのに・・・・・・。」
彼の様子に、きっと自分が出てくるのを待っていたんだ、と察して藤丸はケンの背中に手を回す。
すぐに抱いた手をほどいて、ケンは藤丸の目を見て言った。
「お前とちゃんと話をしたかったんだ。」
ケンの目は優しいが、何を聞きたいのか感づいて藤丸の心はギクッとする。
「今日は八王子まで送ってやる。」
と背中に回された彼の手を外す。
ーオレ、ケンの誠意に応えられているんだろうか・・・
ケンの言葉に、うん、と嬉しそうに答える自分と、自分はケンをごまかしながら側にいられるんだろうかと思う気持ちと同時に浮かび、
泉に対するのとは別の、複雑な気持ちでエレベーターに乗り都庁の建物から出たのだった。


いつもの通りケンの区長用ヴァンの助手席に乗り、バイクはまたトラックに預けて、東京都庁から郊外へ伸びる道路を、どんどん走りすぎて行く。
見慣れた新宿特区のきちんと整備された地区を抜けると、周りの景色はすぐに隕石墜落後からまだ十分に立ち直れていない、荒れ果てたままの建物の残骸がずっと続いていた。
「何を話していたんだ?」
新宿を抜けて、大分たってケンが口を開いた。
「ん?」
と腕を組んで、じっと窓から外を見ていた藤丸が、ケンの方へ目を向ける。
「複雑な話をしてたんだろう?」
「ああ・・・、ちょっとな。」
ー内容、言わなきゃだめか?
はぁ、、とため息をついて、どんな話ならケンも納得するか少し考える。
「やっぱり、赤銅隊長から無理難題を押し付けられてるんだろう?」
「ああ、、、まぁ・・・・。」
ー無理難題にはちげぇねぇよな。
ケンにその中身を言う訳にはいかないが。
「それとも、本当は話なんて全然なかったんじゃないか?」
「えっ!?」
ギクッとしてケンの方に身体を向けた。
「隊長とヤッてたんじゃないかって、天城屋は言ってたぞ。」
「はぁ?ど、どうすれば、あの人とそんなことできるってんだよ!やっぱ頭おかしいぜ、あのイカレ眼鏡。」
思わずすらすらと、天城屋の悪口が出てきて、ふっとケンが笑う。
ー俺も現場を見てなければ、笑い飛ばせてたんだが。
この場合は、天城屋について行って良かったんだか、見ない方が良かったのか、
ーいや、知らなくていい、という事はないな。
髪がとけて、軍服の上着が乱れていて、顔の表情がどことなく気だるげに赤みを帯び、しかも赤銅隊長とソファで向き合って、
こちらにきちんと身体を向けない、と状況証拠だけでも、藤丸を問いつめるのには十分なのだが。
しかし、この前思い切ってずっと心の奥底にあった、もしかしたら一生言えないかもしれなかった気持ちを彼に言ってせっかく受け入れられたのに、
あきらかに気まずくなる話題を早々に二人で話したくはなかった。
ー少し、時間をおくか。
時間が解決するという事もある。そして、少なくとも、今までの彼との付き合いからすぐに自分から離れるという事はないだろうと思った。
「藤丸。」
「ん?」
さっきの答えでケンが笑った事で安心したのか、最初の考え込む様子は消えていた。
「一個だけ、約束してくれ。」
「何だよ?」
ケンがこんな風に自分に真剣に約束事を頼むのは初めてかもしれないと思い、藤丸の表情が少し動いた。
ヴァンの窓にかけていた手を、自分の膝の上に戻す。
「俺に嘘は言わないと、約束してくれないか?」
「え?」
車の外を過ぎ去るディストピアの景色を目にしながら、ケンは言葉を続ける。
「言えない事があるのはいい。でも、嘘は言わないでくれ。」
「オレ、ケンに嘘はいった事ねぇぜ。」
藤丸が外の景色を見ながら、ケンの目を見ずに言った。
「分かってる。でも、これからもずっとお前の言葉を信じていたいからな。」
“ Because you are all the matter to me.”
と藤丸に聞かせるでもなく呟く。
目の端で彼の表情を見ようとしたが、その顔は窓の外に向けられ、確かめる事はできなかった。




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