その日の夜は真相を教えろ教えろとうるさいセフィロスを部屋に閉じ込めて、ヴィンセントは一人で机に向かってメモの続きを書いていた。
ー分かったけど・・・・・・、よく分からない・・・。
ペンを脇に置いて、少し考える。
ーやっぱりあの女性の話を聞くか、一度ミッドガルに帰って調べるかしないな。
新羅カンパニーで入手できた情報も不完全なものばかりだった。
手がかりにはなったが、はっきりとその先に情報源があることを思わせるものだった。
ーやっぱり帰るか・・・。
襲われた女性は心配だが、きっとセフィロスが残っていれば何とかなるだろうし、
ーあの警官は私についてくるのか、ここに残るのか?
まあ、それはどっちでもいいことだ。
明日すぐに発とうと荷物をまとめはじめると、大きな物音がした気がした。
気になって部屋を出ると、言い合いをするような話し声が聞こえてきた。
ーまさか・・・
お嬢さんの部屋に向かう前にセフィロスの所を通ったので、ドアをノックする。
「セフィ、誰かお嬢さんの部屋にいる出てきて。」
彼が部屋から出てくるのは待たずに、屋敷のお嬢さんの部屋へ向かう。
ドアの前に来て、心を落ち着かせてノブに手をかけようとした時に、セフィロスが彼の側に待機した。
「クラウドも来る。」
頷いて、中の様子を窺う。
ーこの声・・・
ちらりとセフィロスを見て、ちょっと連絡とって、と合図する。
携帯で部屋の電話にかけたセフィロスが、
「あいついるぞ。」
と囁き声で答えた。
「クラウドは、ティファと一緒にそっちに。」
と指示を出した瞬間、
部屋の中から女性の叫び声がした。
勢いよくヴィンセントがドア開いた瞬間、すぐに灯りが消されて
ガタッ、
とものが落ちた音がした。
部屋の奥に二人で駆け込むと、窓の方から
どさっ
とものが落ちる音がする。
ヴィンセントが部屋に入った勢いのまま素早く窓から飛び下りて、落ちた物音を追い掛ける。
セフィロスも後を追おうと思った瞬間に、床の方からぼおっとじゅうたんが燃えるにおいがした。
ーろうそくでも落としたのか。
振り向くと、問題の女性が床に倒れていたので、急いで抱きかかえて火の側から離す。
下では発砲する音がした。
ーフリーズ・・・ブリザド・・・じゃ消えないな・・・
バルコニーに出て、クラウドの部屋の方向にどなる。
「火事だ!火を消せ!」
火元の辺りを抱えている女性に気を配りながら踏んでいたら、屋敷の主人と守衛さんが下から急いで登ってきた。
ティファとクラウドと警官も一緒に彼女の部屋に集ってくる。
「ぼやのうちに叩いて消せ!ティファ、万が一火が燃え広がった時の用意に水持って来い!」
二階でセフィロスの指示で火を消そうとしている時に、ヴィンセントは窓から落ちた人影に追い付いていた。
腕を掴もうとしたら抵抗され、相手が一瞬振り向いて止まった所を、素早く足を引っ掛けて地面に倒した。
しっかり、押さえ付けて
「さて、顔を見せてもらうぞ。」
とペンライトで照らす。
見た瞬間に、
「セフィ!そっち誰も逃げられないようにしろ!」
と叫んだ。
火事を消そうと混乱している中、部屋から一人さりげなくドアに向かい、出ようとしていた。
セフィロスは腕に抱いていた女性を屋敷の主人に預けて、すぐ逃走者の腕を掴んだ。
ぐっと、引き寄せて話し掛ける。
「そんなに、早くミッドガルに帰りたい理由を聞かせてもらおうか。」
連続殺人事権担当の警官が、セフィロスを憎々し気に睨み付ける。
しかし、ヴィンセントが取り押さえた人間を連れてきた時は、一同は更にびっくりすることになった。
服装は全く違うが、ヴィンセントとセフィロスが取り押さえている二人は、全く背格好も双子と言う以上に瓜二つの男性が並んでいたからだった。
「これは・・・娘に訳を聞かないといけません。」
屋敷の主人が困惑したように呟く。
ティファの腕の中にいる女性は、意識を失ってはいたが前につけられたひどい外傷は少しずつ直ってきているようで、守衛さんは一安心をしているようだった。
「君たち二人は、何か話す気はあるのかな。」
ヴィンセントが、拘束されている二人に言う。
無言の様子に
「取りあえず、今晩は二人分見張りが必要だな。」
とセフィロスが言った。
「ティファ、お嬢さんよろしく。」
ヴィンセントの言葉に彼女が頷いた後、どっちの部屋行く?と話ながらセフィロスとヴィンセントは容疑者を引き連れて、部屋を出て行った。
「あれは、何なんですか?」
クラウドが緊張がとけたのか、やっと火が消えた部屋で誰ともなく言う。
「今、思い出したが一卵性双生児、いやクローンの研究どこかでやっていた気がするが。」
屋敷の主人が呟く言葉に、クラウドが興味深そうに目を向けた。
「どっちにしても、お嬢さんを介抱するのが先よ。」
もっともなティファの言葉に、守衛さんが付き従って部屋を出て行った。
「クラウド、冷たい水と清潔なタオル!お湯もね!!」
ぼーっとしている彼に、ティファが命令する。
「は、はい!」
と飛び上がるクラウドに、
「君だけじゃどこに何があるか分からないだろう。」
と主人もついて行った。
色々用意をしながら、
「さっき少し言ってたクローン研究の話を教えて欲しいんですが。」
とクラウドが聞く。
「私も記憶だけだから何とも言えないんだが・・・」
屋敷の主人ががぽつり、ぽつりと話し始めたが、夜中の3時も過ぎてくる時間になると、ただでさえ眠い話が、クラウドには睡魔のようになって、ティファが気付くとすっかり彼は眠りに落ちていた。
「彼にはちょっと難しかったかな。銀髪の男性はかなり詳しかったが。」
と安心したのか、少し微笑みながら屋敷の主人が言う。
「すいません。せっかく分かりやすく話して頂いたのに。」
ティファが、屋敷の主人に話しながら、あくびをかみ殺した。
「あなたも疲れただろう。もう寝なさい。娘は私が見ているから。」
優しい彼の言葉に、ティファも頑張ろうと思ってはいたのだが、いつの間にか瞼が閉じていた。
「こんなことは、知る人が少ない方がいいのだから。」
不安なまなざしで娘を見つめながら呟く父親だったが、薄く窓から差し込む太陽が彼女の顔を朝の光で照らし朝を告げていた。