「お前、何手間取ってたわけ?」
セフィロスがコートハンガーに上着を掛けているヴィンセントに話し掛ける。
彼が答える前に、
「ヴィンセント、おやすみなさい。」
と割り込んできたルクレツィアの方に顔を向けて、寝室へ連れて行った。
一人残されて、手持ち無沙汰にソファで彼を待つセフィロス。
ー一体なんなんだよあの子供は・・・
ティファがごちゃごちゃ言っていたが、流していたので全然頭には残っていない。
暫くすると、彼女を寝かし付けてきたらしく、ヴィンセントが帰ってきた。
「今日はごめんな。」
ザックスに誘われてたのすっかり忘れてて・・・とセフィロスの隣に座って申し訳無さそうに顔を見る。
「俺が怒ってたらなんかあるのか?」
セフィロスが不機嫌そうに見えるようにヴィンセントを見た。
「いや・・・何かして欲しいこととかあれば。」
少し笑って言う様子は、いつもの彼よりは積極的だ。
「して欲しいことって、言うよりは・・・」
すぐ隣にある彼の唇を素早く塞いで、そのまま流れるようにソファに倒し、シャツのボタンに手をかけた。
「セフィっ、違っくて!」
セフィロスの口付けに急いで抵抗して、ヴィンセントはなんとか彼を自分の上からどけた。
不満そうなセフィロスと目をあわせる。
「そう言う意味じゃ無いんだ。今コーヒー飲みたいとか、まあセフィが私に何を普段して欲しいことでもいいけど・・・」
なるほど、と相づちを打つセフィロスとの距離を目測して距離をとっているのが、ちょっと彼を楽しませる。
「だったら、毎朝俺のオフィスに来てくれておはようのキスしてくれるとか、週末の予定を俺優先に立ててくれるとか、・・・」
それとか、月に一回は俺の家に泊まってくれるか旅行に一緒に行くとか、あっ思いきって秘書になってくれるっていうのも・・・際限なく言い始めたのでヴィンセントは、ちょっと待った、とセリフを止めた。
「セフィ、私を便利屋かなんかと誤解して無いか?」
文句を言うヴィンセントに、
「便利屋じゃ無い。恋人になって欲しいだけだ。」
と身体に手を這わせる。
秘書になるのと恋人は違うだろ、言われながら這わせた手を掴まれる。
めげずに、彼を優しく説得しようと身を寄せていった。
「セフィ、私が愛しているのはルクレツィアなんだ。」
しっかりとセフィロスの目を見て言いながら、ヴィンセントはまだ掴んでいる彼の手を微妙にねじった。
「いてっ・・・はいはい、分かってるよ。」
まったくガードが固いんだから、とおとなしく手を離してから彼の顔を覗き込んだ。
「大体30年近くもそのことを言い続けていると、そんなのお前の一部みたいなもんじゃないか。」
一人の女をいつまでもうだうだと思い続けるなんて俺には到底想像もつかないぜ、とセフィロスがソファの背に寄り掛かる。
それが私なんだよ、と言い返されるのを流して、ちょっとソファの背から身をそらせると、女の子が居間に出て来るのが見えた。
「おい。」
とヴィンセントに声をかけて彼女の方を目で合図する。
ヴィンセントがすぐに立って、女の子の方へ寄って行った。
「どうしたの?」
「怖くて眠れない。」
すがるように見つめるルクレツィアに思わず、一緒に眠るかい?、と聞くとこくりと頷いた。
「セフィ、ほんとにごめん。この埋め合わせはそのうちするから。」
ヴィンセントはセフィロスに声をかけて、ルクレツィアの部屋に行ってしまった。
ーほんとに変だよな。いつもは不愛想過ぎるくらいなのにさぁ。っていうか調子狂うっていうか・・・
セフィロスは暫くソファに座って泊まろうかどうしようか迷っていたが、ヴィンも相手をしてくれないことだし、と諦めて寮に帰ることにした。


次の日いつも通り会社に行ったセフィロスはデスクに座ったが、書類の山を見るとやる気が失せてきた。
ー俺は実地調査の男だぞ。いつまでもこんなオフィスにいられるか。
あっさり書類を秘書に任せる、と言いおいてザックスのいる場所へ移動した。
ザックスは今日は新人の訓練を担当している。
セフィロスは面白そうに戸口の隙間から様子を見ていたが、そろそろ昼休みの時刻かと思われるところで姿を現した。
新人達がセフィロスさんだ・・・とどよめくのをザックスは、まただ・・・と苦笑する。
セフィロスは社内外で有名人だ。そうするようにしむけた広報部の戦略もあるのだが、彼の整った容姿と目立つ様子は格好の宣伝材料なのだ。
ザックスも彼がちらりと姿を見せるポスターを見たことがあるが、一瞬セレブかと思われる感じでうちの組織のイメージキャラクター然としている。
(まあ、組織とセフィロスの実体からは程遠いイメージだが・・・(笑))
非の打どころのない美男で、しかも長く輝く銀髪という特徴を持っていればどこにいても目立つのは当然なのだが・・・。
組織内の広報活動でも取り上げられることが多く、組織員の士気を盛り上げる時は必ず呼ばれて出席していた。
ーしっかし、人気者だよな。まあいつものことながらしょうがないか。
セフィロスは新人に声をかけながら、ザックスに今日ちょっと聞きたいことがある、と自分のオフィスに来るように言う。
「旦那、俺すごい腹減ってるんだけどさぁ。」
ザックスが文句を言うので、近くのトンカツ屋に連れて行くことにした。
昨日とは打って変わって、男だらけでとてもお洒落ともきれいとも言えない店構えの所だ。
実行部隊の面々も何人かいて、セフィロスに挨拶をしていた。
「しっかし、あの黒髪美形さんはかなりもてるねぇ。」
目の前に水が置かれて落ち着くと、ザックスは話のネタにでもと昨日の話を始めた。
「来たとたんに合コンの女の子の注目の的だ。メアドをかなり聞かれてたけど、分からないとか言って受けてたぞ。」
ああやってメカ音痴になるのも手なのかなぁ・・・と呟く。
「あいつは天然でメカ音痴だ。」
セフィロスが不機嫌そうに即答した。
「っていうかお前なんでヴィンを誘ったんだよ。」
「だって、旦那が行けないって言うから。」
「お前・・・」
セフィロスが怖い顔で睨み付けるのを、落ち着けよと、なだめた。
「あの美形はいい人だな。何も言わずにOKしてくれたぞ。」
美形言うな、ヴィンセントだ、とセフィロスが言い返す。
「しかも、なんか電話をした後子供を預かっているから、とさっさと帰って行ったのも好感触だったらしい。」
「・・・」
ーそれってあのガキンチョのことか。
セフィロスはあまり顔は覚えていないが、何となく態度の堂々とした女の子供のことを思い出していた。
「最近はあーいうフェロモンありありな感じで、女子供を大事にするタイプがモテルんかなぁ。」
俺みたいなさわやか系はまねするのが難しいぜ、と合コンの達人っぽく分析していた。
「そんな人気だったのか?」
セフィロスが昼飯を食べるのも忘れて聞く。
「そーいや旦那はヴィンセントのファンだったな。」
「ファンじゃない。」
まったく変な女ども一緒にするな、と呟いた。
「っていうか最近暇でしょうがない。」
「書類は毎日いっぱいあるだろ。」
ザックスが旦那に仕事がないはずがない、と言う。
「書類じゃ退屈だ。秘書でもできるから任せてきた。」
あっそう、秘書がいる奴はいいよなとザックスが返す。
「ヴィンの事件でも手伝おうかな。」
おい、上司が仕事さぼってどうする!と突っ込むザックス。
「だから、秘書がやってくれてるって。」
「お前自身が必要な時にどうするんだ。」
「電話は繋がるようにしておくさ。」
というわけで、お前いざって時は頼むな、とにやりと笑う。
その様子は、年少時のセフィロスはこうだったんじゃ、と思わせるいたずらっぽい感じで、思わずザックスは断わるタイミングを逃した。
「まあ、セフィロスの言うことなら喜んで聞いてやるけどよ。」
まったく手間のかかる上司だぜ、と照れ隠しにえらそうに椅子にふんぞり返った。
「クラウドとか暇そうか?何もなかったら使いたいんだが。」
セフィロスが急いでキャベツを食べ終わろうとしながら聞いてきた。
「うーん。俺じゃわかんないな。直接聞いてくれ。」
わかった、と答えて退屈なオフィスに戻るセフィロスだった。


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