家に着くとセフィロスは普通にソファに座ってくつろいでいた。
「セフィ、会社に帰らないのか。」
ヴィンセントがちらりと時計を見ながら乳児をベッドに戻して、諭すように言う。
「俺はお前の事件を手伝うことにしたんだ。」
セフィロスがヴィンセントの方を見てさらりと言うと、ほんと!とルクレツィアが嬉しそうにセフィロスを見た。
「ルクレツィア?」
ヴィンセントが彼女に意外そうに言う。
「だって、この人強そうなんだもん!」
とニコニコ笑って言った。
「セフィ、勝手に人の案件を手伝うとか手伝わないとか決めるんじゃない。
大体お前は自分の仕事がちゃんとあるだろ。」
ヴィンセントはセフィロスを家から追い出そうと試みつつ釘を差した。
「大体、特に今重要案件はない。
書類だって、全部秘書に任せられるレベルだし、訓練だってザックスにやってもらえばOKだ。
それよりも、最近お前とまともに話もできないじゃないか。
俺の面倒見役ってっていうお前の仕事さぼってるだろ。」
一気に言いたいことを口から出して、セフィロスはヴィンセントの様子を見る。
「それはセフィが仕事で今の位置に慣れる迄の限定で・・・もう大分慣れたろ。」
そんな話聞いてないぞ、とセフィロスが言い返すと、話が大分それた上に自分が入ってないのが分かったのか、ルクレツィアがヴィンセントの腕を引っ張った。
「私ヴィンセントとこの人に、お母さんを殺した犯人を捕まえて欲しいの。」
ルクレツィアを見るヴィンセントの目がちょっと迷ったのを見取って、
「多分、この子供大人の男が怖いんだと思うぞ。
それが何に係わってくるのかは分からないが、もし重要な事実を知っているのなら、俺たちみたいなのが守ってやらないと、狙われた時にどうするんだ?」
セフィロスが話を強引に事件へつなげる。
「・・・どうしても手伝いたいわけ?」
ソファの背に寄り掛かって、半分あきらめた感じで念のために聞く。
「ここで断わって、このガキががっかりしたらお前どうフォローするんだ?」
セフィロスと彼を期待に満ちた目で見るルクレツィアに、ヴィンセントは二人にはめられた気がしたが、今は犯人逮捕が優先事項だと思い直した。
ため息が自然に出てきたが、セフィロスに事件の概要を話す為と、ついでにルクレツィアから話を引き出せたらと思い、整理しつつ今までの経緯を再び整理することになった。
「私も当初から関わっていた訳ではないんだ。」
ヴィンセントが前置きをして最初と思われる事件から話し始めた。
一人目の被害者が出たのは1年程前で、普通に通り魔事件かと思われる状況で殺害されていた。
「最初の事件は、ミッドガル版切り裂きジャックかと捜査本部では言われてたんだ。」
ふーん、とセフィロスが事件の資料を見る。
被害者は娼婦だった。
彼女のような職業の人々が夜になると集る通りで、まんまと客を拾ってホテルに行こうとしたらしいが、路地に連れ込まれ、商売をした後にあっさりと殺されていた。
「犯人はやることやって帰ったわけだ。」
セフィロスの言葉に、
「なにやったの?」
ルクレツィアが聞いてくる。
「あとでちゃんと説明するから。」
ヴィンセントが、はぁ〜と余計な手間が増えた感じでルクレツィアに言った。
「盗難品・・・タロットカード?」
書類を見てセフィロスが訝し気な顔をする。
「被害者は占いも時々やってたんだ。それに使っていたものらしい。」
「盗む必要のあるものか?」
「どうだか・・・」
ヴィンセントは急いで説明するから、次の事件な、と話を進めた。
二番目の被害者はそれから2ヶ月たった時だった。あまりに間が空いていたので当初は連続殺人事件とは認識されずに、別々に捜査本部がおかれていた。
「上品な老婦人だ。自分の家で殺されていたので、当初は物取りの犯行かと思われていた。」
彼女の家はヴィンセントの家ぐらい大きいもので、邸内に入るのにわざわざ外からの侵入者と分かるように外側から窓ガラスが壊されていた。
「現金と金目のものが同時にかなり持ち去られてて、物取りか恨みの線かと思われていた。彼女の夫の職業が裏家業だったのでその恨みの線が挙がったわけだが・・・。」
でも、彼女の夫が死んでから既に5年以上なので、タイミングとしては疑わしいが、
とヴィンセントが付け加えた。
「この家からはずいぶんいろんなものが盗まれてるけど・・・衣類が持ち出されてるのはなんでだ?」
セフィロスが聞くのをヴィンセントはちらっと、ルクレツィアを見て言った。
「衣類と言うか、・・・婦人の下着だ。他の衣類は手付かずだったそうだ。」
「・・・・・・変態っぽいな。」
「もちろん、当時は色々荒らされてたから分からなかったんだが、」
物取りの線にしては明らかに金目のものが残っていたりしたので、盗難品を整理してみたら・・・とういうわけだ、とヴィンセントが言った。
「ちなみにさあ、ヴィンはもういい年じゃないか。」
セフィロスはソファに背をもたせかけて、彼をじっと見た。
何を言い出すのかと思い、話を中断する。
「同い年の女の方が、自分の見かけの年令の女よりも魅力的に見えたりするわけ?」
ヴィンセントはセフィロスをちらりと見て、次の事件な、とマル無視して話を続けた。
ーへぇ・・・そんな反応するわけ。
セフィロスは面白そうにヴィンセントの横顔を見た後、ルクレツィアを見たら目がばっちり合ってしまった。
「あなた、なんて名前なの?」
彼女が聞いてくる。
「セフィロス。」
「よろしくね。セフィロス。」
ルクレツィアがにっこり笑った表情は、何となく自分の奥に眠るちょっとこそばゆいような記憶を呼び覚まして、微妙に落ち着かなくなったセフィロスだった。
「三番目の事件は老女殺しから一週間後に起こった。」
ヴィンセントは中身を確認する為に、書類を手に取った。
窓の外は既に日が落ちて、オレンジ色の夕焼けがきれいに空を覆っている。
屋敷の外はきっとルクレツィアぐらいの子供がもう帰る時間だろう。
通りに面していればその様子が分かるのだが、ヴァレンタイン家はあまりに敷地が広いので通りの人間の声も聞こえずに、空の色と人がいると醸し出される空気でその様子が分かるだけだった。
「今度は大学生。」
ヴィンセントが資料を確認する。
「殺された老女とつながりがあった。」
淡々と資料に目を通しながら事件を説明していくヴィンセントの声を聞きつつ、セフィロスは頭の半分で考え事をしていた。
ーあのガキをどうするんだろうな。
もちろん、さっきセフィロスに大胆不敵に名前を聞いた女の子のことである。
「老女とは、大学がボランティアサークルとして認定している活動で交流があった。」
ーどうみても俺の母親のルクレツィアと似てそうだぞ。
「大学生と老女はサークルのつながりで会ってから、家が近所だったのでそれなりに付き合いはあったようだ。」
ーヴィンは年を取らないわけだろ・・・見かけはな・・・。
「大学生は学校の駐車場で殺されているのを発見された。車に乗ろうとしたところかもしれない。」
ー待つ気なのかな・・・
セフィロスが顎に手を当てて、考え込んだ時にヴィンセントが声をかけた。
「セフィ、大学生はどこで殺されたと思う?」
「へ?」
「私の説明を聞いていたのか?」
ヴィンセントがセフィロスを呆れた顔で見ると、ルクレツィアもちょっとため息をついた。
「聞いてなかった訳じゃないぞ。」
慌てた様子を押し隠してセフィロスが言う。
「ふーん。」
ヴィンセントが意地悪そうな表情をした。
「とりあえず全部聞かないと分からないだろう。」
「なるほど。」
ヴィンセントが、どうだか、という顔をして口を閉じると、ルクレツィアが替わりに口を開いた。
「セフィロス、聞いてなかったわよ。だって、目があさっての方向いてたもん。」
「だってさ。」
ヴィンセントがルクレツィアの言葉を引き取って、微笑みながら言った。
「真剣に取り組まないんだったら、ルクレツィアの推薦も無くなるぞ。」
そうよ、とルクレツィアが言ってちょっと威張った。
ーこのガキ、苦手だ・・・
分かったよ、聞いてませんでした、とセフィロスは降参してヴィンセントが又第三の事件から話を繰り返した。