「で、旦那〜。少しは合コンのネタになりそうな話を提供してくれよ〜。」
やっと戻ったミッドガルのいつものデスクで書類を片付けるセフィロスに、ザックスがねだっていた。
「だから言っただろ。一卵性の双子がいて、一人が警官で、もう一人と適宜入れ代わって警察記録を改ざんしながらあの事件を起こしていたんだよ。」
「そんなのクラウドだって知ってるよ!もっとレアな情報はないわけ?旦那の留守を立派に守っていたんだから、少しはあってもいいと思うけど〜。」
ー殺人の動機は、ES細胞のクローン実験終了で検体の後始末だったとか、担当医師の処理まで計画に入っていたとか言えるかよ!!
セフィロスが静かに席を立って、書類を片手に部屋を出ようとする。
「ちょっ、・・・旦那、もしかしてヴィンセントのとこに行くの?」
「・・・・・・会議だ!」
一喝してザックスを部屋から出したセフィロス様。
あきらめた様子のザックスが部屋から離れていくのを確認してから、セフィロスは会議室に行く振りをしてくるりと向きを変え調査部へ向かった。


天井近くのガラス張りの窓から、太陽光が降り注ぐ。
新羅カンパニーのビルは昼間の太陽を照らしてキラキラ光っていた。
その最上階ではルーファウスとツォンがヴィンセントの話を聞いていた。
「最終的には御社の資料をお借りするまでもなく解決したので大丈夫だったのですが、まだ気がかりな点があるので・・・。」
ヴィンセントが例のファイルの写しを見せながら説明する。
「随分奇妙な事件だな。」
ルーファウスが呟いた。
「偶然が重なったにしては、その屋敷のお嬢さんを脅すのにかなり手が込んでいますね。」
ツォンも同感だったようだ。
「彼女を襲ったのは本意ではなかったようです。要するに過去の取りこぼしの資料を収集できれば良かったわけで、彼女が資料の中身と研究の執筆者を見て渡すのを渋ったのが原因でしょう。」
ヴィンセントが資料を繰ると、ある研究報告の資料に屋敷のお嬢さんの父親の署名があった。
「多分、自分の父親に関係があったのが原因と・・・」
2、3ページめくると論文の執筆者にガスト・ファミレスの名前が見えた。
「で、ただ資料を返しに来た割にこんな話をするなんて、何かあるんだろう。」
その論文のタイトルと執筆者をちら見して、社長が促す。
「はい。というか・・・本当は新羅カンパニーの資料をお借りしたくてきたのですが。」
「目的によるな。」
ツォンが口をはさむ前にルーファウスが即答した。
「この研究には関係者が多くて、被験者は特殊な遺伝病を持った人ばかりでした。しかも、この研究は結果的に失敗してます。」
ヴィンセントは二人に資料の最後にある、実験失敗により研究終了の書面を見せた。
「でも、今頃事後処理を始めた訳と、」
ヴィンセントがファイルをぱらぱらとめくり、宝条の名前がある論文を示す。
「宝条も、係わっていたのか。・・・さもありなんだな。」
ルーファウスがふふん、と笑って資料から目を離した。
「宝条はこの資料によるとオフィシャルにはすぐに退いていますが、本当はいつまで係わっていたかは未知数です。」
ヴィンセントが広げた資料をツォンも覗き込んでいた。
「もしかしたら、うちの古い資料に関係した報告書があるかもしれないな。」
ルーファウスがさらりと言う。
「それを見せて頂きたいのと、あと関係者の子供が生きているので保護に協力して欲しいのです。」
「それは誰ですか?」
ツォンが聞く。
ヴィンセントは少しファイルのページをめくって、ルクレツィア・クレシェントの署名がある論文とミッドガルでおこった事件のファイルを新しく出した。
「かなり血縁としては遠いのですが、今回の事件で彼女の妹の娘が殺されています。しかも現場にいた子供二人は何故か生きていました。」
「なぜ生かしたのか分からないし、いつ標的になるか使われるかもしれないということか。」
ツォンの言葉にヴィンセントが頷いた。
「ヴィンセント、事件についてもう少し詳しく話して欲しいんだが。」
ルーファウスが言う。
「証拠が少ないので、カなりの憶測と私の主観が入っても良ければ。」
「その憶測があった方が分かりやすい。」
ルーファウスが促したので、ヴィンセントは小さいルクレツィアと不審な尾行のことも含めて話を始めた。
「でもティファ。俺まだわかんないんだよね。」
クラウドが自席でランチ中のティファに言った。
「何が?」
マリンとデンゼルにも持たせているのと同じメニューのお弁当を食べながら、ティファが相づちを打つ。
「あっ、その卵焼きちょうだい。」
ティファのどうぞ、と言う言葉と同時にランチボックスから摘んでもぐもぐ食べる。
「お嬢さんがさぁ、なんか過去の書類をあの屋敷から見つけだして、公開しようとして襲われたのはわかるけど・・・。」
もう一個、とティファの弁当箱から摘む様子に今度クラウドの分も作ってあげようか?、と言われて大喜びする。
「何でお嬢さんが誰もいない密室でけがしちゃったのかと、逃げた犯人が廊下で消えちゃった訳が全然わからん。」
「そうね。・・・私もわかんないんだ。ヴィンセントに聞いたら教えてくれるかもしれないけど。」
「聞いてないのか?」
クラウドがびっくりして、聞き返す。
「だって、クラウドは一番身近なセフィロスに聞ける?」
「きっ・・・聞ける訳ないだろ!」
「ほら!そうでしょ。」
「でもさぁ、ザックスが何か知ってそうでにやにやしてるから、むかつくんだよ・・・。っていうか、ティファ知りたくない訳?」
クラウドが不満そうに頬を膨らませた。
ーそんなに気になるならセフィロスかザックスに聞けばいいのに・・・
残りのお弁当をつつきながら、ティファは内心呟く。
「でも、何かあったら絶対最初に声かけてくれるわよ。だって、私達あの事件の関係者じゃない。」
フォローするようなティファの言葉に、そうだよね、とクラウドが安心したように返して席を立とうとする。
昼食時間終了のベルが社内を響き渡って、二人とも仕事に戻っていった。
「で、ヴィンセント。何であなたいきなり扶養家族申請の書類出してるんですか?」
例の事件から新羅カンパニーに出向いた一週間後、リーブに言われて思わず目を反らすヴィンセントがいた。
「いや・・・その。ちゃんとした方がいいかと。」
リーブが持っている書類には、ヴィンセントの名前ともう一つ女の子の名前が書いてある。
「何でこんなことになったんですか?」
困った顔をするヴィンセントを楽しそうに見るリーブ。
「別に、そんな大した経緯がある訳では・・・。」
「引き取ってくれる叔母さんがいるのに、経緯がない訳無いのでは?」
「・・・・・・」
例の屋敷から帰った時、バレットの所からルクレツィアを叔母さんの家に送ろうとすると、彼女がこの上もない不安そうな顔をしたのを見て思わず
「うちの子になるかい?」
と口をすべらせていた。
「いいの!?」
言った瞬間にしまった、と思ったが、ぱっと明るくなった顔が昔の思い出とダブってしまって、それ以上彼女を突き放すことは無理だった。
「ちゃんとルクレツィアちゃんの叔母さんには、話したんでしょうね。」
「話した。でも返事はまだ・・・。」
ー扶養家族申請する前に、そっちが重要でしょう・・・。
どうしちゃったんでしょう?この人は・・・、とリーブが訝しく思った瞬間に、ドアがぱっと開いて、学校に行っているはずのルクレツィアが飛び込んできた。
「ルクレツィア!?」
満面の笑顔の彼女がヴィンセントに抱きついて言った。
「あのね、叔母さんにヴィンセントのうちの子になってもいいかって聞いたら、いいって返事もらったの!」
この書類にサインももらったのよ、とヴィンセントに見せる。
ー養子縁組許可の書類ですねぇ。意外にしっかりした子だ。
リーブがちらっとその書類から目を移して二人を見ると、困ったような嬉しそうなヴィンセントの表情が見えた。
「ルクレツィア、ちゃんと学校に行きなさい。私から叔母さんには挨拶に行くから。」
と注意する。
「ヴィンセントは嬉しくないの?」
とルクレツィアががっかりした顔で言うのを無視して、
「リーブ、ちょっと送ってくるから。」
と彼女の手を引いて扉を開けた。
「はいはい、いってらっしゃい。」
リーブに向かってバイバイ、と手を振るルクレツィアは、少しすまして得意げな顔が例の彼女とそっくりに見えた。
ーまさか・・・自分好みに育てるつもりじゃないですよね・・・。
ヴィンセントに限ってそれはないと思うのですが・・・と思いつつも、世の中何が起こるか分かりませんからねぇ・・・とあれこれ考えながらヴィンセントが渡した例のファイルをを見直し始める。
初秋の空が高く上がって気持ちのいい風が屋外は感じられるが、オフィスの中ではそんな空気も流れてこない。
厚いファイルを注意深く繰っているといつの間にか時間は過ぎていく。
と、ノックした音と同時にドアが開いてシドが、昼飯でもどうだ、と言ってきた。
「いいですねぇ。」
右上の時計を確認し、ぱたん、とファイルを閉じて鍵付きの引き出しにしまうとリーブは席を立った。
今日は肉食いてぇなぁ、と話している途中の廊下でセフィロスに出くわす。
「ヴィン部屋いるのか?」
リーブに目があって話し掛ける。
「ルクレツィアちゃんを学校に送っていきましたよ。」
あっそう、と通り過ぎようとする彼を思わず引き止めた。
「あなた、ライバル増えましたよ。」
「?何だよ。」
振り向いた彼に、扶養申請の書類をひらりと見せた。
「ルクレツィア・ヴァレンタイン??あいつ何考えてんだ。」
はぁ・・・とため息をつくセフィロス。
「成長した彼女はさぞかし、あなたのお母さんにそっくりになるでしょうね。」
ニコニコして、話し掛けるリーブを無視しようと顔を背けてその場を去ろうとすると、
「おい、ヴィンセントこんなことしてるのか?」
とシドが書類を脇から見ていた。
「セフィロス、これは強力な対抗馬が現れたなぁ。お前負けるんじゃないか?」
ずけずけと、口を挟むシドを苦々しく睨むセフィロス様。
「まあ、俺はお前さんの味方だけどよ。」
かかか、と笑いながら、ぽんぽん、とセフィロスの肩を叩く。
「私はちょっと頑張らないと難しいと思いますよ〜。」
面白そうに、リーブがまぜっ返す。
ー・・・勝手なこと言いやがって・・・。
肩を叩くシドと頭を撫でようとするリーブに向かって、
「・・・お前ら・・・持ち場に帰ってちゃんと仕事しろ!」
と一喝した。
怒鳴られてびっくりした二人を後に、周りに目もくれず実行部隊棟へ戻るセフィロス様。
その後、親父二人がそれをネタに楽しく四方山話に花を咲かせたのは想像に固くない。
ただ、あの屋敷にあったファイルの余韻がどう波及していくのか・・・。
実行部隊棟へ帰るセフィロスと、ルクレツィアの手を引くヴィンセントに時節ちらりと真剣な眼差しが見える。
ー実験失敗、と書いてあるのはフェイクかもしれない。
笑顔でルクレツィアを学校に送りだしたヴィンセントは、表情が引き締まる。
ーアルツハイマー以外の患者の現状はどうなっているのか・・・、クローンはもしかしてあいつ等以外いるとしたら・・・。
セフィロスは、携帯を取り出してアドレス帳を検索する。
自分がいた研究室の番号が見つかるとダイヤルして、相手が出るのを待ちながら実行部隊の廊下を進むセフィロスだった。


Back

The Hikaru Genji Methodの案内版へ