朝の光が顔にかかって目をさましたヴィンセントは、洋服のままベッドに横になっていたのに気付いた。
ルクレツィアは安らかに眠っている。
眠っている顔は山の奥の祠でクリスタルに眠っているルクレツィアにそっくりだ。
ヴィンセントは彼女の顔を飽きる程見てから、ゆっくり起き上がって彼女の額にキスをした。
ー似てるっていわれるとさらにそんな気になってくるな。
自分でも危ないと思いつつ、彼女の頭をなでて時計を確認する。
ー7時だ。
そろそろ学校とかにも行かせないといけないのに、と何となく親らしい心配が思い付いてくる。
ー茶髪のセフィを見た時も焦ったけど、こんなまんまだと・・・
ちょっと自分がドキドキしているのが分かって、冷静にと言い聞かせてベッドから抜け出して朝の支度に取りかかった。
今日は特に出かける用事もなかったので、ゆっくりと家にいて事件の情報整理をすることになる。
7時半頃にルクレツィアが起きてきて、一緒に朝食を取った。
「ルクレツィア、そろそろ学校に行きたくないか?」
ヴィンセントが話しかける。
彼女はヴィンセントの顔を不思議そうに見つめていた。
「いや、ルクレツィアぐらいの年の子はみんな学校に行っているから。」
何となく焦って、言い訳をしてしまうヴィンセントだった。
「ここにいると迷惑?」
「いや、好きなだけいていいけど。」
言ってしまった後、甘過ぎて保護者失格かも、と反省してしまう。
ーなんか、マリンとかだとうまい具合に言えるんだが・・・。
私はこの顔に弱いのか?と自問自答してしまうヴィンセントだった。
朝食の片づけが終わり、乳児にミルクをあげてから、居間でPCを開いて仕事を始める。
隣ではルクレツィアが本を読み始めた。
おとなしい子で、ここに来てからはめったに外では遊ばない。
ーまあ、事件の後遺症かもしれないけど・・・。ルクレツィアはもっと明るくて積極的な感じの女性だったな。
別に比べるわけではないが、顔を見ていると何となく思い出してしまう。
昨日の資料と突き合わせながら、現状を整理していった。
1.今までの被害者は合計四人。全て女性。年令20〜60迄。居住区域は全員ミッドガル都市部。殺害場所も同上。一人だけミッドガルからの下り列車に乗車中に殺害されている。
2.殺害方法は全てナイフによる。致命傷は全事件共通で心臓に達した裂傷。相手に抵抗した後がある場合とない場合がある。どちらの場合も余計な外傷は少なく、致命傷のみが深く残っている。
ーこの辺が精神錯乱しているプロファイリングの被疑者と一致しないんだよな。
こんな正確な外傷が残っている殺人は意識が明確じゃないと難しいし、もしかしたら外科知識がないと正確に心臓の場所は突けない気が・・・
疑問点を警察署で受け取った打ち合わせ資料に書き込んで、次に進む。
3.被害者の自宅では殺害前になんらかの形で所持品が盗まれている。それは時計や宝石のような高価なものから、衣類などの日常品迄様々。共通しているのは全て被害者が大切にしているものだったこと。
ーこんなつながりの無さそうな女性の大切なものが一つ一つ分かるなんて、ストーカーか全員の関係者だよなぁ。
被害者の写真を見たが、誰もが美人と言えるような人から十人並みの女性迄特徴もばらばらで一概に言えなかった。
ー何が共通する事項なんだ?
ルクレツィアが寄って来たので、ヴィンセントは彼女の母親以外の写真を全部並べてみせた。
「知っている人はいるかい?」
彼女は興味深そうに一人ずつ顔を見ていったが、首を横に振った。
ー家族間のつながりもないのか?
まあそれはルクレツィアが本調子になるまで保留だな、と結論を伸ばした。
「お昼は外で食べる?」
ヴィンセントがルクレツィアに言うと、嬉しそうに頷いた。


セフィロスが14時過ぎ頃ヴァレンタイン家の扉を叩くと誰もいないようだった。
ーこんな時間にどこに行ってるんだ?
そういうあなたは仕事をさぼっているんじゃないんでしょうか・・・(by筆者)
しょうがないな、と携帯を取り出すと警察官がこっちに来るのが見えた。
目礼をすると、向こうも敬礼をしてきて、
「ヴァレンタインさんはいないんですか。」
と聞いてきた。
セフィロスは頷いて、電話をかけてみたが留守電になってしまった。
「そんな遠くに行っているはずはないんだが。」
とセフィロスがきっとガキンチョ連れてるから、公園とかだな、と当たりをつける。
「失礼ですが、あなたは被害者の血縁の方ですか?」
ーえっ?
警察官に聞かれてちょっと驚いた顔をしたセフィロスだが、
「多分関係ないと思うが。」
と答えた。
「すみません、失礼しました。あまりにヴァレンタインさんが引き取った女の子に似ているので。」
良かったら、ヴィンがいるところを探すから一緒に来るか?と聞くと、30分程度ならと答えが返ってきた。
ーヴィンが俺似のガキを引き取ったってことは・・・
セフィロスはちょっとその意味を考えてみたが、何となく嫌な可能性に突き当たった気がした。

近くの遊歩道にはいなかったので、ミッドガル中央公園へ向かう。
公園はミッドガル全体から見ると、会社のビルのちょうど対角線上に位置してしていて、ビルの方がビジネス街とすると、公園側は遊歩道や美術館など文化と憩いのエリアになっていた。
ミッドガル中央公園はちょうどそのエリアの中心に位置し、そこからはエリア内のどのスポットにも等間隔で移動できるようになっている。
また観光や散策に疲れた人たちがその公園でひと休みできるように、気持ちの良い芝生が植え込まれ、ベンチがちょうどよい間隔で据え付けられていた。
木々がうっそうと生い茂った入り口から大分中の方へ進んで芝生の野原に出ると、
ー馴染んでる・・・
親子連れに混じってヴィンセントが乳児を抱えて芝生に座っていた。
警察官は安心したように彼に近寄って行った。
「あっ、すみません。尋ねてもらったのに留守で。」
ヴィンセントが警察官に気付いて声をかける。
「いえ、いらっしゃらなかったらすぐ帰ろうと思ったのですが、彼が一緒に探してくれると言うので。」
ヴィンセントが目線を移すとセフィロスがいた。
「セフィ!会社は!」
「言っとくけど、さぼってないからな。」
前科があるのでちゃんと秘書に仕事は任せてきた、と言って会社の携帯も電源が入っているのを見せた。
「あんまり心配させるなよ。」
ヴィンセントが安心して、警察官に今日は何か?と話し掛けた。
「いえ、ルクレツィアちゃんの様子がどうかと思って。」
もし話を聞けたらと来てみたのですがと言うと、呼んできます、とヴィンセントが乳児を抱いて彼女を探しに行った。
ーあいつ、絶対今の職場首になっても保父さんになれるな。
これが合コンの女の理想像だったら笑ってやる、と思いつつ今度こそあのガキの顔を見てやろうとヴィンセントが来るのを待つセフィロスだった。
ヴィンセントがルクレツィアを連れてくると、セフィロスはその顔を見て何で会った時に気付かなかったんだろうな、と思った。
ー俺がガキの時と同じじゃん。髪がくせ毛で栗色なだけで。
無意識下で情報の受信を拒否してたのか、と思いながら警察官がルクレツィアに話し掛ける様子を観察していた。
ーヴィンといる時と大分違うな。
ヴィンセントと一緒に来た時はかなり楽し気だったルクレツィアは、警察官の質問を受けたとたんに口数が少なくなり最後の方は全然答えなくなってしまった。
「まだ、本調子じゃないんです。学校にも行けないし。」
ヴィンセントの言葉に
「すみません、私も焦りすぎているのかもしれません。」
と警察官が謝って慌てて公園を去っていった。
少し日が傾いていると思うと、時計は16時近くを差していて、かなり公園内の人は閑散としてきている。
警察官がいなくなったのを確認して、セフィロスが近付いてきた。
「このガキ人見知り激しいのか?」
「いやどうだろう?ティファは大丈夫だったけど。」
「俺は全然大丈夫だったぞ。」
「だって、セフィは・・・」
言いかけて口を閉じた。
「何だよ。どう見ても俺とその子供は血縁関係がありそうじゃないか?」
「う〜ん、血縁はあるけどすっごい薄いぞ。」
言い淀むヴィンセントにはっきり聞いた。
「分かるように言えよ。あるのか?」
セフィロスの問いに、お前の母親の妹の孫だというと、似てる訳はあるんだなと答えた。
「で、この子供を引き取った動機は何だよ。」
「ただ・・・、こんな事件があったので、私の所にいて落ち着けたらと思っただけだ。」
ヴィンセントは言葉に詰まりつつ、なんとか答えていた。
ーこれ以上問いつめられたら、自分でも理由を説明出来るか分からない・・・
それを察したかどうかは分からないが、セフィロスは何も言わずにお前の家に帰るぞ、と言って公園を出ようとしていた。


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